21 女神さまご立腹
◇◇◇
(取り敢えずそれらしくしておけばいいんでしょう)
セシルはゆったりと民衆の声援に応えたあと、女神の祭壇に向かった。女神像は神殿の礼拝堂に祀られているが、この祭壇は今回の儀式のために特別に整えられたものだ。白大理石の台座を中心に、金糸をふんだんに織り込んだ天幕と深紅の儀礼布で幾重にも飾り立てられていた。本来なら生花が供えられるべき場所には、宝石と色ガラスで作られた花飾りが並べられ、魔力によって淡い光を放っている。
甘く重たい香が焚きしめられ、儀礼用の鐘が絶え間なく鳴る中、セシルは祭壇の前で膝をつき、女神に祈りを捧げる。その瞬間、辺り一面が眩い光に包まれた。どよめく民衆たち。次の瞬間、わっと歓声に包まれた。
「おお!光だ!女神が聖女の祈りに応えたんだ!!!」
「これできっと救われるぞ!」
「セシルさま!我らの聖女さま!」
(ふふっ上手くいったわ。馬鹿な人たち。こんな子ども騙しに騙されるなんてね。呆れるわ……いえ、むしろ憐れなくらいね。どうせ、聖女なんて皆、インチキなのにね……)
セシルの指輪には光の魔法が込められており、一瞬だけ強く光ることができる。本来は、魔獣や暴漢に襲われたときのために使われる護身用のものだ。
けれど、聖力ほどではないものの、魔法を使える者もほんの一部しかいないため、庶民には奇跡のように見えるのだ。
ただ光っているだけなのに、まるでありがたいものでも見たかのように騒ぎ立てる。
(まあいいわ。これでわたくしの仕事は終わったんでしょう。王太子殿下にも聖女としてのわたくしをアピールすることができたし。聖女宮に帰ったらお風呂に入ってゆっくりしたいわ……)
バレないように、こっそりあくびを噛み殺すセシル。
けれども、セシルが立ち上がろうとしたとき、突然天から光の筋が差し込み、次の瞬間、轟音が響いた。
「きゃっ!なんなの!?」
突然の爆風に、舞い散る土埃。セシルのベールが吹き飛び、髪は乱れて埃まみれになる。
あまりに突然のできごとに、みっともなく腰を抜かしたまま、呆然とするセシル。
雲一つない空から届いた光の柱が、正確に祭壇を打ち抜き、破壊していた。
◇◇◇
「なんなのよ!だから嫌だって言ったのよ!」
聖女宮で癇癪を起こすセシルをおろおろと見守る侍女たち。贅を尽くしたお気に入りの聖女の衣装も、今は土埃のせいで薄汚れていた。
そこに若い神官たちを引き連れたバルタザールがやってきた。ぼろぼろの姿のセシルを見て、内心面白くて仕方のないバルタザール。セシルは大切な金蔓ではあるが、バルタザールに少しも敬意を払わない生意気な小娘は大嫌いだった。
「何よ!なんの用なのよ!」
早速部屋にやってきたバルタザールに噛み付くセシル。
(本当に生意気な小娘め。貴様など公爵家の後ろ盾がなければ何の価値もないというのに……)
怒りでこめかみをぴくぴくとさせながら、バルタザールは無理矢理笑顔を作る。
「今回はとんだ災難でしたが、お怪我はございませんでしたか?」
「見て分からないの!ひどい目にあったわ!もう二度と女神になんて祈らないからっ!」
「……残念ながら、そういうわけにはまいりません。何しろあなた様はこの国で唯一の聖女なのですから」
「何が聖女よっ!私に聖力がないことぐらい知っているでしょう!もういや!公爵家に帰るわ!早く代わりの聖女を探しなさいよ!」
ぎゃーぎゃーと叫ぶセシルを、バルタザールはどこまでも冷めた目で見つめていた。




