第21話 ショート動画
最近ショート動画を投稿するのにハマっている。
ショート動画とは文字通り動画時間が短い動画で具体的には1分以内の動画のことをさす。
ハマったきっかけは後輩をちょっとだけ困らせようと仕掛けた俺のいたずらから始まった。
「後輩。ちょっと手相見せて」
「分かりました」
俺は後輩が出してきた左手を握手するように右手で握り、後輩の顔を見つめ続ける。そもそも握手じゃ手相は見られないし、手を見る気もない俺に後輩は困惑している。
「え、えっと…手相をみるんじゃないんですか?」
「………」
俺はさらに握手した後輩の手に俺の左手を添え、後輩の目を見つめ続ける。
後輩は突然手を両手で優しく握られ、さらに俺と目が合い続けているからかどんどん顔が赤くなっていく。
「うええ!?えっと…うーんと…も、もしかしてそういうことですか!?優しくして下さいね!」
俺の謎の行動に後輩は目が泳ぎまくって少しパニックになりながらも、後輩なりに俺の行動に結論が出たようで目を閉じて唇を突き出してきた。
おっと、どうやら後輩は俺が突然キスをねだったと解釈したようだ。ただちょっと困らせて反応を見たかっただけなのだが斜め上の解釈をされて笑いそうになる。
「ふふっ」
あ、やべ。笑いを堪えられなかった。
「あ!先輩笑いましたね!もう!結局何がしたかったんですか!」
ちょっと困らせたかっただけです。正直にそう言いたくなかったので俺はそれっぽくごまかす。
「ごめんごめん。ただ後輩の手を握りたくて…」
「も、もう!そういうことならそうと言ってくださいよ!いつなんどきでも私の手を握ってくれて良いんですからね!」
ふっ、ちょろいな。とっさに考えた割に可愛げのあるいい言い訳が出来て満足だ。後輩も体をクネクネさせて嬉しそうにしている。
このやり取りは動画に撮っており、これを投稿しようとしたが動画時間があまりに短かったのでショート動画として投稿すると、この動画がいつもより圧倒的に伸びた。
この動画のコメントを抜粋すると、
後輩がどんどん顔が赤くなっていく様子が面白い。
突然覚悟を決めてキスしようとした後輩のリアクションが笑える。
いつも通りイチャイチャしてるだけじゃねーか!
ただ手を握りたくてって私も言われたい!
など、1分という短い動画でも凄く好評だった。
俺は思ったより動画が伸びたことによってまたショート動画を投稿しようという気になり、何度かショート動画を投稿しているうちにどんどんハマっていった。
今まで出したショート動画の内容は、俺が物陰に隠れて後輩を驚かせた動画や、水を飲みたがる後輩に炭酸水を渡して飲ませた時の動画などを投稿している。もしかしたらショート動画を投稿するのが楽しいわけではなく、ただ後輩にいたずらするのが楽しいだけかもしれない。
俺はまたショート動画を撮ろうと思いつき、後輩の部屋に行く。今回は後輩にちょっとした無茶振りをしてみようと思う。
「部屋に入って良い?」
「良いですよ。どうしたんですか?」
俺はカメラを持ったまま後輩の部屋に入る。後輩もいきなりカメラを持ってきた俺を見て何をするんだと少し警戒しているようだ。
「今から5秒以内に願いを言えばなんでも言うことを5分間だけ聞きます。5、4、3、2、1…」
突然俺はそう宣言し、後輩を急かす様にカウントダウンする。後輩は突然の事にあわあわとしながらも最適解を必死に考えているようだ。
「ええ、えーと…あ!でもあれは駄目だから…じゃあ頑張っている私をうんと甘やかしてほしいです!」
後輩はしどろもどろになりながらもカウントのギリギリで答える。
おお!急かしたわりに変な答えは帰ってこなかったな。正直突拍子もない答えが返ってくると想像していた。
俺は後輩の慌てた姿が可愛くて満足したので、思いっきりサービスをしようと決める。
まず椅子に座っている後輩に近づいていき後輩の後ろに回って抱きしめる。そうすると後輩はリラックスした状態で俺に見をあずけてくれる。なんの迷いもなく俺に体をあずけてくれる行動が後輩が俺を心から信頼している様に感じられて俺のほうが嬉しくなってしまった。
「いつもよく頑張ってる。偉い偉い。後輩は世界で1番可愛い。大好きだよ」
俺はなるべく気持ちを込める様に耳元でそう言いながら後輩の頭を優しく撫でたり、ほっぺたにキスをしていく。
