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DRUG TREATMENT~神魔大戦・聖ナル決断ノ刻~  作者: 波 七海


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第12話 阿久聖、人間辞めるってよ

よろしくお願いします。

 翌朝、部屋から出ると、ちょうどセピアも出るところだったようで、顔を突き合わせることになった。


 お互いが挨拶を交わすと、セピアは少しはにかんだ表情で言った。



「今日はいい天気ですね。良い一日になりそう」



 俺は柄にもなく彼女に微笑みかけながら「そうだね」と返した。

 そして俺たちはいつもの通り満員電車に揺られて出社して、地獄のような労働をこなした(完)


 え? 1日のエピソードを一行で終わらせるなって?

 そりゃ仕方のない話だ。

 労働に妥協は許されない。

 キャッキャウフフなんて世界はないのだ。


 まぁそんな訳で、俺とセピアは並んで帰り道を歩いていた。

 もうこれが普通になってしまった。



「日常か……」



 思わず口から吐いて出ていたが、セピアには聞こえていなかったようだ。

 突然なことばかりで色々と着いて行けないし、まだまだ理解も追いついていないが、護ってもらえることには感謝せねばなるまい。



「それにしても、毎日一緒に帰るのって変に思われないかな?」


「え、大丈夫ですよ。会社の皆さんには、ちょいちょい細工してますから」



 えぇ……何か怖いんだが?

 平然と言ってのけたセピアに軽い戦慄を抱きつつ、俺と彼女は駅へと到着した。


 が!


 なんだか様子がおかしい。

 隣に目をやるとセピアも気づいたようで、周囲を見回している。



「先輩! 虚界《ネイン》とつながります!」



 虚界《ネイン》=(イコール)鬼たちの世界ってとこか?



「しっかし襲撃ってこんなに頻繁に起こるものなん? ちょっと多過ぎない?」


「鬼は宇宙のバグと呼ばれています。それに人間界……特に日本の黒の心臓(ブロークン)保有率はすごく高いんですよ? ヤツらにとってこの世界は餌場と同義です」



 それを聞いて納得してしまう俺。

 鬱屈した毎日に、閉塞感。

 それは幸(・)せ(・)の(・)閾(・)値(・)が(・)上(・)が(・)り(・)に(・)上(・)が(・)っ(・)た(・)故(・)の(・)不(・)幸(・)でもあるんだろう。

 だから俺は日本は好きだけど現代日本人は嫌いなんだよ。



「でも、セピアに会う前は襲われた事なんてなかったぞ?」


「その話は後でッ! 来ます!」



 隣では、セピアが既に執行官形態《エクスキューショナーモード》になって銃口を空に向けている。


 それを見て俺は思う。

 せいぜい足手まといにならないようにしよう。

 そしてセピアの背後に回り込んだ。

 情けないが仕方がない。戦う術を持たないのだから。


 セピアの銃から霊的エネルギーが弾丸となって次々と打ち出される。

 要はあれが光子力《ルメス》なんだろう。

 それは羅刹たちの体を貫通して駅の構内を滅茶苦茶にする。

 銃の連射攻撃にもめげず、修羅《しゅら》や羅刹《らせつ》がセピアを取り囲んでいく。


 ――今回は数が多いッ!



「先輩ッ! 抑えきれないかも知れません! 神人になって頂けませんかッ!?」



 セピアの声色が上ずっている。

 いつもと違って余裕のなさが見て取れる。


 だが――

 

 ここに至って俺の精神障害《トラウマ》が顔を出し始めた。

 まずは体が強張り、身動きが取れなくなる。

 背中を冷や汗が伝い、胸が締め付けられて思考が鈍化してゆく。

 言葉が……出ない。


 俺が神人になる?

 俺は本当に人間辞めるのか?

 そうなってまで生にしがみつく意味などあるのか?


 人間に期待していない俺なら何て事のない選択だと思っていた。

 だが俺の精神にはそう簡単な問題ではなかったらしい。


 神人にすると言葉で聞いてはいたものの、いざそれを目の前にすると決断ができない。こんな時でも俺は俺だった。

 子供の頃からちっとも変ってはいない。


 助けてくれ!

