第3話 未知との遭遇?
よろしくお願いします。
そんなこんなで、あっと言う間に新歓の日がやってきた。
手配したお店に社員達が集まってくる。
うちの会社は飲み会が平日に行われる。
大抵は月曜日だな。
普通、金曜日とかにしない?と思うのだが、そうならないのがウチがブラックたる所以の1つなのかも知れない。
まぁ、そんな事を言っても始まらないので、口には出さないけれども。
そして明日も仕事なのにもかかわらず、宴は二次会、三次会と続き、結局お開きになったのは深夜を大きく過ぎた頃であった。
「んだよ。月曜日からこれか……やっぱりきついわー」
こう呟くのも最早お約束である。
もちろん本日の主役である神崎さんも最後まで参加していたため、とうの昔に終電は逃している。彼女は上司に結構飲まされていたはずだが、ケロリとした顔をしている。どうやらお酒は強いらしい。
ザルなんだろうか?
お偉方のタクシーを手配して全員が乗り込んだことを確認すると、やっと俺は一息ついた。
後は俺達だけか……などと思いながら、長かった1日もようやく終わりだと自然に大きなため息が漏れる。と同時に数時間後には仕事に行かなければならないのかと思うと、ドッと疲れが押し寄せてくる。
また新しい朝が来るのか……胸が熱くな……ってか焼けそうだな。
そんな事を考えていると、横手から視線を感じて俺はチラリと様子を窺った。そこには、またまた俺をジーっと見つめる神崎さんの顔があった。
小さい顔に大きな瞳。相変わらず清潔感のある黒髪ポニーテールが揺れていた。
いつもの彼女である。
しゃがみこんでいた俺の横にちょこんと膝を抱えてしゃがみこんでいる。
不覚にもその姿に俺はドキッとしてしまっていた。
「あぁ……神崎さん、今、タクシー呼ぶから……ちょい待ってて」
そう言って、俺は電話をかけ始めたのだが、何故だか電話の向こうではツーツーと言う音が鳴り響くのみ。
スマホを確認してみるが、電波はしっかり入っている。
ってことは話し中なのかな?と、俺はしばらく経ってからもう一度かけてみる事にした。
「なんか繋がらないからもうちょっと待ってね」
俺はそう言うと、神崎さんに背を向けて一歩離れるとスマホを見直す。
すると、突然後ろから不意に声を掛けられた。
「危ないです」
「えッ!?」
そう聞き返すと同時に、俺の腕が強い力で引っ張られる。
その力が思ったよりも強かったものだから、勢い余ってたたらを踏んでしまった。俺は一体何が起こったのか酒の入った頭で考えるも、酩酊状態で脳の処理が追いついてこない。
理解できたのは俺が、何故か彼女に背後から抱きとめられる格好になっている、と言う事くらいであった。
慌てて取り乱す俺。
これセクハラじゃないよな!?
そんなことが脳裏に過っていた俺の目の前を何かが通り過ぎたように感じた。
そんな間抜けなことを考えている場合じゃないって言うのに。
その時の俺はまだ理解していなかった。
まぁ、簡単に言えば、なんだ……。
目の前に化け物――鬼? そう鬼がいたんだよ。
信じられるかい?
―――
――
―
「虚無が1体と羅刹が1体ですか。相手にとって不足なし」
神崎さんがこれまでの雰囲気をガラリと変え、物騒なことを言い放った。
俺はと言うと全く着いて行けずに困惑するのみだ。
しかも世界がセピア色に染まっている。
建物や風景。そしてそれらを暗く染める闇夜さえも。
「下がって」
そう言って彼女が前に出る。
そして俺はようやくそこに2体の化物がいるのに気付いたのであった。
「なんだ……? こいつらは……」
俺の目の前にいたのは、鬼のような風貌をした“何か”だった。
と言うか、空想上の妖、俺が思う鬼そのものだ。
その体躯は2メートル近い。
額からは2本の角が飛び出している。
筋骨隆々とした体は、どこぞのプロレスラーを彷彿とさせる。
右手には直前に俺に対して振るったであろう鉈が握られていた。
「虚無と羅刹を確認。これより執行官形態に移る」
あの2体はそれぞれ虚無と羅刹というらしいが、どちらがどちらなのかまでは分からない。
ついていけない俺を1人置き去りにして、パンツスーツ姿だった神崎さんは、その姿を変化させていく。背中からは光り輝く2枚の翼が出現し、硬質化した衣のような、鎧のようなものが彼女の体を包み込んでいく。
その色は白銀。
さらに彼女の黒髪は金色に染まり、極め付けは頭上に輝く天使の輪が輝いている。
その姿はどこかロボっぽい。
ったく魔法少女かよッ!
