表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の謙遜~俺は他力本願で平穏に生きたいのに、奴隷たちが勝手に俺を神様にして話をややこしくする  作者: AI-generated


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/10

04:才能なし、だったはずなのだが

奴隷商から連れ帰った少女は――完全に死にかけていた。


衰弱。

謎の高熱。

栄養失調。


素人目に見ても危険な状態だと分かる。


「いや、本当に死にそうじゃん……」


安宿のベッドに横たわる少女を見て、俺は頭を抱えた。

正直、ここまで状態が悪いとは思わなかった。


でも、貴族の服を着ていたおかげで、

宿の主人が「訳ありの貴族のお坊ちゃんか」と勝手に勘違いしてくれたらしく、

すんなり部屋を借りられたのだけが救いだった。


***


だがここへ連れてくるまで、現実の甘さをこれでもかと叩きつけられた。


最初はいつもの医者を呼んでもらおうとした。


実家に頼れば、

「不衛生な奴隷など疫病の元だ」と父親に追い返された。


街の医者へ行けば、

「御当主様から『あいつは破門したからもう関わるな』と御触れがあったもので」と先手を打たれていた。


薬屋へ駆け込めば、

「本人を連れてこい」と門前払いされた。


「こんな状態で、動かせるわけないだろ!」


コネも、専門知識もない。

俺はこのまま何もできないっていうのか?

ちくしょう……ちくしょう……


***


いや、待て。

正確には一つだけできることがあった。


魔法だ。


俺にも一応使える魔法がある。

才能のない俺でも使える『回復魔法』レベル1だ。


もっとも。

才能がある奴なら一瞬で発動する魔法を、俺は3分近い詠唱をしなければ発動できない。


しかも効果は雀の涙だ。

だから、事前に『バフ魔法』も使わないといけない。


「……やらないよりはマシか」


そして必死に記憶を掘り起こす。


「ええっと……大いなる大地の……」


長い。

とにかく長い。

だから、途中で噛む。何度も噛む。


ようやく詠唱を終えると、俺の身体が頼りない緑色の光に包まれた。


ぽわり。


本当にそれだけだった。


「ショボ……」


思わず口に出てしまった。

だが、俺にできることはこれしかない。


「……よし、次は回復魔法をやるか」


俺は少女の手を握り回復魔法の詠唱を始めた。


――ただそれだけを、必死に繰り返した。

それから、地獄のような日々が始まった。


***


変化に気づいたのは、翌日の夜だった。


宿のボロ部屋は真っ暗になる。

だが、なぜか少女は横たわったまま、ほのかにずっと白銀色に光り続けていた。


「……よくわからんけど、蝋燭代が浮いて明かりの代わりになるからいいな」


なんて、最初はそんな軽口を心の中で叩く余裕もあった。


だけど、一日、また一日と時間が過ぎていくにつれて、

強くなったり弱くなったりするその光がまるで、

彼女の命の灯火のカウントダウンのように見えてきて、だんだん怖くなってきた。


魔力が尽きたら休む。

回復したらまた使う。


ベッドで眠る少女が呼吸するたびに安心する。

静かになるたびに不安になる。

仮眠から目覚めて最初に確認するのは少女の生死だった。


相変わらず少女の高熱は続いている。


「頼むから死なないでくれよ……」


気付けば毎日そう呟いていた。


『あと一日だけ頑張れ』


『もう少しだ』


『絶対治る』


そんな言葉も何度口にしたか分からない。


***


丸三日、ろくに寝ずに魔法をかけ続けた四日目の朝、

次第に魔力回復の待ち時間になると、俺は部屋を飛び出すようになった。


理由は簡単だ。


現実逃避である。


万病を治せるヒーラーはいないのか。


回復特化の奴隷はいないのか。


そんな都合のいい存在を探して、奴隷商をうろつく。


当然見つからない。


見つかるわけがない。


それでも動いていないと落ち着かなかった。


――まあ、これが現実だよな。

異世界転生したからって、何もかも都合よくいくわけがないんだ。


そう思ったことも何度も何度もあった。


***


だが、おかしなことはそれだけじゃなかった。


俺の回復魔法はレベル1のはずだ。

普通なら気休め程度の効果しかない。


衰弱して動けない少女に、

俺の食事の余りを少しだけ与えていたとはいえ、だ。


まだ、少女は生きていた。

病が悪化もしないが、峠を越えたようにも見えない。


確かに死なないでいてくれと毎日願ってはいたが……なんで生きているんだ?


***


そんな現実逃避を交えた看病生活が、一週間を過ぎようとしていたある朝。


俺はいつも通りバフ魔法をかけ終え、

本命の回復魔法の詠唱を始めようとしていた。


「よかったな。今日でよくなるからな~」


今日も日課となった、

自分を奮い立たせるための気休めを呟きながら、少女の額に触れた。


その時だった。


「……ん?」


違和感を覚える。


少女から発せられている、

いつもは夜しか感じられない白銀色の光が、見えた気がした。


「気のせいか?」


疲れのせいだと思いながらも、俺は祈るように詠唱を続ける。


「大いなる慈悲の――」


少女の手を取り、

回復魔法が発動した瞬間だった。


眩い光が、部屋全体を埋め尽くした。


「うおっ!?」


目が開けられない。

それは夕日のような力強くて暖かい、黄金に輝く光だった。


魔法が失敗したのか?

それとも近所で事故があった?


何が起きたのか分からない。

数秒後、ようやく光が収まり、恐る恐る目を開けると――俺は固まった。


ベッドの上で、少女が起き上がっていたのだ。


「……ふわぁ」


眠そうに欠伸をしている。


呼吸も正常に見える。額を触るが熱もない。

泥だらけだが、その隙間から覗く肌は健康的なピンク色だった。

数日前まで死にかけていた人間には、とても見えない。


「……え?」


理解が追いつかない。


俺の回復魔法がこんな効果を持つことは絶対にない。

そんなことは俺自身が一番よく知っている。


――だとしたら、あの夜に見た強くなろうとしていった白銀の光は、

命の灯火なんかじゃなく……彼女自身の何かが目覚めた光だったのか……?


呆然としていると、少女がこちらを見た。

潤んだ瞳がみるみる輝き始める。


「……助けていただき、ありがとうございます。神様」


少女は満面の笑みを浮かべた。

鈴のような綺麗な声だった。


だが、即座に否定した。


「いや違う。俺は神じゃない」


「神様です」


「違う」


「神様です」


「話を聞け」


なぜか断言された。


少女は感極まったように胸の前で両手を組む。


「暗い世界の中で、ずっと綺麗な黄金の光と一緒に、

 神様の優しい声が聞こえていました」


「声?」


「あと一日だけ頑張れ、と」


俺は固まった。


「絶対治る、と」


嫌な予感がする。


「もう少しだ、と」


「冷たい私に、温かい光を注ぎながら、

 ずっとずっと、そう声をかけ続けてくれました」


あ……これ。

全部俺だ。看病中の独り言だ。


「だから分かったんです」


少女は涙を浮かべながら微笑む。


「私を救ってくれた神様だって」


「違うんだけどなあ……」


俺は天井を見上げた。


どうやら。


とんでもなく面倒な勘違いが始まったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