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転生先は大空でした  作者: 高木 藍
第四章 平民ではない家族と王族ではない自分

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幕間〜兄の呟き

イイね&評価、ブックマーク有り難うございます!

 ティナの葬儀を終えて、家に戻る。エリスは自宅に戻らず、今日はこの実家に泊まる。エリスの夫であるディントは、巡視兵見習いの俺に時々稽古もつけてくれて、良い兄貴だ。ディントは自宅に帰った。


 母さんは、ティナの羽カバーを握りしめて俯いている。皆、黙って座っていた。こんなに静かな家は初めてだ。小さなティナが居ないだけなのに、いつもの家が、どうしょうもなく広く寂しく感じた。


 「ティナは無事に着いたかな…」


 重苦しい空気の中、俺は呟いた。


 「…そうよ。ティナは死んでしまった訳ではないのよ」

 

 はっと、エリスが顔を上げる。


 「簡単には会えない存在になってしまったけれど、この世からいなくなった訳じゃないわ」

 「そうだよ!俺達がこんなに暗くなってるなんてティナが知った怒るよ。私は死んでないよ?って」


 俺も笑顔で言う。


 「…そうだな。ティナが元気で生きている事を、オレ達が知っていたらそれでいいんだ」


 父さんも顔を上げた。


 「そうね、可愛いティナは元気で生きている」


 母さんも涙を流しながら頷いた。


 「ティナは元気って思ったら、お腹が空いちゃったわ」

 「ご飯にしましょうか」


 重苦しい空気は途端にいつもの暖かなものへ変わった。


 その食卓は、ティナの話ばかりだった。生まれてからの色々な不思議だった話や、笑い話、市で飛ばされた話を、皆で笑いながら話した。ティナの13年を振り返りながら。




 ティナが生まれた時、俺は凄く嬉しかった。妹が出来た。俺は守られるばかりの存在ではなく、守るべきものが出来たのだと。愛らしい妹は、大好きなモモチャイと同じくらい大好きな存在だった。


 幼い妹は、不思議な髪と瞳を持っていた。更には光り輝く白の翼は何よりも美しかった。その翼を隠さねばならないと聞いたとき、とても残念な気がした。しかし、あれ程美しい翼だ。拐われるかもと言われて、納得した。


 ―何があってもティナは僕が守る!


 そう心に誓ったのだ。


 ティナは愛らしくそして美しいだけでなく、とても賢かった。手習い前の歳だったのに、俺とエリスがちょっと教えたら、直ぐに読み書き計算を覚えた。手習いに行き始めて、あっという間に読み書きは追い抜かされた。更に、ティナは手習いをせずセレスティナ先生の手伝いをする事になった。

 当時は何も思わなかったが、今思えば、ティナに魔力があるから、セレスティナ先生に制御の仕方を習っていたんだとわかる。


 俺には大きな後悔が2つある。1つはエリスが拐われた時だ。皆、俺が子供だったから仕方ないと言うが、それは違う。俺がもっとしっかりしていれば、エリスが拐われる事は無かった。ティナからも気を付けるように言われていたのに、家の前だからと気が緩んでいたんだ。あの時の男の、夕日の様な翼の色だけは、今でも目に焼き付いている。


 もう一つは、ティナを3年も眠らせる原因になった事だ。それも、皆は俺のせいじゃ無いと言う。訓練中の事故で、本来ならティナを巻き込んだ大人が悪いのだ、と。それも違うんだ。巡視兵の訓練は事故が多く危ないので、近くは通らないように言われていたのに。ちょっと横切るだけだからと、近道しようとした俺が悪いのだ。

 目が覚めて、とんでもない事になったと青ざめ、ティナが死にかけて眠ってしまったと聞いて、更に絶望した。俺のせいでティナは眠ってしまった。その時に、ティナが後数年で王族になると聞いた。俺のせいで家族で過ごす時間が無くなってしまったのだ。俺は仕事や訓練が無いときは家に居て、ずっとティナに寄り添った。青白く、ただ息をしているだけのティナに、ずっと話し掛けた。

 ティナは3年も眠っていた。俺は毎日ティナに謝っていた。ティナが目を覚ましたら、一番に言いたいことがあった。俺の命を救ってくれて有り難うと。ティナの目を見て言いたかった。


 俺が台所で水を飲んで、ティナの所に戻ると、ティナが起き上がって見えた。慌ててティナを見ると、いつもの青白い肌ではなく、血の通った顔色をしていた。目を開き、「だれ?」そう言ったのだ。俺は夢かと思った。ティナが目覚めたのだ。涙でティナが歪む。その時、母さんが市から帰って来た。母さんも、エリスも泣いた。ティナが帰って来たのだと。

 ティナは目覚めて直ぐに、動けない体を戻すために貴族街へと連れて行かれた。目覚めて嬉しかったが、また寂しくなってしまった。次にティナが戻って来た時の為に、俺は体を鍛えることにした。父さんやエリスの婚約者のディントに頼んで稽古をつけてもらった。


 ティナが貴族街から戻って、暫くは昔の我が家が戻った様だった。しかし、楽しい時間は瞬く間に過ぎ去り、ティナは王族となる為に、去っていった。


 

 ティナはもう、ここには居ない。でも、元気で生きている事は知っている。だから次にあった時びっくりさせる為に、俺は立派な巡視兵になると決めた。


 「ティナ、俺はすげぇ巡視兵になるから、待ってろよ!」


 今日も木刀を振り返りながら、訓練だ。



 「…カルムは本当にティナが好きだな」

 「ティナがいつだったか、『シスコンって言うんだよ』って言っていたわ」

 「シスコンか…アイツは結婚できるのか?」

 「…難しいかも」


 …父さんとエリスが俺を見ながら何か言っている。素振りの邪魔はしないでくれ。

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