いや、天使か。
うん。天使だな。
なんたらに変わってお仕置きしたり、折檻したりする美少女たちや、なんたらが濁ったら魔女になってしまう類の女の子たちよろしく、その姿を変えていく神崎さんを俺は呆けた眼差しで眺めることしかできない。
もちろん、姿を変えていく彼女を待っているほどの親切さを持ち合わせているはずもなく、その鬼のうち一体が手に持っていた鉈を彼女に振り下ろす。
ガキッ!!
物騒な音を立てて金属と金属がぶつかり合うような音が響く。
「虚無如きが!」
今、神崎さんに仕掛けた鬼は虚無というらしい。
虚無が振るった巨大な鉈は彼女の左手に受け止められていた。
そしてそのまま、鉈を握りしめ、刃を握り潰してしまう。
余裕の表情を崩さない彼女は右手に大きな銃のようなものを出現させると、虚無に向けてぶっ放す。
ド派手な音を立てて、その銃口から光線がほとばしる。
まるで、特撮映画で見たレーザービームのような、はたまた白い悪魔のビームライフルのようなそれは鬼の体を貫くと、向こうにあった街路樹をも薙ぎ払う。
零距離から放たれたそれに貫かれて虚無が悶絶している。引き裂かれた腹からは臓物が飛び出していた。
グロいはずなのに何故か目が離せない。
虚無は貫かれた脇腹を手で抑えるといよいよ盛んに暴れ出した。
だが、彼女は余裕の表情を崩さぬまま、銃口から光線を出したままに、銃を横薙ぎに払った。こちらから見ていると光の剣で虚無の体を薙ぎ払ったように見えた。
その一撃で鬼の1体が地面にドウッと倒れ伏す。
するとその肉体が一瞬で塵と化し、後には黒い水晶のような何かが残るのみ。
仲間がやられるのを見たもう1体の鬼は、慌てた様子で神崎さんの方へ躍りかかってきた。
「今度は羅刹ですか」
羅刹は虚無を更に巨大にした感じで、睨みの利いた雄々しい顔つきをしている。
腕が4本もあり、大剣や棍棒のようなものを左右の手に握りしめている。
無機質なそれは、月の光を受けてぬらりと鈍い光を放っていた。
と言っても本物の剣なんて見た事などないので、いまいちピンと来ない。
羅刹は大きく振りかぶると、彼女に向かって棍棒を振り下ろした。
しかし神崎さんはあまりにも大振りなその一撃を軽々と躱すと、右手に持っていた銃を羅刹の頭に向けた。
そして有無を言わさずトリガーを引く。
その瞬間、羅刹の頭は光の奔流に飲み込まれ、光が消え去った後には、首のない体が残るのみ。
2体と言っていたのでこれで終わりかと思ったのも束の間、首を失った体が不意に動き出す。
「チッ!」
神崎さんは舌打ちを1つすると、光に包まれた掌底を羅刹の胸へと当てるとはっきりとした声で言った。
「【光槍刺突】」
その左手から発せられた光は、羅刹の分厚い胸板に風穴を開けた。
武器を使った様子がないので、もしかしたらあれが魔法という奴なのだろうか?
その体を黒い霞へと変えていく羅刹。
よく見ると、彼女の左手には黒く輝く石のようなものが握られていた。
その姿に呆気にとられていた俺に向かってニコリと微笑むと彼女は小首を傾げながら言った。
「さぁ、帰りましょうか」
その言葉にふと我に返ると、いつの間に戻ったのかいつものパンツスーツ姿の神崎さんが微笑んでいたのであった。
お読み頂きありがとうございました。
引き続きお付き合い下さいませ。




