SS4:『スーパースキンケア』
本来であれば、昨日投稿するはずだったボツネタ基盤のショートストーリーです。メリークリスマス()
「ほら。手、出して?」
「……はい」
私に促され、レーナちゃんは片腕をおずおずと膝から持ち上げる。
差し出されるのは真っ白で、細くて、柔らかくて、あったかい––––そんな彼女の手。
愛おしげにその指先を撫でてから、私は微弱な魔力を送り込んだ。
ビクッと一瞬彼女の体は強張ったが、その後すぐに弛緩していく。
「……やっぱり、あったかくてきもちいいです……」
そんな気の抜けた声を漏らすレーナちゃんの顔はとろとろにほぐれていて、はっきり言ってエロい。
「まあ温度調節してるからね」
「どんな魔法ですかそれ!?」
治癒魔法です。
****
治癒魔法は、傷や筋肉の損傷を早期に治すため、対象の自然治癒力を促進させる魔法だ。
それは例えば、肌荒れなんかの予防にも有効だったりする。
「レーナちゃんの美白肌を荒らさせたりしたら、それはもう世界の損失だからね」
彼女には家事全般は任せきりにしている。そのため、水仕事によってケアがされていない手はあかぎれやひび割れなどを引き起こしかねない。
せっかく綺麗な手なのにそんなの勿体無いし、何よりそれで苦痛を味あわせてしまうのが嫌だった。
「ご主人様は大袈裟ですよ。第一、私の指は元から荒れていました。ちょっとやそっと手が痛いくらい今更です……って、このやり取り何回目でしょうね」
奴隷時代は荒れに荒れていたから今更だというのがレーナちゃんの主張だけれどそれはそれ、これはこれだ。痛みを生じさせずに済むならそれに越したことはない。
「––––もう二度と君を傷つけさせはしない、絶対にだ……なんて具合にね」
「台詞と表情と声だけはカッコいいです……」
「それ普通にべた褒めなんだよなぁ……」
もう私の管轄内で、レーナちゃんの御身体に傷など作らせない。
これからは一家に一人治癒魔法使い。お子さんの擦り傷から、奥様の手荒れもちょちょいのちょいの時代である。
「じゃあほら、仕上げに軟膏もぬりぬりしよう。もう今晩の食器で洗い残しはないよね?」
「はい……でも、魔法はともかく、軟膏くらい自分で」
「私が塗りたいの! レーナちゃんに触りたいの!」
「……そ、その発言だけ聞いたら犯罪的なのに、どきりとする自分がいるのが悔しいです……」
それだけ私に精神を毒されているということだ、素直に諦めてほしい。
軟膏は夕食後ほぼ毎日塗り、治癒は3日に一度くらいのペースでかけている。魔法の乱用は体に毒なのだ。
その効果か、レーナちゃんの指は今日も変わらずその美しさを保っていた。
「後、最後にもう一箇所魔法かけようね」
ニコリと他意なく微笑んで、私は告げた。
「うぇっ!? きょ、今日もやるんですか……?」
「……いやなの?」
「い、いやではなくて。嬉しくはあるんですけど……その」
「じゃあいいじゃん。ほら、瞼閉じて?」
「……は、はい……」
そうしてしぶしぶ瞳を閉じたレーナちゃんは、人形のように作り物めいて愛らしい。けれども上気した頰と呼吸を繰り返す口が生物的彩りを添えて、彼女が私と同じ人間であることを証明してくれる。
「……かわええ」
「っ……」
「かわええ……かわええ……」
「……しないならもう開けていいですか」
「ダメ、そのまま」
「うぅ……」
今は冬場だ。肌はカサつきやすいし––––なら唇だって、乾燥してひび割れてしまうかもしれない。
だから私は不定期で、レーナちゃんの唇にも治癒魔法をかけることにしたのである。
