第58話 おじさん
「あの、大丈夫ですか? っていうかそんなところで何してたんですか?」
顔を押さえてうずくまっているおじさんに声をかける。まあ俺もマリアから見たら充分おじさんなんだけど。
「べ、別に関係ないだろっ、いててっ……」
「いやあなたがデュラハンのフリして、か~え~れ~とか言ってたんでしょ」
「だ、だからなんだよっ、おれの家に勝手に入ってきたのはそっちだろっ」
おじさんはびくびくしながらも俺に反論してくる。
「おれの家? ここって空き家のはずじゃ……」
「うっ……そ、それは……」
そう言うとおじさんは押し黙ってしまった。
とそこへ、
「あの~バランさん、だ、誰かいるんですか?」
俺が誰かと話しているのを不思議に思ったのだろう、マリアが後ろから近付いてきた。
「ああ、変なおじさんがいた」
「変なおじさん?」
俺の背中越しにマリアとおじさんの目が合う。お互いにびくっとなる。
俺は、
「とりあえずここじゃなんなんで部屋入りませんか?」
おじさんにそう言うとおじさんは「あ、ああ」と立ち上がり俺の横を通って大広間に移動した。
そしてさも自分の家でくつろぐかのように椅子にどかっと腰掛ける。
「……それでおたくら何者だ?」
おじさんが疑り深い目をして訊いてくる。
俺が訊きたかったセリフを先におじさんに言われてしまった。
「俺たちは冒険者です」
「冒険者? 冒険者が夜遅くになんでこんなところにいるんだよ」
「依頼があったんですよ。この洋館に夜な夜な現れるデュラハンを倒してほしいって」
「なっ、マジかよっ? くそっ、誰だ、依頼なんかした奴はっ……」
おじさんは苦虫を嚙み潰したような顔になる。
「おじさんの方こそなんでここに? さっきおれの家とか言ってましたけど……もしかして勝手に住んでます?」
「だ、だったらなんだ、悪いかよっ」
悪いだろ。
「くそ、噂を大きくしすぎたか……ちくしょう。もうここには住めないじゃないかっ」
「あのう、あなたがこの洋館に出るというデュラハンの噂を流したんですか?」
とマリアが訊ねる。
「あ、ああそうさ。住むところがなくて困ってたらちょうど空き家だったこの建物をみつけて住み始めたんだ。モンスターが出るような場所なら誰も近寄らないだろ、だからおれが噂を流した」
デュラハンが現れるといういわくつきの建物。
確かに普通の人は寄り付かないだろう。
「でもそれももう終わりだっ、ああー!」
これみよがしにおじさんは頭を抱え込んだ。
別に俺たちのせいじゃない。
「それにしても噂の信憑性を増すためにゴブリンの首を斬るとかはさすがにやりすぎじゃないですか?」
断首の丘にあったゴブリンの首なし死体。
いくらなんでもあれは手が凝りすぎている。というよりちょっと異常だ。
「ゴブリン? なんだそれ、おれはそんなの知らないぞ」
おじさんは言う。
「知らないって……やだなぁ、断首の丘にありましたよゴブリンの死体」
「断首の丘? 何を言ってるんだおたくは。おれはただのホームレスだぞ、ゴブリンなんて倒せるわけないだろっ」
言い放った。
うーん……。
俺は人の心を読めるわけではないがなんとなくわかる。
このおじさんは本当のことを言っていると。
……どういうことだ?
じゃあ断首の丘にあったゴブリンの首なし死体はなんだったんだ?
するとおじさんが突然、「ひいぃっ!」と悲鳴を上げた。
「どうしたんですか? おじさん」と俺が言おうとすると「あ、あ、あ、あ、あ……」声にならない声を発しながら震える指で窓の外を差している。
俺とマリアは窓の外に目をやり、
「「……っ!?」」
二人して息をのんだ。
なぜなら――
窓の外の荒れ果てた庭に首のない馬に乗った首のない騎士、デュラハンが悠然とした姿でそこにいたからだ。
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