幕間〜王子の回顧(3)〜
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母様が逝ってから、ソフィアレッタは母上が母となり、育てていた。実母と変わらぬ愛情を注ぎ、生まれて程なくして実母を亡くしたソフィの為に、実母はどんなに良い母であったか、常々話して聞かせていた。俺達兄姉も、目一杯可愛がった。お陰で異母でありながらも卑屈になったり、愛を疑うことはなく、セオリー通りの甘えん坊の末っ子姫に育った。
魔力も有り、国王陛下によく似た弟と何かと比べられたが、ルサはオレによく懐いていたので、周りから何か言われても、雑音程度に聞き流す様になった。アルティ姉様も、ソフィも外野を気にせずオレを受け入れてくれていた。3歳の時にオレにいらん事を言って、父の逆鱗に触れた、ガラファド公爵は鳴りを潜めていた。娘をルサの許婚にする事は諦めいないようだが。
セレス達が貴族院を卒業して、成人となった。セレスは魔力測定器の研究が捗ると喜んでいた。
それから驚く事に、アルティアーナ姉様が母の祖国である、プレストル公国の第一王子に見初められ、嫁ぐことになった。アルティ姉様の成人は来年だったが、元々成績は良かったため、飛び級してセレス達と一緒に卒業となった。1年プレストル公国で王妃教育を受け、来年成婚となるそうだ。
気が強くて、オレの周りでは一番お嬢様然としているアルティ姉様だったが、その分第一王女としての矜持があった。そう云う所が気に入られたのかも知れない。まぁ、美人だしな。
成婚祭は、プレストル公国で行われる為、婚約を祝う宴をアトワーフで開かれる事となった。
宴には各国の要人も招かれた。王族達は、他国の王族と知り合える好機だ。それは、他国から来ている王族も然りで、宴は集団お見合いの様相を呈していた。
オレやルサは兄弟なので参加していたが、基本的に宴はデビュタントしていない未成年は参加出来ない。その為、オレとはルサは暇で仕方なかった。コッソリ抜け出して、走り回っていた。
コッソリ抜け出していたのは、オレとルサだけで無かったらしい。王城の園庭にある池の畔で、セレスを見つけた。
「セレスね…」
声を掛けようとした時、オレ達とは反対側から男が1人セレスに近寄って行った。
―誰だ?身なりから、他国の高位王族っぽいな。
「隠れるぞ」
「どうして?」
「いいから!」
何も分かっていないルサを引っ張り、物陰に隠れて二人を観察する。
…何か話しているけど、聞こえないな。もう少し近寄ろう。
音を立てないように気を付けて、二人に近づく。
「…これは、魔力減少症に使われる草ですか?」
「ええ…希に沼地に生えるので、時々探しに来るんです」
「もっと森深い所でしか見つからないと、書物には記載されていましたが…」
「そうなんです。私もそう思っておりましたが五年前…」
物凄い微笑み合いながら話しているから何の話かと思えば、全く色気のない話しをしていた。オレには興味深い話だが。とは言っても見た感じいい雰囲気なので、そっとしておこう。
「ルサ、あっちに行こう」
「セレスねえさまは?」
「お客様とお話中らしいから、邪魔したら悪いだろ?」
「うん」
「甘い物でも探しに行くか」
「やった!お菓子!」
会場に戻ると、珍しく焦った様子のカインに会った。
「アルベティウス殿下、ルサルジウス殿下、ご機嫌麗しゅうございます」
「ああ、カイン。所で、何かあったのか?顔色が悪いぞ」
「顔に出すとは、従者失格でございますね。ご心配頂き恐れ入ります。実は、目を離した隙きに姫様が居なくなってしまわれて…」
「ああ、さっき見たぞ。他国の王子といい雰囲気だったので、声は掛けなかったのだ」
「何ですって?姫様が?」
心底驚いた顔をしている。
「セレス姉様だって美人で優秀なんだから、見初められたって可笑しくないんだぞ」
「ミソメラレル?」
―だめだこりゃ。普段のお転婆セレスに振り回されてるから、見初められるって聞いても脳が理解を拒否してるな。
「ブフォっ」
処理落ちしたカインの顔が可笑しくて、思わず吹き出してしまった。
暫くすると、会場にセレスが戻ってきた。王子とは一緒ではなかった。たが、ほんのり頬を染めて、見たことの無い顔をしていた。カインも絶句している。
―こりゃ、セレスに春が来たかな?