これは義務だ。断じて私がキスしたいから尤もらしい理由を捏造しているわけではない。断じて。
「いくよ」
「は、はひっ……んむ」
言うが早いか、私は己の唇に魔力を帯びさせ、レーナちゃんのそれにぴったりくっ付けた。そして魔力も流し込む。
「は、ふっ……ん、ふ……ふぁ、あ……」
喘ぐような声を漏らし、レーナちゃんはだんだんと私の方へ寄りかかってくる。やがて首に腕が回された。
彼女曰く、治癒魔法をかけられる側は、かけられる場所が一点的であればあるほど、気持ちがいいらしい。
ならば今のレーナちゃんは、どれほどの快感を感じているのだろう。
––––つい、イタズラしたくなった。
「ふむっ!? んぅっ、ん、ぁっ……!?」
魔法の出力を上げ、体に害がないレベルを保ち、注ぐ。
恐らく今、レーナちゃんの肉体には普段の数倍の快感が走っているはず。その証拠に、彼女の喘ぎ声はどんどん艶めかしくなっていった。
「ふぁっ、ひゃ、ひゃめっ……んぁっ、ぁんっ」
「ッ、いっづ……!?」
不意に私の頸に鋭い痛みが走った。どうやらレーナちゃんが爪を立てたらしい。薄く開けた目で私を見て、本当にもうやめてほしい、と訴えかけてきた。
言葉の上でだけの抵抗なら更にアクセルを踏むところだが、彼女の様子は若干怖がっているようにも見えた。心からの拒絶のようなので、魔力の供給を解く。
「……ぅ、ぁ」
私は脱力しきったレーナちゃんをソファに寝かせ、囁きかけた。
「気持ちよかった?」
「はぁ……はぁ……ひどい、れす……こんな、こんなの……きいてない、です……」
「ついイタズラしたくなっちゃって。で、気持ちよかった?」
「……」
「正直に言わなきゃもう一回気持ち良くしちゃう」
「…………き、気持ちよかったです。だから、もう今日はやめてください……」
とろんとした顔のまま、コクコクと何度も必死に頷いてくる。
「ん、わかった。今日は、もうしない」
一部を強調して宣言すると、レーナちゃんは眉を顰めた……が、私が目に見える形で指に魔力を帯びさせると、怯えた顔でブンブン首を振った。
––––レーナちゃんが本気で嫌がってるなら、私ももう二度と絶対やらないんだけどなぁ……。
私はこの、イジメられた果てに素直になるレーナちゃんの顔が心底気に入っていた。無理やり屈服させられているのに、相手を恨みきれず自分への不甲斐なさでいっぱいになった可愛い顔––––我ながら変態で最低だと思うけれど、レーナちゃんも私にイジメられること自体は満更でもないのだと思う。
今日がいきなり責めすぎただけで、普段ならもっと身を預けてくれるし。形だけの抵抗だってザラだ。多分、次回以降は今日くらいに激しくしても大丈夫だと思う。
とろっとろに蕩けきった表情で甘えてくる彼女を想像して、頰がたるんたるんに緩みまくる。
「……やば、レーナちゃんえろすぎ」
「……な、何想像してるんですかっ」
「いたっ!? ちょ、結構本気で殴ったでしょ!」
「ご主人様はもっと酷いこと私にしたんだからこれくらいのこといいじゃないですかっ……ばかっ、鬼畜っ、ひとでなしっ!」
「なんて酷い罵詈雑ご––––いや待てよ、レーナちゃんに罵られるならご褒美だ普通に」
「へ、変態っ!」
治癒魔法裏設定
擦り傷切り傷打撲手荒れなんでもござれ。個人差あれど大抵の傷は治せます。病気は治せません。
大抵は全身に満遍なく行使するものだけれど、一箇所へ集中的に行使すると相手に痺れるような強い快感を与えることが可能。熟達すれば拷問行為から恋人同士の甘い時間まで幅広い使い方があるよ! 時代は一家に一人治癒術師!