後輩は俺に身を預けながら人様に見せられないくらいのデレデレとした表情を浮かべる。
おっと。ちょっとよだれがたれているな。気分もいいし優しく拭いてあげよう。
「こっちにおいで。そうそうこっち。ほら、膝枕してあげる」
俺は1度手を離して後輩をベッドに連れていき、ゆっくり寝かしてポンポンと俺の膝を叩いて後輩を誘う。
誘われるままに後輩は俺の膝に乗ってきたので再度頭を優しく撫でながら偉い偉いと褒めまくる。
そうやって優しく撫でていると、なんと後輩はすぐに寝息を立てて寝てしまった。
ちょっとあやしただけでこんなにすぐに寝ちゃうとは思わなかった。
「ふふっ。可愛いなあ」
俺は寝かしつけるとすぐに寝てしまう後輩のことを赤ちゃんのようだと感じ、胸の奥底から愛くるしいという気持ちが湧き出てくる。
もうすぐ約束の5分が経つけど疲れているみたいだしもう少し寝かせてあげようかな。
俺の膝で寝てから10分ほど立つと、クイーンが後輩の部屋に入ってきた。
クイーンは膝枕されている後輩を確認すると、鼻を使って後輩の頭を俺の膝上からどかそうと奮闘しだした。
「ううーん、もうちょっとだけ…」
後輩はその衝撃で起きたようだが、まだ少し寝ぼけている。
なおもクイーンは後輩を邪魔し続けたので、後輩は完全に目を覚ましたようだ。
「はっ!…ぐ、ぐーすかぴー」
後輩は目覚めてから今の状況を瞬時に理解し、下手な寝たフリをしだした。
それにしてもちょっと寝たフリが下手すぎないか?
「おーい後輩。寝てるならもう少し膝の上で寝かせてあげるから返事をして」
「はーい。寝てます!」
「起きてるじゃん」
「はっ。騙されました!」
そんな馬鹿な会話をしつつも後輩は全く膝の上から退こうとはしない。
俺は後輩をくすぐって膝の上からどかす。
「もう!もっと膝枕してくれてもいいじゃないですか!女子の夢なんですよ!」
「まあ約束の5分はとっくに過ぎてるからね。これでもサービスしたほうよ」
そもそも5分だけなんでも言うことを聞く約束だったはずなのに、結果15分も膝枕をしていたことになる。
「ていうか先輩!なんでも言うことを聞いてくれるならもっと時間下さいよ!急かされたせいで脳みそフル回転しましたよ!人生でこんなに頭を使ったことはないです!」
「おい受験生」
後輩はプリプリと文句を言ってくる。
でも後輩にしっかり時間をあげたら思いもよらない変なお願いを考えてきそうだからなぁ。
俺の空いた膝の上を見てクイーンが膝に乗ってきて甘えてくる。クイーンも膝枕をされたかったようだ。でも相変わらず顔はそっぽを向いていて、別に膝枕なんてされたくないけど?というような表情をしている。いつものごとくクイーンは表情と行動が噛み合っていないな。
俺はクイーンを膝枕しながら撫でる。
「ちょっとクイーン!先輩の膝の上は私だけのものですよ!でもまあ私は心が広いんで5分だけ特別に貸してあげます」
何故か俺の膝の上の権利は後輩が持っているようだ。
後輩はこれでお互いフェアだと言いたげだが、後輩が15分膝枕をしているのにクイーンに5分しか許さないのははたして心が広いと言えるのだろうか。
クイーンは後輩のことなど意に介さず撫でられてリラックスしている。
きっかり5分立つと後輩はクイーンを俺の膝の上からどけようとする。
「離れて下さい!先輩の膝の上は私だけのものですよ!今度は私が膝枕される番です!」
後輩はどかそうとするがクイーンはまだ粘ろうとすがりついてくる。
というかもう今日は膝枕しないからね。勝手にもう1度される気でいるようだけど。
後輩がクイーンを俺の膝からどかし、いつも家でよくやっているように後輩とクイーンで取っ組み合いっ子をしてじゃれ合い始めた。
自由になった俺は立ち上がって後輩の部屋から出る。
「ああ!私の膝枕!」
ちょっと後輩、俺を枕扱いは止めてくれ。
次の日、後輩がニヤニヤしながら俺に近づいてきたのでなにかするのかと身構えていたら、俺に昨日したことと同じことを仕掛けてきた。
「今から5秒以内に願いを言えばなんでも言うことを5分間だけ聞きます。5、4…」
「じゃあ後輩には1日中勉強してもらおうかな」
「3…。ええー!もっと違うお願いにしてくださいよ!思ってた展開と違います!勉強したくないです!」
この後後輩に1日中勉強させた。
西野鈴音
【先輩がカメラを持っていなかったら真っ先にエロいことをお願いしてのになぁ】