案の定、宴から1週間後、隣国のベレナルフから、正式に婚姻を願う手紙が届いた。
アルティ姉様の様に、1年隣国で王妃教育を受けて、来年成婚となるらしい。オレは急に二人の姉を失う事になってしまった。
隣国へ向かう数日前、セレスはオレ達に別れを言いに来た。
「ベティ。魔力測定器はまだ完成に至っていないわ。ベレナルフでも研究して、必ず完成させて持ち帰ると約束するわ」
「待っています。ですが、僕の魔力測定器の事より、セレス姉様が幸せに暮らせたらそれでいいです」
「ベティ…」
不意にセレスが、抱きついて来た。涙を見せたくなかったのだろう。
「ベティの癖に生意気よ!私に任せておけばいいのです。必ず完成させて見せますわ!」
「…有り難う。カイン、大事な姉様を宜しくね」
「…心得ました」
こうして、アルティ姉様もセレス姉様も他国へ嫁いで行った。それから、流言飛語からオレを守る頼もしい姉達が居なくなり、オレは思春期に入ったのも重なって、辛い日々が始まった。
貴族院に入る年齢になっても、オレの許婚は決まっていなかった。貴族院に入ってからも、遠巻きに見られる事はあるが、積極的に関わってくるものは居なかった。一人で細々、興味の有ることを研究したり、フェリオと魔術の訓練をしたりして日々を過ごしていた。
そんな数年を過ごし後、セレスが隣国から帰ってきた。隣国に嫁いでから10年経っていた。御遣い様になって、貴族院の教師として着任した。
「ベティ!久しぶりね」
「セレス…」
「セレス姉様でしょ?でも、ここでセレスティナ先生ね」
随分驚いたが、久しぶりに会えて嬉しかった。すっかり大人の女性になって帰ってきた。しかし、喜びを素直に表現するのは16歳には無理な相談だった。オレの口から出たのは、「ああ」だけだった。
セレスは10年の時間等、まるで無かったかの様に接してきた。オレは10年で中々螺子曲がったと我ながら思う。ただ、前世の記憶があるおかげで、本当の意味で闇堕ちしなくて済んでいるだけだ。
「ベティ。出来たのよ」
放課後、居残りさせられて言われた言葉はそれだった。セレスは10年間諦めずに研究してくれていたのだ。
「さぁ!手を出して」
言われるまま手を出すと、金属の石鹸の様な形のものを、掌に置かれた。
「そのまま魔力を流して」
その金属に向かって、魔力を流す。すると、石は俄に色が変わり出した。
「やったわ!!」
今まで、セレスが作ってきた魔力測定器は何の反応も示さなかった。初めて反応したのだ。まるで、魔力色の色見本を見ている様に、薄いピンクから徐々に色が変わっていった。
「濃緑、濃紺…まだ変わるわ…」
最終的に、濃い紫で反応は止まった。
「紫だわ」
「紫だね」
「やったわ…遂にやったのよ!!しかも、紫よ!!凄いわ!凄い!」
御遣い様であり、王妹で有り、淑女であるはずのセレスはとてもそうは見えないくらい、燥いでいた。
「早速お兄様にお話しなくては!翼の色は伊達では無かったとね」
微笑むセレスが、つばさに見えた。オレの心を救ってくれた、つばさ。今世でもオレの心を救ってくれた人が居る。姉の様に慕っていたので、恋愛感情は無いが(つばさ以外は恋愛対象にならないので)、酷く懐かしい人に会った様な感覚だった。
貴族院でクラス分けの時、オレの魔力を感じられる人間が居なかったため、最下級生クラスにされそうになった。しかし、フェリオがそれは絶対に違うと聞かなかった。何故なら、魔力無しなら魔術は使えないが、オレは普段から使っていたからだ。それならばと、院長が魔石を作ってみるように言った。
魔石は魔力が有れば、比較的に簡単に作ることが出来る。魔力が無いと時間も掛かる上、大きさも小さく純度も低い物になる。
個人的に色々な研究をしていたので、魔石は普段からよく作っていた。なので、魔石を作るのは造作もない事だった。オレはそれなりの大きさで、純度も高い魔石を、短時間で幾つも作った。普通の高位貴族で1日1つ出来ればいい方らしい。25個作った所で、院長から白旗が上がり、晴れて上級クラスになったのだ。それでも噂は消えず、忖度があっただとか、権力で無理やり上級クラスに入った等と噂されていた。
魔力が大きいと云うのは、目の当たりにした者は身に染みるが、対外的に数値で示せなかった(ここで云う色や濃さ)為に疑う者は多った。更に、十数年囁かれ続けた噂は一朝一夕で消すことは叶わなかった。しかし、セレスの発明した魔力測定器ならば、ハッキリと魔力量も濃度も示す事が出来るので、噂を払拭する事が出来るのだ。
その事があってから、オレの中にあった蟠りの様なよく分からないドロドロした何かの塊は、少しずつ溶けていった。弟とも引け目を感じず接する事が出来るようになっていった。セレスはオレを研究助手にする様になった。元々、研究好きのオレには願ってもない事だった。更に、個人的に魔術の扱いも教えてくれた。その頃から、セレスの事を師匠と呼ぶようになった。
セレスの弟子として充実した毎日を送る中で、オレは一つの事を心に決めた。
―オレの未来は王城にはない。
アルベティウスの過去を3話に詰め込みました。もっとエピソード等ありますが、取り敢えず駆け足で。この後、成人の宴と繋がります。
今日も更新が遅くなって申し訳ありません。




