第1話 おはよう。もう朝だよ。
眠っているの? 葉。
おはよう。もう朝だよ。
とっても懐かしい思い出。真っ白な色のカプセル。
心は丸い形をしている。(たぶん)
存在とは波である。(きっと)
私は私の心が作り出している幻である。(本当に?)
そこには真っ白な色のカプセルがあった。葉はその中に入り込もうと思ったのだ。ここは寒い。だから、少しでも寒さを防げないかな? というただそれだけの子供っぽい単純な動機でそうしようと思ったのだ。
「冷たい。優しくない」
カプセルはとても冷えていた。さっき確認したときよりも随分と冷たく感じた。人生は厳しいなと葉は思った。
カプセルの中に入ると葉は丸まって、瞳を閉じて、そのままじっとして、眠るようにして、動かなくなった。私はここでさなぎになるのだ、と葉は思った。そう思うとなんとなくだけど笑いたくなった。いや、実際に葉の顔はにっこりと笑っていた。
「おやすみなさい」葉は言う。
そしてそのまま、本当に葉は真っ白な色のカプセルの中で眠りについた。寒かったせいか本当にすぐに眠ることができた。それはとても深く、とても安らかな眠りだった。
ドアをくぐって部屋の中に入った桃が見たものは真っ白な色のカプセルの中でぐっすりと眠り続けている葉の姿だった。桃は眠っている葉の姿を見て、一瞬、『すごくびっくりした』けど、よく観察してみると、葉はきちんと呼吸をしていて、小さな寝息も立ててきた。
葉、……よかった。桃はほっとして胸を撫で下ろした。
それから一度深呼吸をして気持ちを切り替える。いつもの桃に戻って、寝ている葉の体を揺すって、葉を夢の世界から現実の世界へと引き戻す作業をした。
葉はすぐに反応して、うっすらとまだ眠たそうな眼を開けた。
「……、桃? おはよう」葉は言う。
「お帰りなさい、葉」呆れたような、ほっとしたような表情をしながら桃が言った。
葉はカプセルの中で体を起こして大きなあくびをした。それからそっと桃を見つめる。
「……私、いけないことしたのに、ルール違反したのに、ちゃんとここまで迎えにきてくれたんだ。桃は優しいね」と葉が言う。
「葉は別になんのルール違反もしていないし、いけないこともしてないよ」
桃は葉に手を差し伸べる。
その手をとって、葉はカプセルの中から抜け出して床の上に移動した。
「なんでも拾っちゃうのは、桃の悪い癖だよね」葉は言う。
「なんのこと?」
「こっちの話」それは葉の見ていた夢の中のできごとの話。(現実の話ではないのだった)
二人は並んでゆっくりと歩き始めた。どうして並んで歩いているかというと、それは『二人がしっかりとお互いの手を握り合っているから』だった。
それからしばらくして、「はっくしょん!」と、葉がくしゃみをした。
「どうしたの? くしゃみなんて珍しい」と桃が言う。
「さっきの場所、すごく寒かった」鼻をすすりながら、葉が言った。
「当たり前でしょ? 本来、立ち入り禁止区画なんだからさ。散歩の途中にそんな格好(葉が着ているのは、桃とおそろいの真っ白なパジャマだった)で、しかも私の許可もなしで、本来は入っちゃいけない場所なんだよ。あそこは」と、笑いながら桃が言う。
「ごめんなさい」と葉は素直にあやまった。そうあやまってからこんなに素直にあやまれる自分に、葉は少しだけ驚いた。
「うん。いいよ」桃が言う。
葉は桃が笑ってくれて、嬉しかった。内心、もしかして桃がとっても怒っているのではないかと思ってどきどきしていたのだ。
「ねえ、桃」
「なに?」
二人は歩き、それから少しして葉が桃に問いかける。
「タイムマシンってなんだと思う?」
「空想の概念」桃は即答する。




