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少年冒険者の生活  作者: ▲■▲
三章:血汐の円卓
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縄抜け



 単騎討伐試験の翌々日、セタンタ君は目覚めると簀巻すまきにされていました。


「なんだこの状況」


「おはようセタンタ」


「おう……!? マーリンか」


 なんだこの状況、と再び問おうとしたセタンタ君は口をつぐみました。


 簀巻にされた自分をマーリンちゃんが浮遊魔術で浮かせ、周囲には数人の成人男性や女性があり――セタンタ君が逃げないよう――取り囲んでおり、皆さんが親しげに「おはよう」「おはようセタンタ君」と話しかけてきたのです。


 全員、セタンタ君の知人でした。


「おはよう……マジで何なのこの状況」


「我々はね、セタンタ君に説教をしにきたのだよ」


「はあ? 説教はやってんのか?」


 喫茶店の一角に安置されたセタンタ君は、「んじゃ、ボクはクアルンゲ商会に用事あるから~」といそいそと去っていったマーリンちゃんに見捨てられ、残った方々に順番に話しかけられる事となりました。


 セタンタ君を簀巻拉致した方々の職業は、冒険者。


 それもセタンタ君と同じく「私営孤児院・赤蜜園」の出身者達です。


 赤蜜園は孤児院長さんが「成人したら出ていってもらいます」「成人前に手に職つけましょう」「無職はダメよ」という方針を打ち立てており、孤児の子達に小さいうちから職業訓練を積まされています。


 その職業訓練の中には冒険者稼業も含まれているのです。


 他の職業訓練はさておき、赤蜜園の冒険者になるための訓練は過酷です。


 過酷極まりない訓練内容です。


 孤児院長さんが自分のとこの孤児には冒険者になってほしくないため過酷な訓練を化し、耐えかねた子達が冒険者になるのは諦めるのをニコニコ笑って待ち構えているのです。


 過酷な訓練が待っているだけに、くぐり抜けた孤児達は精鋭揃い。


 成人後間もないのに熟練冒険者顔負けの技能を身に着けた子も珍しく無く、大手冒険者クランが嬉々として青田買いにくるほどの、ある種の名門なのです。


 今回、マーリンちゃんに居場所を教えてもらい、セタンタ君を拉致した方々も赤蜜園出身の名に恥じぬ活躍をしている先輩冒険者の皆様でした。


 セタンタ君より強い方もゴロゴロいらっしゃいます。


 それだけに、下手に簀巻から脱したところで直ぐ捕まえられます。


 単に拘束から抜け出すだけでは、逃げ切れないでしょう。


 セタンタ君は「ぐぬぬ」という顔をしつつ、喫茶店の壁や天井を見回し、好機を伺いつつ、机の下で足を使ってルーン文字を描き始めました。



「今日はなんだよ、皆して?」


『なんだと思う?』


「か、勧誘って雰囲気……じゃねえな、同窓会だな! 帰っていいですか!!」


 皆さん、ニッコリ笑ってセタンタ君の訴えを棄却しました。


「セタンタ、キミはいまとてもやましいヒミツを抱えているね?」


「最近は大人のお姉さん狩りは避けてるぞ!!」


「そういうのじゃなくてね?」


「孤児院に帰ってないだろ、キミ」


「出てから、まったく! 全然! 戻ってないでしょ?」


「院のある3丁目にすらろくに近づいてないだろ。保険屋行く程度かな?」


 じっと見つめてくる先輩冒険者達から視線を逸らすセタンタ君。


 逸しつつ、モゴモゴと「いや俺もう孤児院追い出された成人男子だし」と言い訳を述べましたが、それが逆に火に油を注ぎました! 先輩達が怒り出したのです!


 赤蜜園は孤児達が成人したら追い出されるのが決まりです。


 ここで一生養われて暮らす~! と言い出す者が出る以前に本人の希望聞きつつ職業訓練を行い、本人が希望せずとも職場体験に行かせ、孤児院を出る前に就職活動させ、出た後の住居に関しても孤児院長さんが敷金と半年分の家賃は払って必要な餞別も渡しつつ追い出すのが決まりです。


 一人辺りに使うお金が結構な金額になるのですが、返す義務はありません。


 むしろ受け取ってもらえません。超高級娼婦として働きつつ、一人で院の運営費用を賄っている孤児院長さん曰く、「子供引き取るのは趣味だから」だそうです。


 それに納得していない元孤児の方達は、少なくありません。


 金銭で受け取って貰えない代わりに顔見せついでに孤児院に行き、子供達の遊び相手になってあげたり、食材や菓子を差し入れに行ったり、職業訓練の手伝いや受け入れ先の職場として名乗りを挙げるのが暗黙の了解――以前に、「恩返しするならそれぐらいしかさせてもらえない」という鬱憤を晴らす場になっています。


 もちろん、出た後はまったくノータッチになる方々もいらっしゃいます。


 その辺は不干渉なのが暗黙の了解です。


 なので、セタンタ君も院に関わらないなら、それはそれで放置されます。


 が、まったく関わってないでは無いので先輩達に捕まる事になったのです。



「お前、人を使って差し入れだけせっせと送ってるらしいな!」


「お、送ってねえよ……そんな事実は一切無い」


「嘘つけ! 証拠はもう上がってんだよォ!!」


「フィンちゃんとディルムッドをアゴで使って、せっせと子供達が食べる用のお菓子を運ばせている……そうだろ?」


「記憶にございません」


「おう、本人フィン達を連れてきてやったぞ!」


「ふぇぇ、ごめん、セタンタ兄、ゲロっちゃった~……もぐもぐ!」


「買収されてんじゃねーか!!」


 先輩冒険者さん達が「仕送りするぐらいなら帰れ」「孤児院長ママに元気な姿ぐらい見せにいってあげなさい」とプリプリ怒り始めました。


 セタンタ君もセタンタ君で「俺の勝手だろー!?」と開き直り、先輩冒険者さん達が「コイツ、ママと会うのが気まずいんだよ」「フラれてるからなぁ……」とコソコソ話しているのを見つけると、激怒しながら立ち上がり、後ろにコケました。


 結構な勢いでコケたので、頭打ってそうですね。



「あ、大丈夫? ケガしてない?」


「そろそろ縄ぐらいは解いてや……いねえ!!」


「野郎、逃げやがったな!?」


 セタンタ君が転げたはずの喫茶店の床。


 そこには縄と簀巻に使われた布しかありませんでした。


 空間転移魔術・鮭飛びによる縄抜けです!


 縛られながら何とか足だけでルーン文字を書いただけなので、一回こっきりの転移となりましたが、縄抜けするには十分。


 転んで机の陰に隠れた隙に喫茶店二階へ転移し、そそくさと逃げていきました。


 正面から準備無しでやりあうとタイマンでも厳しい先輩冒険者さん達ではありましたが、不意をつき、一目散で人混みに潜り込む事で逃走成功。


 しかし、ほとぼり冷めるまでは寮で寝泊まり出来そうにありません。


 セタンタ君は「おのれマーリン!」と悪態をつきつつ、寮に必要な道具だけ取りに戻り、当面の家賃を支払っておき、クアルンゲ商会に向かったはずのマーリンちゃんの追跡を猪突の如く開始しました。




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