第59話 デュラハン
「ひいぃっ!」
おじさんはデュラハンを前にして腰を抜かしたのか床に倒れ込んだまま椅子を盾のようにして身を小さくしている。
「バ、バランさんっ」
「ああ、デュラハンだ」
デュラハンは草木の生い茂った庭のど真ん中で堂々たる風格でもって首のない黒い馬にまたがっていた。
体の向きこそこっちを向いているが頭部がないのでどこを見ているのか、見えているのかわからない。
デュラハンは腰に差さった剣を抜くとおじさんに向かってその剣先を前へと差し出した。
『……我の名をかたっているのは貴様だな』
「ひ、ひいぃぃぃっ! お、お助けぇー!」
おじさんはぶんぶんと首を横に振りながら体を震わせている。
「マリア、やれるか?」
「は、はい。やってみますっ」
そう言うマリアの手も震えていたがマリアは気丈に振る舞い杖を自分に向けると「ホーリーアクセル!」と唱えた。
ホーリーアクセルは身体能力向上の魔法でマリアが得意とする補助魔法のうちの一つだ。
マリアが淡い光に包まれていく。
と同時にガシャーン! とデュラハンが馬を走らせ窓をぶち破り部屋に入ってきた。
俺とマリアには目もくれずおじさんに一直線に向かっていく。
そして目の前まで来ると剣を振り上げた。
『……死で償え』
「ひ、ひいぃぃぃっ!」
その時だった。
マリアが「えいっ!」と横からデュラハンの脇腹に殴りかかった。
身体能力がアップした状態での不意の一撃にデュラハンも反応できず部屋の壁に勢いよく激突する。
崩れた壁の下敷きになるデュラハン。
「マリア、やったか?」
「て、手ごたえはありましたけど多分まだです」
マリアの言葉通りデュラハンが崩れた壁の下から瓦礫をどかして立ち上がってくる。
顔がないのでダメージがあるのかどうかわかりにくい。
『……我の邪魔をする者は何人も許さん』
デュラハンはターゲットをおじさんからマリアに変更したようだ。
再度馬にまたがるとマリアに突進してきた。
「きゃあっ!」
首のない馬にはね飛ばされるマリア。
だがマリアも負けてはいない。
すぐに立ち上がると杖をデュラハンに向け叫ぶ。
「ホーリーウインドっ!」
光が渦状に収れんしていきデュラハンに襲い掛かっていった。
マリア最大の攻撃魔法であるホーリーマギカは屋内では使えないのでホーリーウインドにしたのだろう。
馬に乗ったデュラハンはこれを盾で防ぎつつじりじりと前に向かってくる。
「マリアっ、俺が馬をやるからお前はデュラハンだっ」
「はいっ」
マリアのために手は出さないつもりでいたがちょっと苦戦しているようなので手を貸すことにする。
普段のマリアならなんてことない相手だろうがやはりモンスターが相手ということで本調子ではないのだろう。
俺はエクスカリバーで馬の前足を払った。
バランスを崩した馬が転倒してデュラハンを床に落とす。
『……貴様』
デュラハンが俺に向き直るが、
「あなたの相手はわたしよっ」
言いながらマリアが庭に駆け出していった。
デュラハンもマリアを追って庭に出る。
首のない馬が振り返り後ろ足で俺を蹴り飛ばしてきた。
「ぐあっ!」
吹っ飛ばされるもダメージキャンセラーのおかげで俺にダメージはない。
「テレポート!」
俺はテレポートリングの効果で馬の上にまたがると首元を腕で力いっぱい絞め上げた。
首のない馬にこの攻撃が果たして効くのか不安だったが数十秒後馬はどしんっと床に倒れた。
と、
時をほぼ同じくして庭がまぶしい光であふれ返る。
俺は庭に目を向けるとそこには地面に片膝をつきながらも俺を見て笑みを浮かべるマリアの姿があった。
そしてデュラハンはまさに光に飲み込まれて消滅していくところだった。
『……くっ、不覚』
マリアの放ったホーリーマギカを浴びたのだろう、デュラハンは最後にそう言い残し消えていった。
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