#3 幸せの電話帳 III
……というわけで私は部活面の担当記者になってしまった。
この「……」は原稿用紙2文字分なんだけど、説明すると長いのよね。
あれから私となっちゃんは部室へ行った。2階の北棟に位置する部室の扉に「学園通信編集部」と書いてある。もらった鍵を差込み、開ける。
入ってみた感想? 簡単に言えば環境としては他の部とは比較にならないくらい、いいと思う。さすが教員が占領してただけあって、まるで小さなオフィスのよう。冷蔵庫だとかポットだとかソファーだとか灰皿だとか(?)水道まである。ただ不思議なことに、これだけ設備はいいのに暖房器具はヒーター、冷房器具は扇風機なんだな。
机はとりあえず8個ある。広さから言うと増やすことも不可能ではなさそう。そのうちの3つの机にワープロがおいてある。
「ふむ」
とりあえず部室の中を見終わったなっちゃんは
「使えないことも無いな」
とコメントした。その考えじゃ絶対他の部に入れないよ、きっと。
で、なっちゃんは学園通信をどのようにしていこうと考えているのだろう。
「長くなるぞ」
覚悟しております。
「今、そしてこれから集められそうな人数を考えて誌面を『部活面』『学校面』『オピニオン』くらいに大雑把に分ける。
部活面では部活についての情報を発信する。これはなるべくイベントの有無に関わらずほとんどの部活を取材したい。学校面は学校行事などについての記事。そしてオピニオンは読者によって作ってもらうページだ。購買部にポストを置かせてもらい、企画に基づいてお便りをもらってそれを載せる形が望ましい。
その他部員が書きたい記事、生徒が提出した記事、そして『特集』を載せる。特集はその時期に特化したホットな情報を扱いたい。部員ごとにそれぞれの面の担当はあらかじめ決めておくが、特集に関しては普段の担当とは別に部全体で動く予定だ。
刊行は印刷・製本も考えて月1回がいいところだろう。現行の学園通信と比べたら多いしな」
すごい計画。本当にこの部に対してやる気があるんだ。
「ただ、俺だけがやる気を持っても仕方が無い。当たり前だが部員が必要だ」
私はもう一度部室を見回した。この部室でなっちゃんや他の人と学園通信作り……自分達が作った学園通信が学園のみんなに読まれるという目標のもと記事を書いたり、取材したりしたら楽しいかもしれない。それに……上級生がいなく部員が少なければ、ピリピリした雰囲気になることはないだろう。文章を書くのも割と好きだ。入ってみようかな……。
「なっちゃん」
「ん、なんだ」
「私も学園通信編集部に入るよ」
「手伝ってくれるのか」
「うん!」
いつも無愛想な、なっちゃんが心なしか嬉しそうに見えた。
「じゃあ、香坂は部活面で頼む。俺はオピニオンをやろう。あとはもう一人だな」
もう一人……今学期中に利益を生まないと廃部するかもしれないという背水の陣の状況にあるこの部活に入ってくれる子なんかいるのかな?
その時ドアが開いた。
「あ、本当にここにいた!よかったー。 リン、これ忘れ物」
中学の時の同級生の日野ゆかりちゃんだ。わざわざ教科書を届けに来てくれたようだ。私の場所は職員室で聞いたのかな。
「何してるの、二人? もしかして、ラブラブ?」
届けてくれた教科書で叩かれたい? 結構今真剣な話中なんだけど。
「どうしたのよ? わけを話してごらんなさい」
そして今まで話していたことをなっちゃんが話す。
「へえ! 奈津くん部活作ったの! すっごいねぇ、ああ見えてアクティブなんだ」
やる気があることだけね。
「そりゃ、リンと奈津くんが協力して物作ろうってのに聞き流すのは人情が無いね。よし、このあたしが協力してやろうじゃないの!」
なんか30%くらい誤解をお持ちのようですけど……ま、いっか。利用してやる。
「ん? 日野が入るのか?」
ちょっとなっちゃんも驚いているみたい。
「悪い?」
「いや悪くはないけど」
「けど?」
「いえ、大いに結構です。どうぞお気の召すままにご自由に」
ゆかりの勝ち。
「じゃあ、日野は学校行事面担当な」
「まかせなさいっ!」
そんなわけであっけなく部員が2人増えることになり、部活がスタートすることになった。
次の日の活動で、なっちゃんは最初の方針を説明した。
「中間が5月下旬、期末が6月下旬にある。まず6月号を中間に出すことを目標にしたいと思う。あんまりのんびりしていると締め切りは早く来るから注意するように」
「へー、奈津くん計画が周到だねえ。本気なんだ」
ゆかりはそう言って感心しているが、私も感心する。
説明を済ますと、なっちゃんは部室を出ようとした。何やら箱を持って。
何しに行くの? と聞くと、
「購買部にオピニオンのお便りBOXを置きに行く」
と言った。本当に好きなことに対するやる気はすごいや。
私もダラダラしてばかりはいない。部室をゆかりに任せると、デジカメを持って文化部を取材することにした。まだあまり学校全体には広まっていない部なので、大抵の部には紹介をいちいちしなければならないのは面倒なんだけどね。なるべく写真をたくさん撮ってこい、というなっちゃんの命令どおりたくさん撮った。うん、いい感じいい感じ。デジカメはどうしたかって? これも部室の物置に備品として最初からあったの。1000万画素のすごいやつ。もう私用に流用しちゃいたいくらい便利。
帰ってくると、また私は驚いた。ワープロがなくなっていた。代わりに、ノートパソコンが3台。1台にはデータ通信のカードが付いている。どうしたの、これ?
「うちの親父の会社の余り物をかっぱらってきた。写真とかを扱うのにはワープロでは役に立たんからな」
さすが社長の息子。とはいえ、インターネットに接続するためのデータ通信のカードばかりは、3人で変わり番するしか無いようだ。回線があるだけでも十分。
「回線はうちの親父の会社の契約の回線を使えばいい。インターネットがあれば記事を書く際の情報収集にも役に立つだろう」
トイレに行っていたゆかりが帰ってきた。帰ってくるなり「おひょー!」と驚きの声をあげる。
「日野、これから使う表紙のデザインをこのパソコンで作ってくれ」
「了解!」
すぐに了解できるゆかりもゆかりだ。すごいよ。
凡人の私は撮ってきたばかりの写真をパソコンに取り込んで、選別作業でもしているのがいいだろう。そう思って、私は自分の席に座ってパソコンを起動した。
次回もお楽しみに。
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