紅魔の魔王グレン(2)
「…………貴様らも我に挑みに来たのか」
「ああ。本当はコカトリスを討伐に来たんだけど、あんたがここに居るって聞いてね」
「ふむ?コカトリスとは…………このニワトリの事か?」
グレンはそう言うと、おもむろに自身の傍に転がっていた大きな肉の塊を持ち上げた。
すでに原型を留めていないほどぐちゃぐちゃだが、あれは間違いなくコカトリスだったものだ。
なんと俺達の討伐目標であるコカトリスは、すでに魔王グレンの手によって討伐されていたのだ。
コカトリスをただのニワトリ呼ばわりか………。
「ん、面倒が減った。感謝」
「はっはっはっ!面白い小童が居るではないか」
こんな威圧感のある魔王を目の前に、微塵も揺らがず平静を保っていられるとは。
さすがクロだ。
グレンは威厳たっぷりな笑みを見せながら、腰につけていた巨大な大剣を抜いて俺の方に向ける。
「…………さて。早速で悪いが、貴様が王に相応しい器か否か。我が直々に試してくれよう」
「王………?」
「待て。主に手出しはさせない。クロが相手」
「貴様に我と戦う権利はない」
今までずっと無表情を貫いていたクロの眉がピクリと動く。
「…………なら、試してみる?」
侮られていると思ったのか、それとも俺を守れないと言われた気がしたのか、急に殺気立ったクロがダガー片手に戦闘態勢に入る。
目がガチのやつだ。
クロは自分の実力を自慢するタイプじゃないから、どちらかと言うと後者なのかもしれない。
さっきまでは静かに少しの殺意すら見せずに相手を倒していたのに、今はその殺意も剥き出し状態。
どうやら今ので相当ぷっつんしてしまったようだ。
守られている側の俺ですら「え、そんなに怒る………?」と思ってしまうほど。
ていうかナチュラルにちみっこに守られてる俺って…………。
「残念だが、貴様の相手はこいつだ」
グレンが宙に手をかざすとそこに大きな魔法陣が展開され、中からグレンと同じ位の体躯はある二足歩行の牛…………ミノタウロスのような怪物が現れた。
手には大きなオノを持っている。
召喚術だろうか。
それを確認した途端、突然ミノタウロスが顔ごとその長く伸びた鼻を振り上げて、城中どころか王都まで轟くような雄叫びを上げた。
松明の炎が激しく揺れ、城の壁をビリビリと揺らす。
ミノタウロスは鼻からフシュー!と白い鼻息を吹き出しながら、手に持っていた斧を自分の肩に担ぐ。
こいつも中々の迫力だ。
「こいつはかつて我に挑み、敗北した魔王の一体だ。死霊術で我が蘇らせた。すでに意思はないが、肉体のリミットが無い分そこらの魔王より数段強いぞ?」
もう一度、轟くような咆哮。
右手に持った巨大な斧を振りかざしたミノタウロスが、地響きを立ててクロに迫りながらそれを思いっきり振り下ろす。
『グオオオオオオオッ!!』
ガギィンッ!と金属同士がぶつかり合う耳障りな音が響き渡り、衝撃に耐えきれなかった床がひび割れて砂煙が巻き上げられる。
あれだけの巨体から放たれた一撃だ。
タンク系の役職だとか防御値が低いとか関係なく、もれなくぶっ飛ばす威力があったはずだ。
まさに一撃必殺。
だが、俺はクロの心配はしていない。
この程度の攻撃では、クロに傷一つ付けられないと知っているからだ。
「…………軽い」
土煙が収まると、そこには振り下ろされた斧を軽々とダガーで受け止めたクロの姿が。
ダガーを持った手は微動だにしていない。
この小柄な体のどこからそんな力が出ているのだろう。
「油断は禁物、貴様の相手は我だ!」
「っ、主!」
「動くな!」
ものすごい勢いで突進してきたグレンの大剣が俺の黒剣と衝突して、激しい火花を散らす。
さらに、どす黒い紅の魔力を纏ったかと思うと、そのまま俺を押し切って壁を突き破り城外に飛び出した。
くそっ、なんつー馬鹿力………!
「クロ!クロはそっちに集中して!頼んだぞ!」
「ん、任された」
「…………ふっ、話は終わったか?」
「おかげさまで、なっ!」
クイッ、と大剣を引いたグレンが大きく横薙ぎし、俺は遥か上空から地面に叩きつけられた。
ガリガリ地面を削ってやっと止まった俺は、服についた土埃を払って立ち上がり、舞い上がる土煙を剣を振るいかき消す。
ちょっと背中が痛い。
ジンジンする。
「…………ふむ、この程度では当然ダメージを受けんか」
「当たり前だ。…………どうやら、わざわざクロと分断してまで俺一人と戦いたいらしいな………」
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