幕間〜騎士団長の憂鬱(4)〜
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その日は、今までの人生で最も誇らしい日になる筈だった。主のあの言葉を聞くまでは。
「各員、抜かりなく!」
「「はっ!」」
国王陛下がご臨席為さる式典では、国王陛下の近衛が式の警護を任されるが、今回は第一王子親衛隊がその任を受けた。当然、親衛隊長たる私が責任者となる。またとない誉れである。部下や応援の騎士団員に指示を送る際も、胸が高鳴っていた。
―主の栄光の式典を滞りなく終わらせる
その事だけ考えていた。
各国の要人や、高位の王族貴族が多数参加する事もあり、難しい警護が必要となる。いつも以上に緊迫する中、周囲に細心の注意を払つつ、主の姿を追っていた。
「フェリオルフ。間もなく両陛下がいらっしゃる」
「心得た。周辺は任せてくれ。両陛下の事だけ頼む」
式が始まる直前、両陛下のご登場を、近衛隊長が知らせてくれる。
―いよいよだ。
国王陛下が、中央へ進み出る。
「皆のもの!本日は我が息子アルベティウスの為に登城、感謝致す。息子の成長に我も感慨無量だ。我が息子が挨拶を」
アルベティウス殿下が、中央に進み出る。
―とうとうこの日が来た。
喜びに目が潤む。ぎゅっと我慢して、主の晴れ姿を目に焼き付けようと、目を見開いた。
「皆様、本日は私の成人を御祝いいただき、有り難うございます。私は、この国に第一王子として生まれた事を、大変誇りに思っております。私は、生まれた折、この髪と瞳の色で、魔力無しなのではと、父上や母上に心痛を齎したと聞き及んでおります」
主は幼い頃からご苦労が耐えなかった。色の薄い髪や瞳のお陰で、陰口を囁かれる事が多かった。名納めで高い位置に納められたが、納めの位置は一般的に公表はされ無い為、あれこれ噂されたのだ。セレスティナ様の発明した魔力測定器が無ければ、未だに勘違いされていた事だろう。
そんなアルベティウス殿下が、今日、立太子される。言いたい放題言っていた奴等がさぞ悔しがるだろう。胸がすく思いだ。
「一方弟は、生まれながらにして紺の髪色を持ち、高い魔力は一目瞭然でございました。そんな私にも、両親は分け隔てなく愛情を注ぎ、高い学力と教養を授けてくださいました。…私は成人を迎えました。もう、両親に心痛を与える子供ではございません。私はここに誓います。王位継承権を放棄し、セレスティナ研究所で従事することを」
アルベティウス殿下は中央の壇から降りて、行ってしまう。
―え?今なにが起こったのだ…?今、主は何と言った?
私は顔色を無くしながらも、主の後を追った。走りながらも、頭は混乱して嫌な汗が出る。
―主は継承権をどうすると言った?何故大事な式典を去ってしまったのだ?
アルベティウス殿下の言葉を理解する事を、自分の頭が拒否している様だった。
「アルベティウス様!」
式典会場から出て直ぐ、主を呼び止めた。
「フェリオか…」
「…どちらへいらっしゃるのですか?」
「部屋に帰るよ」
「共も無く歩かれるのは困ります」
「君が来たらいい」
「だから、参りました」
「…責めないのか?」
「何をでしょう?」
「…いや。何も」
主は、私から責められると思ったのだろうか?責めるとは主の何を責めるとは言うのか。私は何も知らなかった。知らないのに責める理由がない。
「アルベティウス!!」
「父上…」
国王陛下が追いかけて来た。そのまま主の腕を掴んで、国王陛下の私室まで、連れて行かれた。
私室に着くと部屋の前で警護をしようとした私を、国王陛下は、中に入る様に言った。
「フェリオルフも知らぬようだったからな。納得出来る話が聞きたいだろう。セレスティナも間もなく来る。その時は全てを話して貰うぞ」
主は肩を竦めるだけで、何も言わなかった。
間もなく、セレスティナ様とカインもやって来た。二人も部屋に通された。セレスティナ様は青い顔を為さっていたが、カインは相変わらずだった。
「アルよ。セレスも参った。話してみよ」
国王陛下が主を見据えて仰った。主は一見無表情に見えるが、あれは何かを思い詰めている顔だ。
…ああ。私は主の従者として失格だ。立太子されることに浮かれて居たのは私だったのだ。浮かれる余り、主の心が見えていなかった。
「一体何をお話をすれば、父上はご納得されるのでしょう?先程壇上で話した事が全てです」
「何故だ?何故何の相談もなくあの様な…」
アルベティウス殿下の唇が震えている。強がっておられるが、罪悪感に苛まれていらっしゃる。
国王陛下もアルベティウス殿下の心を計りかねておられる。
