海は答えを知っている
そうして時間的には早朝。
そろそろ太陽が昇りだすかなといった時間になってようやくお出迎えが来た。
兵士が3人。いずれも眼光鋭く実力があることが分かる。
「姫様がお呼びだ。来てもらおう」
「はいよ」
大人しく付いていったのが良かったのか手荒な真似はされずにそのまま甲板へ。
船から見える島の方角がおかしい? あぁ、夜の間に東の海岸に回り込んだのか。
そこで待っていたのは水平線から昇る朝日に髪を煌めかせる姫さんと仮面のオダほか数人の兵士。
個人的には姫さんの侮蔑を含んだ視線が痛い。
「島の調査が終わった」
「そうですか」
淡々とした受け答え。
そういう性格、というより、感情を押し殺している?
「幸いにして村人に被害者は出ていなかったそうだ」
「良かったですね」
「賊は既に討伐され、島内に潜むものが居ないのも確認済みだ」
「それは俺も確認したので間違いないでしょう」
「だが貴様が行った罪までは消えはしない」
「そうでしょうね」
「貴様は! 自分がどれほどの事をしたのか理解しているのか!!」
っと、ここで姫さんの我慢の限界か。
俺の胸倉を掴んで今にも殴りかからんばかりの殺気だ。
慌てて周りの兵士が抑える。
「姫。お待ちください」
「くっ。分かっている。
一つだけ質問に答えろ。
この島をお前たちから解放した者が居たはずだ。
島の者に確認したら、昨夜あの浜に向かったというではないか。
しかし実際に居たのは貴様だ。
一体いつの間にすり替わり、そしてその者をどこへ隠した!?」
「ん?ああ、なるほど」
島の解放者(俺)が居るはずの所に今回の主犯(俺)が居たことになってるのか。
主犯が殲滅された腹いせに解放者をどこかに幽閉したんじゃないかと。
勘違いも甚だしいけど、それもこの首輪の効果なんだろうな。
「いつすり替わったかと言ったら昨夜だな。
どこにいるかと言われたら、今君の目の前にいるとしか言いようがないかな」
俺の答えを冗談だと思ったのだろう。
目が更に吊り上がった。
「どうやらまともに話す気はないようだな。
ならそちらは時間が掛かっても私たちで何とか探すとしよう。
拷問しても時間の無駄だからな。
貴様には早々に罰を与えた方がよかろう。
貴様は異界の住人だそうだな。
聞けば異界の加護のお陰でいくら殺しても別の場所に復活するそうではないか。
であれば此度の罪、死刑では意味がない。そこで本土の無限地下牢に幽閉と「待ってください」」
判決を言い渡される前に遮った。
公的な場じゃなくても権力のある人の発言って撤回は難しいだろうからな。
断言はさせない方が良い。
「ん?この期に及んで命乞いか?」
「いえいえ。一つ確認したいことがあるだけです」
「貴様の言葉など聞かん!」
「俺の罪がどれほどだったのか、この地で最も崇拝されている方に視てもらいたいのです」
「なっ……」
一瞬沈黙が広がった。続いて巻き起こったのは怒りか畏れか。
「貴様。自分が何を言っているのか分かっているのであろうな。
それは魂の死を意味することだぞ。幽閉すらも生ぬるい」
「魂の死か。まぁあのひと達なら復活地点を強制変更して延々と殺し続けるのも容易でしょうね」
「そこまで分かっているなら良いだろう。望みどおりにしてやる。船を南へ」
「はっ!!」
姫の指示で進路が南へと変更された。
ちなみにこの話で付いてこれない男が一人。仮面のオダだ。
「あの、姫様? 今のやりとりは一体……」
「ん?ああ。お主は知らんのだな。
我ら日眠る国の民にとって信仰の対象と言えば龍神様に決まっておる」
やっぱそうだよな。
古来より海に囲まれた島国では、大時化や津波は神の怒りと見なされる事が多い。
それ故に海神を鎮めるために多くの神社が海に向けて建てられてたりする。
そこに蒼龍王なんて分かりやすい象徴が実際に居るんだから、崇拝され信仰の対象になっていると思っていた。
「先日以来、海に大量のごみが流れているのも元をただせばお主たち異界の住人が深くかかわっているという話。
龍神様はさぞお怒りであろう。
それに加えて、ポンシュ島へ行った仕打ち。
恐らく奴は海の底にて永遠に罰を受けることとなろう」
「それでこの先に龍神様がいらっしゃるということですね」
「そういうことだ」
姫様が姫将軍としての顔を持っているのは見てわかるけど、この分だと姫巫女の側面もあるのかな?
