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勇者の剣

王都へ向かうことを決めた俺だが、その前にもう少し大魔王城(だいまおうじょう)の中を調べることにした。


頭に焼きついた情報の中には、大魔王城内部(ないぶ)の地図もある。


一番気になるのは、地下にあるらしい宝物庫(ほうもつこ)だ。



コツ……コツ……


宝物庫へ続く階段を降りていくと、そこには6(じょう)ほどのスペースが()いているだけで、()()まりだった。


「ん、どういう事だ?」


脳内に浮かぶ地図には、ここから先に宝物庫があると示されている。


とりあえず、()()たりの(かべ)を調べようと右手で()れる。


すると、壁一面(かべいちめん)に巨大な漆黒(しっこく)魔法陣(まほうじん)が浮かび上がり、光を放った。


光が収束(しゅうそく)すると、そこにあったはずの壁が忽然(こつぜん)と消え、その奥に20(じょう)ほどの広さの空間が広がっていた。


所狭(ところせま)しと並べられた、大小様々(だいしょうさまざま)宝箱(たからばこ)。俺は、子供の頃にハマったゲームに入り込んだような興奮(こうふん)を覚えた。


「なるほど、この宝物庫の(かぎ)は俺自身。つまり、俺の魔力を通さないと入れない仕組(しく)みか!」


神様が用意してくれたのであろう俺の住処(すみか)は、なかなか楽しい仕掛(しか)けになっているようだ。



プレゼントを開けるようなワクワク感を感じながら、次々と宝箱を開けていく。


宝箱の中身を検分(けんぶん)していると、貴重(きちょう)薬草(やくそう)便利(べんり)なアイテム、強力な装備(そうび)など、様々なものが入っていた。


中でも一際(ひときわ)存在感(そんざいかん)(はな)っていたのは、ひと()りの(つるぎ)だ。


白銀(はくぎん)(かがや)刀身(とうしん)には、一点(いってん)(くも)りもなく。

草花(くさばな)をモチーフにした(こま)やかな装飾(そうしょく)

持ち手にはオパールのように、神秘的(しんぴてき)な輝きを放つ宝玉(ほうぎょく)がはめ込まれている。


俺は吸い込まれるように、(つるぎ)(つか)に触れた。


白龍銀(はくりゅうぎん)と呼ばれる、魔力と親和性(しんわせい)の高い希少金属(きしょうきんぞく)(つく)られた(つるぎ)意匠(いしょう)()らした究極(きゅうきょく)逸品(いっぴん)。使用する者の魔力、特に光属性の魔力を増幅(ぞうふく)させる効果がある。】


触れた瞬間、脳内へ(つるぎ)に関する情報が浮かぶ。


「なんていうか……勇者の(つるぎ)にピッタリだな。勇者選定(ゆうしゃせんてい)にはこれを使おうか。」


俺は同じく宝物庫で見つけた、容量無制限(ようりょうむせいげん)のマジックバッグに(つるぎ)仕舞(しま)い、宝物庫をあとにした。



最初に居た部屋まで戻った俺は、玉座(ぎょくざ)肘掛(ひじか)けに付いた拳大(こぶしだい)の球体に触れる。


この球体が、複合魔法(ふくごうまほう)【テレポート】を使う時の、地点登録(ちてんとうろく)をするアイテムになっているのだ。


【テレポート】は、最高難度(さいこうなんど)の魔法のひとつである。基本属性(きほんぞくせい)全てと、光か闇どちらかの特殊属性(とくしゅぞくせい)を持っていないと発動(はつどう)できない。

しかも、魔力の強さによってテレポートできる距離が大きく(こと)なるため、長距離(ちょうきょり)の移動には不向(ふむ)きである。


しかし、俺は発動条件(はつどうじょうけん)を満たしており、魔力も突出(とっしゅつ)して高いため、大魔王城からおよそ600キロメートル南東(なんとう)位置(いち)する王都へも、一瞬(いっしゅん)で【テレポート】できる。


俺は、王都の座標(ざひょう)を確認し、魔法を発動させた。



500年で異世界一(いせかいいち)大国(たいこく)(のぼ)りつめたパッヘルベルンの心臓部(しんぞうぶ)、王都ベルリナ。他のどの都市よりも、魔法が発達した大型都市(おおがたとし)だ。


王国(パッヘルベルン)の中心に位置するこの都市(ベルリナ)は、北にある大きな川から水路(すいろ)が引かれ、食料の生産も盛んに行われている。


(おだ)やかな気候(きこう)豊富(ほうふ)水源(すいげん)がもたらす(めぐ)みは、民の心身(しんしん)をともに豊かにした。

そのおかげか、民の多くが強い魔力を持ち、その魔力を使い、都市(ベルリナ)をさらに発展(はってん)させてきた。


ベルリナには、国中の人々が集まってくる時期がある。毎年春に行われる建国祭(けんこくさい)の期間だ。


丁度、今の時期が建国祭(けんこくさい)シーズンであり、王都は多くの人で(にぎ)わっている。



(なん)なく王都へと【テレポート】した俺は、闇魔法【影渡(かげわた)り】により影の中に隠れ、辺りの様子を(うかが)っていた。


どこを見てもほとんど人でごった(がえ)していたが、一箇所(いっかしょ)だけ人の間に大きなスペースが()いているところを見つけた。


「さぁさぁ!我こそは力自慢(ちからじまん)という者は名乗(なの)りを上げろ!この大岩(おおいわ)を一人で持ち上げたら金貨(きんか)10枚だ!!」


どうやら、祭りのイベントらしい。道化(どうけ)のような格好(かっこう)をした中年(ちゅうねん)の男が、高さ1m、(はば)奥行(おくゆき)5m程の大きな岩の前で声を()()げている。そこから、少し距離をとって人垣(ひとがき)が出来ていた。


