幕間〜王子の回顧(1)〜
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…気を失ったのか。全く…また田代のヤツに小言を言われるな。…?目が開かない。どうしてだ?
『先生!泣きません!』
酷く慌てた女性の声がする。
『肺から羊水を吸い出すのです!』
別の女性の声だ。
―羊水?
『癒術を!』
『癒術掛けていますが、反応がありません!』
『何としても、生かすのよ!』
遠くに切羽詰まった女性達の声が聞こえる。
―何だ?何なんだ?
背中を擦る感覚がする。
―やめろ!
「やめろって!」
自分ではそう言った積もりだったが、口から出たのは声では無かった。
オギャー!オギャー!
「泣きました!王子様は大丈夫です!」
「ああ…よかった…」
…王子様?
「さぁ、王妃殿下。一番最初の乳だけは産んだ母しか与えてやれないのです。母の唯一の特権でございます」
「ああ、可愛い王子」
ふわりと柔らかな布に包まれたかと思うと、暖かな、でも少しぎこち無い腕に抱かれた。
無意識に乳を吸った瞬間、理解した。
―オレは死んだのか。生まれ変わったんだ。…つばさや子供達にはもう会えないのか…
全てを理解したが、それは絶望を受け入れる事だった。オレにはつばさや子供達が全てだった。それがもう自分の物では無くなったのだ。
「生まれたかっ!!」
バンッと音がしたと同時に、男の声がした。どうやら父らしい。
「まぁ、あなた。そんなに慌てなくても大丈夫ですわ」
ふふふと、笑う女の声。母だろう。
「メルティ。よく頑張った」
「有り難う存じます。あなた、王子です。抱いてあげて下さいまし」
「お、おおう。王子か!めでたい!…だが、どうやって抱くのだ?」
見えはしないが、父がオロオロしつつ喜んでいるのがわかる。
―落とさないでくれよ。
少々可愛くない事を考えつつ、大きく暖かな腕に抱かれ、とても安心していた。
「赤子とはこんなにも小さいものだったか。折れてしまいそうだ」
「か弱い存在ですから、私達が守ってあげなくては」
「ああ、そうだな。しかし…髪の色が酷く薄いな」
「そうですわね。もう少し経てばはっきりするのかもしれません」
「だといいが。それよりも、名前はどうする?」
「あなた、お決めになっているのではなくて?」
「知っておったか…アルベティウス。どうかな?」
「アルベティウス…威厳があって良うございますね」
「そうか!気に入ってくれたか?よし、お前は今からアルベティウスだ」
―アルベティウス。長い名前。日本人じゃなさそうだし、王子様っぽいし。…最悪だ。
そう思った溜息は、泣き声になった。
「おお、よしよし。母に代わろう」
父はそっと割れ物を扱う様にして、オレを母に渡した。
「アルベティウス。父と母です。貴方を守るわ」
とても優しい声だった。つばさが子供を産んだ時を思い出した。
―母親はとても優しくて強い。少なくとも愛されて生まれて来たんだな。オレは
「誕生祝いの祭りをやろう!3ヶ月程準備をするぞ。そこでお披露目だ。取り敢えず、今日から3日間は誕生を祝って国民は休日だ」
…マジか。
「触れをだせ」
誰かに命令していた。
3ヶ月後、王城のバルコニーへ母に抱かれて出た。
…すごい人…
「王子様万歳!シュラーリア様へ感謝を」「陛下おめでとうございます!」
そんなような事を、口々に発している。
「皆のもの!第一王子アルベティウスである!我が息子の誕生を祝ってくれ!シュラーリア様に感謝を!」
「「シュラーリア様に感謝を!」」
空気を震わせた。民衆の声が振動となって伝わってくる。
―何か凄い所に生まれてしまった。プレッシャーしかない…
一頻り、手を降ったり両親がした後、部屋に下がる。
「アルベティウス。お前に専属の警護を着ける。これへ」
父が手を上げると、まだ少年の騎士が近づいて来た。
「フェリオルフ・フリアと申します。以後お見知りおきを」
まだ赤ん坊の自分に信徒の礼を尽す。
―真面目な奴だな。でも、いい目をしてる。
宜しくと言わんばかりに手を上げる。
「まぁ、アルが喜んでいるわ」
「!有り難き幸せにございます」
「フェリオルフは貴族院に入ったばかりなので、授業以外でアルに着く」
「頼りにしていますわね」
「はっ!」
「お兄様」
誰かが入ってきた。
「おお。セレスティナ。アルベティウスに会ってやってくれ」
「初めまして。叔母のセレスティナよ」
母とは違った美少女が自分を覗き込む。賢そうな子だ。まぁ、叔母だけど。
「あら。オルフが専任護衛になったのね」
「…左様でございますね」
「セレスティナ様、専任護衛となりました。宜しくお願い申し上げます」
「相変わらず堅いわね」
「…堅うございますね」
「…カインに言われたくない。…ないです」
どうやら、叔母と叔母の従者とは既知の様だ。両陛下の御前と思い出し、敬語にしたな。
「うむ。お前達は既に友人同士の様だな。暇が合えばアルベティウスに会いに来てやってくれ」
「ええ、もちろん」
「御意にございます」
それから、叔母達はちょくちょくやってきては、「髪も瞳も色が薄いわ」「私には魔力が感じ取れません」とか、あーだこーだ言っている。
「何馬鹿な事を仰って?こんなにも強大な魔力なのに。大き過ぎて感じ取れないのね」
「斯様な事があるのでございますね」
「ええ。私より魔力の多い方は中々いらっしゃらないので、理解して頂けなくて。アルが魔力無しなのでは何て、巫山戯た噂が流れているの」
「それは存じております。しかし、間もなく名納め。その様な噂は消えてしまうのでは?」
「名納めの場所は基本的には人に明かすものではないわ。それとなく流すことは可能でしょうが、何処まで広がるか…」
どうやら、オレの薄い色素のお陰で誹謗中傷されているらしい。この可愛い叔母はそれが許せない様だ。
…両親はそんな素振りも見せなかったなぁ。叔母さんが一生懸命「ベティには魔力がありましてよ!」って言ってたのを信じてくれたのかな?
「私、ベティの為に魔力を測定する魔術具を発明致しますわ」
「微力ながら、お手伝い致します」
壁際で、フェリオもウンウンと頷いていた。
…苦労は多そうだけど、人には恵まれたらしい。
頼りになる姉貴分や、兄貴分に囲まれて、この世も捨てたものでは無いのかもと、思い始めていた。
アルベティウスの過去話です。いくつか続きます。