時間があれば聞いてみたいところだ。
あれ、そういえばゴミ問題は解決したのか?
「姫様。死ぬ前に海を眺めていたいのですが」
「ん?ふむ。よかろう。死ぬ前にとくとその目に焼き付けておくと良い」
俺が自ら死より酷な道を選んだからだろう。姫さんの対応が若干柔らかくなった。
そうして船首に連れていかれて海を眺める。
……よし、見渡す限りゴミはないな。良かった。
これで蒼龍王と黒龍王の依頼は無事達成と見ていいだろう。
ただなぁ。別のものが……
と、そこで、船の左手に並走する一団が現れた。
ざぶんざぶんと水しぶきを上げて飛び跳ねるのはイルカだ。
ここから見える範囲で100匹くらいは居るな。
「おぉ、イルカの群れだ。この世界にも居るんだな」
「ふむ。あんなに大きな群れは珍しい」
隣に来た姫さんも珍しそうにイルカの飛び跳ねる光景を眺めていた。
そして更に右手には色鮮やかな翼を持った魚?が飛び出した。
「あれは何ですか?」
「飛び魚、バードフィッシュだ。
航行中の船に近づくことなんて滅多にないのに」
「へぇ。ならかなり貴重な光景を見れたんですね」
「運が良かったな。
っと。残念だけどここまでみたいだ。
停船! 帆を畳め!!」
「はっ!」
姫さんの号令で船がゆっくりと止まる。
あれ、そういえばこの船の動力ってなんだ?
帆があるから風を受けてるんだろうけど、それじゃあそんな減速したり簡単に出来ないと思うんだが。
まぁ魔法のある世界で気にしても仕方ないか。
海の様子を見れば不自然な程に凪いでいる。
さっきまで飛び跳ねていたイルカや飛び魚も今は静かに佇んでいる。
恐らくこの先が蒼龍王の住処ってことなんだろう。
船員に指示を出し終えた姫さんが戻ってきた。
「ここが龍神様の住処に繋がる海だ。あなたには今からここに飛び込んでもらうことになる」
「ああ、分かった」
俺が頷くのをみて、姫さんが兜を外した。
その顔はどこか悔しそうな風にも見える。
「……落ち着いてるのね。そういえばあなたの名前を聞いてなかったわ」
「シュージだ。シュージ・フルイム」
「私はミコトよ。ミコト・ヒグレ。
不思議ね。短い間だけど、こうして話しているとあなたが極悪人とは思えなくなってきたわ」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。なにせ……っ」
急にガクンと船が揺れた。
何事かと海を見れば、さっきまで静かだったのに今では巨大な渦が出来上がっていた。
それを見た姫さんたちは一様に膝をつき首を垂れた。
それらの意味するところは1つしかない訳で。
そう時間を置かずに渦の中から1体の龍が顔を出した。
「龍神様。まさかおいでになられるとは」
『その声はミコトか。ずいぶん大きくなったものだ』
「はい。以前お会いさせて頂いたのは10の頃ですから、あれから10年になります」
『ふむ、人の成長は早いな』
穏やかな目で姫さんを見る蒼龍王。
まるでお爺ちゃんと孫だな。
『しかし妹のコトネは毎年顔を出すぞ』
「それはコトネが巫女だからでして」
『我としてはお主とももっとこうして会いたいものだ。
して、そろそろ婿は決まったのか?
人の身ではもう良い年ごろであっただろう』
「いえ、将軍の身なればなかなか」
『見合う男が居らぬか。不甲斐ない奴らよの』
いつの世も年ごろの娘に掛けられる言葉は「結婚はまだか」か「孫はまだか」に相場が決まっているものだな。
このまま眺めていたらずっと茶飲み話を続けていそうな気もするけど、そうはならなかった。
「それで龍神様。今日こうして伺った理由ですが」
『分かっておる。
お主がシュージだな。話は黒龍王から聞いておる。
しかしずいぶん間抜けな格好だな。ほれっ』
「わぶっ」
蒼龍王が軽く腕を振るうとバシャッと水を掛けられた。
いや、実際には甲板の上を洗い流す勢いの大波だったんだけど。
みんな無事か?