「……アレは、丁度(ちょうど)いいな。」


俺は口の端をあげると、影の中から魔法を発動させた。


突如(とつじょ)、大岩の真上(まうえ)に展開される漆黒(しっこく)の巨大な魔法陣(まほうじん)。そこから、ひと振りの(つるぎ)が現れ、大岩に深く()()さった。


「ッなんだ!?」


客寄(きゃくよ)せをしていた男が叫ぶ。

(おどろ)きと動揺(どうよう)があっという間に(あた)りに伝播(でんぱ)していく。


俺は影に(ひそ)んだまま、風魔法【伝達(でんたつ)】を使って、人々に声を伝えた。


(おろ)かなる人間共(にんげんども)よ。もうすぐ我ら()(もの)が、この世を支配(しはい)する時がやってくる。(あらが)いたくば、その(つるぎ)を引き抜いて見せろ。脆弱(ぜいじゃく)なお前達には、無理(むり)だろうがな!」


俺は闇魔法【幻影(げんえい)】で、魔物が王都へ攻め入り、蹂躙(じゅうりん)する幻覚(げんかく)を空へ映し出した。


そこかしこから、人々の悲鳴(ひめい)が上がる。俺は胸に小さな痛みを覚えながら、こう()めくくる。


「我は()(もの)()べる大魔王。我等(われら)支配(しはい)されたくなければ、(つるぎ)を手に取り、()(もと)へやってくるがいい!フハハハハハ!」


ブツっと、空に映し出された映像(えいぞう)が消える。人々は(しばら)く動きを止めていたが、段々(だんだん)とざわめき始め、パニック状態に(おちい)った。



そんな時、一人の男性が声を上げた。

「我が国民よ、(しず)まるのだ!」


風魔法で王都全体に(ひび)(わた)るよう拡張(かくちょう)された声の(あるじ)は、この国の現国王(げんこくおう)、ギルフォード・ベルリナだった。


王城のバルコニーに立つその姿は、荘厳(そうごん)そのものであり、老齢(ろうれい)とは思えない迫力があった。


「大魔王と名乗(なの)る者が、この世界に出現(しゅつげん)したのは事実(じじつ)だ。魔物の動きが活発(かっぱつ)になりつつあることもな。」


前を見据(みす)えて、国王は言葉を続けた。


「しかし、我等(われら)脆弱(ぜいじゃく)などではない。()(もの)を打ち倒す力を持っている。それを忘れるな!」


国王の呼び掛けに、国民は水を打ったように静まり返った。パニックに(おちい)っていたのが(うそ)かのように、人々は(みな)落ち着き、国王の言葉に耳を(かたむ)けている。


「それでこそ、我が国民だ。我等が()(もの)(くっ)することは無い!それを証明して見せようぞ!」


ウォーーーー!!!


人々は歓声(かんせい)をあげ、国王の言葉に(こた)えるのだった。



それから、国王先導(せんどう)のもと、勇者選定(ゆうしゃせんてい)が行われた。国王は、王国全体で守りを固め、勇者を大魔王の討伐(とうばつ)へ送り出すことにしたようだ。


大魔王討伐(だいまおうとうばつ)への道のりは(けわ)しいと思われたが、それでも国民の多くが勇者選定の剣を引き抜こうと(こころ)みた。


そして、勇者選定が始まってから5日目。(つい)に、勇者の剣を引き抜いてみせた青年(せいねん)がいた。


青年の名前はレイル。王都から少し離れた村の出身で、年齢は19歳。美しい銀髪(ぎんぱつ)翡翠色(ひすいいろ)の瞳を持った、優しげな青年だった。



「レイルよ、今この時をもってお前は勇者となり、これから大魔王討伐(だいまおうとうばつ)を目指し旅をしてもらうことになる。覚悟(かくご)はよいな?」


「はい、国王様!必ずや大魔王を打ち倒し、この国の平和を守ってみせます!」


片膝(かたひざ)をつき、国王を見上げるレイルの目には、一際(ひときわ)力強い(かがや)きが宿(やど)っている。その腰には、白銀(はくぎん)の光を放つ勇者(ゆうしゃ)(つるぎ)(たずさ)えられていた。

読んでくださりありがとうございます。

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[良い点]  読ませていただきました。設定は面白いと感じました。 [気になる点]  物語が魔王側なので淡々と話が進むことが気になりました。 [一言]  読ませて頂きありがとう御座いました
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