22 見捨てられた王都
◇◇◇
その日を境に、王都は、まるで色を無くしたように、ますます活気を失っていった。一向に降らない雨。淀んだ空気に萎れた草花。閉ざされた神殿の門の前で、ただ項を垂れる人々。
神殿は、この度の一連の災害は、女神の怒りによるものだと結論付けた。女神は、信仰心の浅い愚かな民衆に愛想を尽かし、この国に加護を与えることをやめてしまったのだと。
今、女神の愛し子である聖女が、女神の怒りを解くべく、神殿内で必死に祈りを捧げている。民衆はただ、女神の怒りが解けるのを真摯に祈るしかない。それがいつになるのかは、誰にも分からないけれど。
──全ては、女神のみぞ知る……
なぜ、我らの祈りは届かないのか……。誰もが胸の奥に、苦い想いを抱えていた。
◇◇◇
(酷いものだな……)
ユリウスは、王都各地で起こっている災害情報に頭を悩ませていた。特に魔獣による被害は深刻で、騎士団だけでなく、王都の近くで商団が襲われたり、民衆が怪我をしたりする事案が多発していた。
(騎士団の編成を見直して、王都周辺の警備を固めるとともに、地方の領主たちと連携して討伐隊を出す必要があるな……)
ユリウスが騎士団と共に作戦を練っていると、真っ青な顔をした侍従が飛び込んできた。
「殿下!大変です!リリアーヌ姫様が魔獣に襲われ、お怪我を……」
「なに!?リリアーヌがっ!?」
「侍女たちと共に湖畔を散歩してたおられた所、突然蛇型の魔物に噛まれ……その毒の影響か、目が……」
「っ……すぐに行くっ!リリアーヌはどこだっ!?」
「今、お部屋で侍医の診察を受けておられます……」
◇◇◇
ユリウスは、分厚い包帯で目を覆われたリリアーヌの姿に思わず肩を震わせた。
リリアーヌは父王と王妃が溺愛している末の姫で、今年まだ12 歳になったばかり。王女らしくなくお転婆な所もあるが、屈託の無い笑顔で明るく笑う愛らしいリリアーヌは、ユリウスにとってもかけがえのない、大切な妹だ。
「兄さま?そこにいるの?」
リリアーヌの弱々しい声に、ユリウスは慌ててその手を握る。
「ああ。ここにいる。怖かったな。もう、大丈夫だ」
「……ごめんなさい……私が湖畔をお散歩したいなんてわがまま言ったから……あの、侍女の皆を責めないでね。怪我をしたのは私のせいなの。皆は悪くないわ」
こんなときまで、自分の身よりも人の心配をしている。
「ああ。分かっている。お前が大事にしている侍女たちを、罪に問うようなことはしない」
「良かったぁ。お兄さま、ありがとう!」
「心配しないで、今は怪我を治すことだけ考えて、ゆっくりお眠り」
「はーい」
ユリウスはリリアーヌの寝室をそっと後にする。
◇◇◇
「……残念ながら、リリアーヌ様の目はこのまま失明してしまう可能性が高いでしょう……」
侍医の静かな宣告に、国王とユリウスは歯を食いしばり、王妃は泣き崩れた。
「そんな……どうして……あの子はまだ、十二歳になったばかりなのですよ……」
「非常に毒性の高い魔物です。本来なら噛まれた時点でお命も危ない状態でした。神殿秘蔵の最高級の毒消し草と薬草を使ったお陰で、一命を取り留められたのです……」
「そうか……命が助かっただけでも、感謝しないといけないな……」
そっと王妃の肩を抱く国王。
「……神殿……そうよ!神殿にいらっしゃる聖女さまにお縋りすれば!」
ぱっと顔を輝かせる王妃。しかし、侍医は静かに首を振った。
「……セシル様には、すでに依頼をしましたが……今は女神に祈るのが精一杯だそうです」
「……そう……」
聖女は女神の代弁者。いくら王族とは言え、国や民のための祈りをやめて、リリアーヌ姫のために治療をしろとは言えない。誰もが、諦めと絶望に打ちひしがれた。だが、
「あの、セシル様では無いのですが、かつての聖女候補さまに、一人心当たりが……」
「聖女候補?」
怪訝な顔をする国王。
「はい!幼い頃から神殿で聖女候補として活動してきたお方です。突然聖女になるのを辞退して領地に帰られたらしいのですが、この方ならもしかしたら……」
「して、その者の名は?」
「テレサ・ローレンス様です!」