って、横の姫さんは何ともなかったようだ。
濡れても居ないところを見ると、さっきのはピンポイントで俺だけに掛けられたのか。
そして今の水が俺を縛っていた縄と首輪を解き、更には姫さんに掛けられた封印まで洗い流していた。
それを見て驚いたのは姫さんだ。
「あの、龍神様?これはいったい」
『ミコトよ。お前は素直過ぎだな。
我は此度の事、すべて見ていたからな。
本当に罰すべきは後ろの仮面の男よ』
その言葉に呼応するように仮面が真っ二つに割れた。
途端、オダの名前が罪人として表示される。
「なっ。捕らえろ!!」
「ちっ。くそっ」
慌てて逃げ出そうとするオダだったけど、船の上では逃げ場もなく、すぐに囲まれた。
更にはアイテム封じの刻印がオダの頭に張り付いた。
「観念なさい。随分と変わったアイテムを持っていたようですが、これでアイテムボックスは使えませんよ!」
「へっ。こんなこともあろうかと奥の手はきちんと隠しておくものだぜ」
そう言って懐からアイテムを取り出そうとして
「すらっ?」
「なっ!?」
出てきたのはスライムだった。
「いつの間に!?」
「昨日の夜からだよ。わざわざ昨夜会いに来てくれたからな。その時に忍び込ませておいたんだ。
そんなこともあろうかと思ってな」
実際には何があっても逃がさないようにと保険のつもりだったんだけど、掛けておいて良かった。
「くそっ。こうなったら船ごと沈めてやる。『炎拳』!」
「往生際が、悪い!」
「ごはっ」
「スライム、リリース!」
「すらっ」
腕に火を纏って船を攻撃しようとしたオダをアッパーで吹き飛ばし、更にスライムが釣り針にオダをひっかけ海へと投げ捨てた。
海に落ちたオダは藻掻きながら渦に巻き込まれて沈んでいった。
よし、これで一件落着かな。
後書き掲示板:
No.615 通りすがりの冒険者
最近色んなところでスライムを見かける件
No.616 通りすがりの冒険者
そんなスライムなんてどこにでも……あれ?そういえば最初のころは全然見かけなかったんだっけ
No.617 通りすがりの冒険者
そうだな。
最初の街と王都の付近には全くいなかったはず
No.618 通りすがりの冒険者
それが最近じゃあイニトの教会には居るし、森でもちょいちょい見かけるし、
イニトの西の湖にはスライム専用の釣り場もあるし。
No.619 通りすがりの冒険者
>>618
それ全部あの人じゃん
No.620 通りすがりの冒険者
元々それ以外の地域なら野良スライムをちょいちょい見かけたけどな
うーん、言われてみれば増えてる?
No.621 通りすがりの冒険者
時々上位化したスライムとか居て侮れん
No.622 通りすがりの冒険者
メタルスライム様はいらっしゃいますか~~
No.623 通りすがりの冒険者
ヘビメタスライムなら1回見かけたぞ
No.624 通りすがりの冒険者
>>623
随分ロックな名前だな。エレキギターとか持ってるのか?
No.625 通りすがりの冒険者
だったら面白かったんだけどな。
確認してみたら動く鉛の塊w
物理攻撃無効で熱を加えると溶けて消えた汗
No.626 通りすがりの冒険者
消えたって。素材にもならない感じか
No.627 通りすがりの冒険者
いや、ドロップアイテムが鉛のインゴットだった
No.628 通りすがりの冒険者
ってことはゴールドスライムとかプラチナスライムとか居れば大儲けだな!!
No.629 通りすがりの冒険者
居ても超レアか乱獲されて絶滅しそうだ
No.630 通りすがりの冒険者
それにそんなことしてたらスライム教の人に怒られるんじゃない?
No.631 通りすがりの冒険者
その辺どうなんですか?>信者さん
No.632 通りすがりの信者
お答えしよう。
はっきり言って問題ない。
野生のスライムは基本弱肉強食のルールで生きている。
従魔以外のスライムにスライム教が干渉することはない
No.633 通りすがりの冒険者
まさか本当に答えが返ってくるとは
恐るべしスライム教(ガクブル
No.634 通りすがりの冒険者
これで間違って教主やローラさんやスライムさんの悪口でもくちにし
No.635 通りすがりの信者
そんな人間は居ないと信じております(にっこり)
No.636 通りすがりの冒険者
たらって、こえぇよ!!
今どうやってインターセプトしたよ!?
No.637 通りすがりの信者
スライム愛の為せる業です。
No.638 通りすがりの冒険者
恐るべし、スライム教徒www