 誰か俺に代わって決めてくれ!

 俺の心が他力本願な方向へ傾いていく。


 セピアは俺が固まっているのを見ると、切り結んでいた修羅《しゅら》から離れ、俺の方へふわりと移動する。そして俺の体を掴んで天空に舞った。


 電線に気をつけながら空中で止まると、俺の体を離すセピア。



「大丈夫。結界内だから」



 俺が彼女の結界内で宙に浮かんで何とか態勢を安定させると、彼女は俺の目をまじまじと見つめてきた。ほんのり顔が紅潮しているように見える。



「覚悟はいいですね?」


「正直どうすればいいのか分からない」


「大丈夫です。私を信じて全てを委ねてください」



 セピアはそう言うと、天使の翼で俺をふんわりと包み込んだ。

 心が温かい“何か”で満たされていく。



「……分かった。是非もない」



 俺の意志を確認すると、セピアは俺の頬を両手で包み込み何やら呟《つぶや》き始めた。



『我、今天に誓う。静謐《せいひつ》に満ちた空間に清らかなる人間の魂を。神人《しんじん》たれ。偉大なる神《マザー》の御業《みわざ》よ、御使いたる天使の加護を与えたまえ』



 言い終えると、セピアの顔が近づいて来る。


 っておい。


 俺が声を上げる前に、唇で口をふさがれてしまった。



「……完了です。これで先輩は私の僕《しもべ》」



 そっと口を話しながら、セピアは目を細めてはにかんだ。


 これは照れる。大いに照れる!

 先程まで固まって動けずにいたのが嘘のように心が晴れる。

 心なしかいつもより力が溢れてくるような気がした。



「いいですか? 自分の中にあるイメージを膨らませてください。武器は既に先輩の中に眠っています。それを取り出すのです。黒の心臓(ブロークン)を持つ先輩ですが、光子力《ルメス》も多少は持ち合わせています。神人化《しんじんか》したことで増加もしていますし。体内の光粒子《ルークアロン》を練り上げる感覚を掴んでください。それが光子力《ルメス》になります。後はそれを具現化した武器や拳にまとわせて攻撃するも良し、光子《こうし》弾として放出するも良しです」


 あんな事をされて俺の心臓はバクバクだ。

 いい歳こいてみっともないが、不意打ち過ぎんだろ。

 それに急にシリアスな口調に戻られても困るっての。


 無理やり精神障害《トラウマ》をこじ開けられた感じだが結局自分で決断できなかったな。つっても今はそんな事を言っていられる状況ではない。

 目の前の脅威を取り除かねばなるまい。

 セピアは俺を地上に降ろすと鬼達との戦いを再開する。


 セピアが言っていたことは、いまいちよく理解できないが、百聞は一見にしかずである。いや、百見《ひゃっけん》は一行《いっこう》にしかずってか?


 まぁとにかく、まずやってみろ!ってヤツだな。

 俺は目を閉じて頭の中にある武器を想像した。

 もやもやとした感じが段々と形になっていくのが分かる。


 集中モードに入ったからか、周囲から聞こえていた爆音がかき消されていく。

 そして頭の中でイメージが固まると、俺は満を持してゆっくりと目を開いた。


 俺の胸の前辺りには、鈍い輝きを放つ一振りの剣が浮かんでいた。

 俺はその剣を手に取ると嬉々としてセピアの方に顔を向けた。



「セピアッ! 武器できた!」



 そこには、俺を放置して銃を全方位に向けてぶっ放《ぱな》す雄々(おお)しいセピアの姿があった。いや、確かに敵が多いから仕方ないけれども。


 俺は気を取り直して剣を構える。

 今の俺は一転して躁状態だ。



「おしッ! 全員まとめてぶっ飛ばすッ!」



 俺は目についた羅刹《らせつ》に向けて突撃した。


 殺《や》らなければ殺られる。

 喰われて死にたくないのなら殺《や》るしかない!


 こればかりは選択の余地はなさそうだ。

お読み頂きありがとうございました。

引き続きお付き合い下さいませ。

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