「父上はおっしゃいました。『成人となればお主の思うようにやればよい。相談事には何時でも乗ろう。然し、己で決断してこそ真の成人である。王族たる者、毅然と態度で示すことも必要だ』ですので、己で判断し、毅然と態度で示したまでです」
…もう、やめてください。主よ。
主の引き裂かれそうな心の叫びが聞こえるようだった。誰にも相談できず、ずっと心に押し込めていた気持ちが伝わってくる。
『私は王に相応しくない。私では駄目なんだ』
自分に王たる資質がないとずっと悩んでおられたのか。私は…バカだ。
「お主の母は、心労から倒れてしまったぞ」
国王陛下は溜息を吐かれました。
「アルよ。我はお主が継承権を放棄した事を咎めているのではない」
国王陛下の声色が、国王から父親に変化した様に感じました。アルベティウス殿下も王子から一人の息子になった様だ。
「何故、話してくれなかったのかと、聞いておるのだ。確かに、お主は長子で優秀、魔力量も多い。お主が後を継いでくれたら、何の憂いもないだろう。そう思っておった。だが、我も長子だったのだ。お主の気持ちも理解できる。王位を継がず、やりたい事が有るのなら、話してくれたら…無理矢理お主を世継ぎに等と思うてはいなかったわ」
アルベティウス殿下は、項垂れてしまった。父親の反応が、思っていた態度では無かったのだろう。もっと叱責されると考えていたに違いない。
「お主が先に話してくれたら、メルも倒れることは無かったのだぞ。お主が我らに信頼を置いておらなんだと云う事実が、辛うてならん」
自分の思い詰めてした行動によって、両親を傷付けてしまったと、後悔が見える
「…申し訳…ございませんでした…。浅慮な行動にどうぞ罰をお与えください。私が、父上や母上を信頼していない等と云う事はごさいません。私が弱かったのです。幼い頃より世継ぎとして教育を受けてきた私が、研究者に成りたい等と伝えれば、失望されるのではと。今ある愛情が冷めてしまうのではと…溢れる愛情を失うのが恐ろしかったのです」
さっきとは違う涙が溢れそうになった。主がこんなにも思い詰めていたのに気が付かない自分が不甲斐なくて仕方なかった。主の全てを知った気になっていた自分が恥ずかしい。
分かり合い、抱きしめ合う親子を見ながら居た堪れなくなり、部屋を出た。
…こんな事態を招いたのは、私のせいだ。
間もなく、主がカインと共に部屋から出て来た。
「バルド、叔母様に謝っていたと伝えてくれ。暫く絞られるだろうから」
父親に思いをぶつける事が出来た為か、憑き物が取れた様に明るい顔をしていた。
「…承知致しました」「母上の所に行ってくる」
国王陛下の私室から、王妃の私室へと向かわれる様だ。主に付いて私も向かう。
王妃の部屋には主だけが入った。私は扉の前で待機する。
―ああ、会場を放って来てしまった。責任者なのに
「責任者が聞いて呆れるな」
私は独りごちた。
暫くすると、主が部屋から出て来た。
「フェリオ。来い」
「はっ!」
主に呼ばれて、主の私室に向かった。
「フェリオ、私が継承権を放棄したからには、親衛隊は解散になる。恐らく1ヶ月か長くて2ヶ月くらいになるだろう」
「…承知しました」
「…フッ。君は何も言わないんだな」
「主の決定に異を唱える身分ではございません。主の決定が私の決定です」
「…そうか。有り難う」
親衛隊の解散が正式に決まって、主に挨拶に向かった。私は今後騎士団の第二部隊隊長に就任する。
「アルベティウス殿下、フェリオルフにございます」
「入れ」
アルベティウス殿下の執務室に入る。執務室は荷物が無くなっていた。
「ここも弟に明け渡す。僕はセレスティナ様の離宮に行くんだ」
「警護などは如何されるんですか?」
「まぁ、一般の王族と同じ扱いだよ。専用の警護が必要なら自分で雇わないとね。引き篭もる積もりだから、雇う予定はないよ」
笑いながら仰る。以前より、柔らかい笑顔になった気がする。
「フェリオは第二騎士団長になるんだろ?」
「はい。明日から着任致します。長い間、お世話になりました。お側は離れますが、私の主はアルベティウス様のみ。必要と在らば何時でも馳せ参じます」
「…そうか。君の忠義は忘れないよ」
「勿体無いお言葉です」
「今まで有り難う」
笑顔のアルベティウス殿下に信徒の礼をして、部屋から辞した。
幼い頃から、ずっと側で成長を見てきた。
「立派に成られた…」
頬に雫が落ちた気がしたが、前を向き、気にせず歩き出した。
―主の息災は離れた所から祈るとしよう。
主と共に、自分も独り立ちした気分だった。
幕間をいくつか挟んで四章に入ります




