カルボナーラ(仮)
いいね&評価、ブックマーク有り難うございます!
貴族街の離宮で気が付いてから2週間が過ぎた。自力で飛べるようにもなったし、そろそろ帰りたい。
リハビリだけでなく、魔術も教わるようになると、カイン様は加わらなくなり、基本的にアルベティウス様、時折セレスティナ先生と、地獄コースになっていた。
「ティナ、明日フリアに帰りましょうか」
この後再開する地獄のリハビリにうんざりしていた昼食時、セレスティナ先生が急に言った。
「…本当ですか?」
「ええ。翼も問題ないようだし、大丈夫でしょう」
「…帰れる」
そう理解した瞬間、両目から涙が溢れた。
「あらあら、こんなに泣いて。長い間寂しくさせてしまって、ごめんなさいね」
セレスティナ先生が涙を拭いてくれた。
セレスティナ先生達は悪くないのは分かっている。私や家族を心配して手を尽してくれている事も。
しかし、フリアの家族を思うと、毎日寂しくて仕方なかった。1日も早く会いたかった。それが叶うと思うと涙が止まらなかった。
午後からは帰る準備をしたら、今日は自由にしていいと言われた。勿論、離宮から出てはいけないけれど。
―帰る仕度と言われても、絹の寝間着を持って帰る訳にもいかないし、特にする事ないんだよね。図書室でも行くかな。
―帰れる、帰れるんだ!
メル様に図書室の場所を聞いてご機嫌で向かっていると、アルベティウス様に会った。
「ティナ、明日帰れるんだってね」
笑顔で言うが、何か元気ない?
「はい。やっと帰れます。所でアルベティウス様何かありましたか?」
「どうして?」
「お元気が無いように見えて」
「…わかるかい?昼食を食べ損ねてしまってね。料理人が今、用事で居なくてね。厨房を覗いたけど何もなくてさ」
料理人が夜まで帰らない事を忘れて、朝は抜き、昼も後で適当に作って貰おうと思っていたらしい。
「いつも、予定は早目に言ってくれと言われていてね。基本的に此処には僕しか居ないから。それでもいつもは何か置いてあるんだけど…」
困ったなぁと言うが、絶対に料理人はいつも予定を言わない主人への意趣返しに、何も作って行かなかったんだろう。
―お世話になったし、何か作ってあげようかな
「アルベティウス様、私が何か作りましょうか?」
「!ティナは料理が出来るのかい?」
「平民ですからね。母から少しは教わっていますよ」
「是非お願いするよ」
「王族のお口に合うかは分かりませんが、やってみます」
アルベティウス様に厨房まで案内してもらった。
―料理人は平民だからか、私でも使える機器しかないね。うん。大丈夫そうだ。
「出来たらお呼びしますので、お部屋でお待ちください」
楽しみだと言いながら、ご機嫌で厨房から出ていった。
―さて、何が有るかな?
貯蔵庫や冷蔵室を確認して、何を作るか考える
―お腹空いてるだろうし、早く出来て腹持ちの良いものだな。
平民の主食はちょっと薄いフォカッチャみたいなやつだけど、貴族はちゃんとパンだったな。ハード系で前世の私はちょっと苦手だったけど。今世では固いのが普通なので平気だが。パスタもあったんだよね。ショートパスタだったけど。
―あ!これはパスタだ。乾燥してあるね。よし、これもあるしアレを作ろう。
貯蔵庫に有ったパスタ(ファルファッレみたいなやつ)と、燻製肉(ベーコンっぽいけど、豚か不明)、卵(鶏卵かは不明。アブゴだ)、チーズ(何のチーズか不明)でカルボナーラを作ります!
貯蔵庫と冷蔵室から厨房に戻り、調味料を確認する。
―塩は…これか。胡椒は…有ったけど、粒のままだな。潰すやつどこだ?んー、わからん。よし!
