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第32話 領主ゼニール

エルフたちが村を去ってから一か月。

エルフたちのおかげで農作物や牛やヤギのミルクがたくさんとれるようになり、村の人たちの生活は前よりも少しだけ豊かになっていた。


そんなある日――


俺が村の外の見回りをしていると遠くの方から一台の馬車が向かってくるのが見えた。


なんだ……?


近付いてくる馬車の窓を注視すると中には小太りの男が乗っていた。

通り過ぎる瞬間俺と目が合う。


その時小太りの男は俺を見てにやりと笑ったように見えた。


誰だ、あの男?


『なんか感じ悪い奴だったわね』

「エクスカリバー、お前起きてたのか」

『いつも寝てるわけじゃないわよ』

「悪い悪い」



見回りを終え村に帰るとさっき見た馬車がとまっていた。

するとザジーが俺のもとに駆け寄ってくる。


「おじさん、おじさんっ」

「ザジー。誰か来てるのか?」

「うん。ゼニールが来てる」

「ゼニール?」


そこへザジーの母親もやってきた。

「こら、ザジー。ゼニール様でしょ……すみませんバランさん」

「いえ……」

「母ちゃんだって家ではゼニールって呼び捨てにしてるじゃんか」

「しっ、声が大きい。聞こえたらどうすんのっ」

「いてててっ!」

ザジーの耳を引っ張るザジーの母親。


すると馬車の馬に水をやっていた男がこっちを向いた。

うるさかったかな。


俺はザジーの母親に、

「ゼニールって誰ですか?」

と小声で訊いてみた。


ザジーの母親は人目を気にしながら俺に近付きそっとささやく。

「ゼニールはこの村を統治している領主です。お金に汚くて村のみんなからは嫌われてますけどね……あっこれ内緒ですよ」

「はは……そうなんですか」


そういえばそんな名前の領主がいるってガゼフさんたちが話してくれたな。


「今はガゼフさんのところに行っています。多分今も村長がガゼフさんだと思っているからでしょうけど」

「あーなるほど、じゃあ俺も顔出した方がいいですね」


現村長としては一応挨拶しておいた方がいいだろう。

俺はザジーの母親に礼を言うと家へと戻った。


「ただいま帰りました」

居間に顔を出すとガゼフさんとゼニールがテーブルを挟むように座っていてリエルは二人にお茶を差し出しているところだった。


「おお、バランどのっ。ちょうどよいところに帰ってきなさった」

ガゼフさんが立ち上がって俺のほうに歩いてくる。

「こちらが今さっき言うとりましたわしの後を継いでくださった現村長のバランどのですじゃ」

俺の背中に触れゼニールに説明する。


「どうも初めまして、バランです。紹介が遅れてすみません」

「まったくだなも」

ゼニールは間の抜けた声を発した。


「村長が変わったのならお前から挨拶に来るのが筋じゃないのかも」

「はあ……すみません」


変わった喋り方だなぁ。

間抜けな声といいだらしない体といい油断すると笑ってしまいそうだ。


『何こいつ。きっしょ』

黙ってろ。


「お前名前はも?」

「はい? さっき言いましたよね」

「わ、わかってるもっ。ベ、別に何度訊いたっていいも!」

「はあ、そうですね。俺の名前はバランです」


『何こいつ? 頭のねじが緩んでるんじゃないの』

エクスカリバー、頼むから黙っててくれ。


「バラン、ここ最近この村の景気がいいようじゃないかも」

「はい、おかげさまで」

エルフのおかげだがな。


「だからこの村の税金を今の倍にするも」

「えっ、倍!?」

「そんな、倍だなんて……」

「それはいくらなんでもあんまりですじゃ!」

俺だけでなくリエルとガゼフさんも驚きのあまり口を開く。


「うるさいも! 外野は黙ってろも!」

リエルとガゼフさんに向かって声を荒らげるゼニール。


「ミーは村長と話してるんだも。邪魔するなも。三倍にしてやってもいいんだぞも」

「す、すみませんゼニール様っ」

「ゼニール様、すみませんでしたっ」

二人は急いで頭を下げた。

それを見てゼニールはにやりと笑う。


『こいつむかつくわね』

とエクスカリバー。

それに関しては激しく同意する。


「あの、倍はさすがにきついのでどうにかならないですか?」

俺は訊いてみる。


「ならないも」

「そこをなんとか」

「駄目だも」

ゼニールは何を言っても首を縦には振らない。


「どうしてもって言うならそこの女を差し出せば考えてやらないこともないも」

リエルをいやらしい目つきで見ながら言った。


『もういいわ、こいつ殺っちゃいましょう』

「バカ言うな」

エクスカリバーに返した後に俺はハッとする。

リエルとガゼフさんの顔を見て……あれ? 俺、今心の声を口にしちゃった……?


すると、

「バカって誰に言ってるんだもっ!」

ゼニールは重そうな体をぶるんと揺らし立ち上がった。


「ふざけるなもっ! お前許さないもっ! 死刑だもっ!」

やはりカンカンに怒ってしまっている。


「いや、今のはあんたに言ったんじゃなくて――」

「あんたって誰にもの言ってるんだもっ! お前絶対許さないもっ! 死刑にしてやるもっ!」

『やってみろも』

真似すんな。


「すみません。謝りますから許してください」

「駄目だも! ミーは帰ってこのことをゲーバ大臣に報告してやるも!」


ガゼフさんの家をどたどたと出ていくゼニール。

そのまま馬車に向かって懸命に走る。


その時エクスカリバーが、

『えいっ』

と剣から光を伸ばした。


「あっこら、勝手に――」

剣から伸びた光が馬車を飲み込みじゅうっと蒸発させると跡形もなく消し去ってしまった。

手綱が切れた馬がヒヒーンといななくとひとりでに村から走り去っていく。


「な、な、何をしたんだも!」

光の出所であるエクスカリバーを持つ俺を見て、

「お前は取り返しのつかないことをしたもっ! お前も村の奴らもゲーバ大臣に言ってみんな死刑にしてやるから楽しみに待ってろもっ!」

ゼニールがわめきたてる。


「覚えてろもっ……ほら、さっさと帰るもっ!」

連れの男にそう言い放つとゼニールはいそいそと村を出ていった。


その様子を見ていた村のみんなは固まってしまっている。

やばいことをしてしまったのだろうか。不安が襲ってくる。


だが――

「バランさんありがとう。なんだかすっとしたよ」

「あら、あんたもかい? あたしもだよ。いや~すかっとしたねぇ」

「わたし笑いそうになっちゃったわ」

村の人たちはどっと笑いだした。


「え? 俺まずいことしたんじゃ……?」

「大丈夫さ。バランさんならなんとかしてくれるだろ」

「そうそう。バランさんがいれば心配ないよ」

そしてリエルまでも、

「バランさん、さっきは私のためにありがとうございました」

と礼を言ってくる始末。


はぁ……村のみんなは楽観的というかのんきというか。

やっぱりこれは俺がなんとかするしかないみたいだな。

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