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転生先は大空でした  作者: 高木 藍
第三章 平民の居ない場所と平民しか居ない場所

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幕間〜王子の回顧(1)〜

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 …気を失ったのか。全く…また田代のヤツに小言を言われるな。…?目が開かない。どうしてだ?

 

 『先生!泣きません!』


 酷く慌てた女性の声がする。


 『肺から羊水を吸い出すのです!』


 別の女性の声だ。


 ―羊水?


 『癒術を!』

 『癒術掛けていますが、反応がありません!』

 『何としても、生かすのよ!』


 遠くに切羽詰まった女性達の声が聞こえる。


 ―何だ?何なんだ?


 背中を擦る感覚がする。


 ―やめろ!


 「やめろって!」

 自分ではそう言った積もりだったが、口から出たのは声では無かった。


 オギャー!オギャー!


 「泣きました!王子様は大丈夫です!」

 「ああ…よかった…」


 …王子様?


 「さぁ、王妃殿下。一番最初の乳だけは産んだ母しか与えてやれないのです。母の唯一の特権でございます」

 「ああ、可愛い王子」


 ふわりと柔らかな布に包まれたかと思うと、暖かな、でも少しぎこち無い腕に抱かれた。


 無意識に乳を吸った瞬間、理解した。


 ―オレは死んだのか。生まれ変わったんだ。…つばさや子供達にはもう会えないのか…


 全てを理解したが、それは絶望を受け入れる事だった。オレにはつばさや子供達が全てだった。それがもう自分の物では無くなったのだ。


 「生まれたかっ!!」

 

 バンッと音がしたと同時に、男の声がした。どうやら父らしい。 


 「まぁ、あなた。そんなに慌てなくても大丈夫ですわ」

  

 ふふふと、笑う女の声。母だろう。


 「メルティ。よく頑張った」

 「有り難う存じます。あなた、王子です。抱いてあげて下さいまし」

 「お、おおう。王子か!めでたい!…だが、どうやって抱くのだ?」


 見えはしないが、父がオロオロしつつ喜んでいるのがわかる。


 ―落とさないでくれよ。


 少々可愛くない事を考えつつ、大きく暖かな腕に抱かれ、とても安心していた。


 「赤子とはこんなにも小さいものだったか。折れてしまいそうだ」

 「か弱い存在ですから、私達が守ってあげなくては」

 「ああ、そうだな。しかし…髪の色が酷く薄いな」

 「そうですわね。もう少し経てばはっきりするのかもしれません」

 「だといいが。それよりも、名前はどうする?」

 「あなた、お決めになっているのではなくて?」

 「知っておったか…アルベティウス。どうかな?」

 「アルベティウス…威厳があって良うございますね」

 「そうか!気に入ってくれたか?よし、お前は今からアルベティウスだ」


 ―アルベティウス。長い名前。日本人じゃなさそうだし、王子様っぽいし。…最悪だ。


 そう思った溜息は、泣き声になった。


 「おお、よしよし。母に代わろう」


 父はそっと割れ物を扱う様にして、オレを母に渡した。


 「アルベティウス。父と母です。貴方を守るわ」

 

 とても優しい声だった。つばさが子供を産んだ時を思い出した。

 

 ―母親はとても優しくて強い。少なくとも愛されて生まれて来たんだな。オレは


 「誕生祝いの祭りをやろう!3ヶ月程準備をするぞ。そこでお披露目だ。取り敢えず、今日から3日間は誕生を祝って国民は休日だ」


 …マジか。

 「触れをだせ」


 誰かに命令していた。



 3ヶ月後、王城のバルコニーへ母に抱かれて出た。


 …すごい人…


 「王子様万歳!シュラーリア様へ感謝を」「陛下おめでとうございます!」


 そんなような事を、口々に発している。  


 「皆のもの!第一王子アルベティウスである!我が息子の誕生を祝ってくれ!シュラーリア様に感謝を!」


 「「シュラーリア様に感謝を!」」


 空気を震わせた。民衆の声が振動となって伝わってくる。


 ―何か凄い所に生まれてしまった。プレッシャーしかない…


 一頻り、手を降ったり両親がした後、部屋に下がる。



 「アルベティウス。お前に専属の警護を着ける。これへ」


 父が手を上げると、まだ少年の騎士が近づいて来た。 


 「フェリオルフ・フリアと申します。以後お見知りおきを」


 まだ赤ん坊の自分に信徒の礼を尽す。


 ―真面目な奴だな。でも、いい目をしてる。


 宜しくと言わんばかりに手を上げる。


 「まぁ、アルが喜んでいるわ」

 「!有り難き幸せにございます」

 「フェリオルフは貴族院に入ったばかりなので、授業以外でアルに着く」

 「頼りにしていますわね」

 「はっ!」



 「お兄様」


 誰かが入ってきた。


 「おお。セレスティナ。アルベティウスに会ってやってくれ」

 

 「初めまして。叔母のセレスティナよ」


 母とは違った美少女が自分を覗き込む。賢そうな子だ。まぁ、叔母だけど。


 「あら。オルフが専任護衛になったのね」

 「…左様でございますね」

 「セレスティナ様、専任護衛となりました。宜しくお願い申し上げます」

 「相変わらず堅いわね」

 「…堅うございますね」  

 「…カインに言われたくない。…ないです」

  

 どうやら、叔母と叔母の従者とは既知の様だ。両陛下の御前と思い出し、敬語にしたな。


 「うむ。お前達は既に友人同士の様だな。暇が合えばアルベティウスに会いに来てやってくれ」

 「ええ、もちろん」

 「御意にございます」


 それから、叔母達はちょくちょくやってきては、「髪も瞳も色が薄いわ」「私には魔力が感じ取れません」とか、あーだこーだ言っている。


 「何馬鹿な事を仰って?こんなにも強大な魔力なのに。大き過ぎて感じ取れないのね」

 「斯様な事があるのでございますね」

 「ええ。私より魔力の多い方は中々いらっしゃらないので、理解して頂けなくて。アルが魔力無しなのでは何て、巫山戯た噂が流れているの」

 「それは存じております。しかし、間もなく名納め。その様な噂は消えてしまうのでは?」

 「名納めの場所は基本的には人に明かすものではないわ。それとなく流すことは可能でしょうが、何処まで広がるか…」 


 どうやら、オレの薄い色素のお陰で誹謗中傷されているらしい。この可愛い叔母はそれが許せない様だ。


 …両親はそんな素振りも見せなかったなぁ。叔母さんが一生懸命「ベティには魔力がありましてよ!」って言ってたのを信じてくれたのかな?


 「私、ベティの為に魔力を測定する魔術具を発明致しますわ」

 「微力ながら、お手伝い致します」


 壁際で、フェリオもウンウンと頷いていた。


 …苦労は多そうだけど、人には恵まれたらしい。


 頼りになる姉貴分や、兄貴分に囲まれて、この世も捨てたものでは無いのかもと、思い始めていた。

アルベティウスの過去話です。いくつか続きます。

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