「粉砕の術」
―よし。これでいけるか。
「さて、鍋にお湯を沸かそう。…鍋でかっ」
…水淹れて運ぶのは無理だな。
「水操作の術」
鍋に水を淹れて、お湯を沸かす。
…火じゃ無いから、引火とか心配しなくていいのは助かるね
湧いたお湯に塩を入れる。
―ちょっと多め。潮汁位の塩加減で。
「さて、フライパンは…アレも重そうだな」
壁際に吊して有るのを見つけたが、アレは運べない。
「移動の術」
フライパンに気持ち多めのオイルを入れる。
…包丁もデカすぎ。しかし、コレを思い通り刻めるほどの魔術はまだ無理。
「あ、包丁を軽くすればいいのか。重力変化(軽)の術」
軽くなった包丁で、ベーコン(仮)を刻む。湧いたお湯にパスタを入れる。
―コンロにタイマー付いてる!この世界はの1分は100秒だから、4分かな。
因みに、1時間は50分、1日は20時間だ。地球より1日は4時間弱長い。
パスタを茹でている間に、ベーコン(仮)をフライパンに入れ、弱い温度で温める。
―此処で強火にして、焦がしたら駄目なんだよね。
アブゴを溶いておく。チーズも溶けやすいように刻む。パスタが茹だる少し前に、フライパンの温度を上げて、ベーコン(仮)に軽く焦げ目を付ける。
「移動の術」
茹で上がったパスタをフライパンへ。少し茹で汁も入れる。
―あ、しまった!牛乳!
慌てて冷蔵室にガーラを取りに行く。
フライパンにガーラをヒタヒタに淹れる。そこに、胡椒、チーズを入れ、チーズが溶けたら火を止め、味見。塩気が足りなければ塩かチーズを入れる。少々シャバシャバでも、かき混ぜる内に温度も下がり、トロっとしてくる。そこにアブゴを入れてさらに混ぜる。
お皿に盛って、追い胡椒。
―チーズを粉にして、別の皿に入れてと。
日本ならこれに卵の黄身を乗せるけど、この世界の細菌事情が分からないので止めておく。
―よし!カルボナーラもどき完成!喜んでくれるかな?
お皿を持って振り返ると、メル様が居た。
「あ、メル様」
「完成ですか?」
「はい。アルベティウス様を」
「食堂へお呼びしますね」
「宜しくお願いします」
メル様に続いて、部屋を出る。私は食堂へ。
テーブルにカルボナーラもどきを置く。
―パスタだけじゃ駄目だったかな。よく考えたらサラダとかスープとかも有ったほうが良かったんじゃない?王族にこれだけとか、あり得なくない?
この世界で初めて一人で料理をして、悦に入っていたが、よくよく考えると失態に気が付き青くなる。
「やぁ!出来たのかい?早かったね!」
…気が付くのが遅かった
「あ、あの、申し訳ございません。これだけ何ですが…」
恐る恐るアルベティウス様を見る。
「…これは…?」
…ああああああ、やってしまった!怪訝な顔をしているよぉぉ
私は益々顔色を無くしてしまった。
「もっ、申し訳ございません!この様な粗末な物をお出しするなんて、何と愚かな」
私は慌ててカルボナーラもどきを下げようとする。
「待って!違うんだ。美味しそうだよ」
皿を取ろうとする私の腕を掴んで止めた。
「アルベティウス様…」
「…これは、何て云う料理だい?」
「これは、かる…」
…!危ない。カルボナーラとか言いそうになったよ。変な人だと思われてしまう。
「か、家庭の、名も無い平凡な平民料理です」
「…平民料理…」
アルベティウス様は、皿を見つめて呟いた。
「シュラーリア様に感謝を」
シュラーリア様に礼をして、フォークで一口食べる。
―大丈夫かな?お口に合うかな?
アルベティウス様は、目を見開き固まった。
―や、やばい。不味かったのかな?王族の口には合わないのかな?
暑くもないのに、汗が止まらない。
「…お口に合いませんか…?」
私が尋ねると、ハッと我に返った様だ。
「そんな事は無いよ。素晴らしく美味しいよ!食べたことの無い味だ。これはお母様に習ったのかい?」
「へ?ああ、はい…」
…お母さんが知るわけないよ。カルボナーラなんて。
私が焦って取り繕うと、一瞬目を細めた。しかし、ほんの一瞬だけで、またいつもの笑顔に戻っていた。
アルベティウス様は綺麗に平らげて、残ったソースをパンに浸けて食べていた。
―気に入って貰えてよかった…
「ティナ、有り難う。君は料理上手なんだね!もっと早く知っていれば他にも作って貰ったのに。残念だよ」
アルベティウス様は寂しそうに言う。
「また、機会があったら何か作りますよ」
「…楽しみだ。暫く寂しくなるな…」
家族に会えるのが楽しみで仕方ないが、とても寂しそうなアルベティウス様には、少々後ろ髪を引かれる気がした。
…暫くあの美人を拝めないのは、ちょっと寂しいかも




