潜入のお供にもスライムをどうぞ
それは俺が村長宅に戻って村長と今夜の計画の話をしようとしたタイミングだった。
<ワールドアナウンス>
『あーあーテステス。
俺はクラン【バイキング】のクランリーダー・オダ イエヤスだ。
俺達は現時点を持って王国の西に位置する島にて新たに国家を樹立したことをここに宣言する。
国の名は【ジャパング】。国家元首は俺だ。
これより我々はこの島を中心に周囲の島々を併吞し、最強の軍事国家を作る計画だ。
俺達の意思に賛同し、傘下に入りたいものは1週間以内に申し出てほしい。
決して悪い待遇はしないと誓おう。
逆に我々の行いを認められぬ者はいつでも挑んでくるがいい。
俺達は何者の挑戦も拒みはしない。
もっともこちらには現時点で3次職のプレイヤー100人とレベル40相当の現地民1000人が居る。
現地民の兵は最終数万人に達する見込みだ。
それらを相手にする覚悟があれば、だがな。
そうそう。ひとつ良い情報を伝えておこう。
この島国は米の産地だ。
そして俺達はそちらの国に高値で卸す用意がある。
もちろん俺達の傘下には格安で提供することになるだろう。
ではみなの賢明な判断に期待する。以上だ』
「……なんだそりゃ」
たしか課金アイテムの中に全プレイヤー宛に放送を行うアイテムがあったはずだからそれを使ったんだと思うけど。
「ん?どうなされた」
「あ、いえ。なんでも」
いかんいかん。今のアナウンスは現地の人には聞こえてないんだ。
にしても島一つ占領したくらいで国家とか、気が早くないか?
それとももう他の島々も占領したつもりでいるんだろうか。
しかし、まあ。そう考えると俺がこのタイミングでここに飛ばされてきたのは僥倖だったな。
それともそれを見越して俺をここに飛ばした?
いや、多分違うな。
ま、どっちにしてもやることはあまり変わらないってのが実際のところだ。
「それで村長。俺は今夜向こうの島に渡って村人たちの解放をしてこようと思います」
「お一人で大丈夫ですかの?」
「ええ、幸い既に俺の仲間が多く向こうに潜入していますから。
それでですね。解放した人たちをどこかに1日避難させたいんです。
どこか良い場所はありませんか?」
幾らスライムが多いとはいえ、2000人近い村人全員を守りながら戦うのは厳しい。
特に無差別範囲攻撃とかされたらアウトだろう。
かといって島の外に逃がすには船が必要だけど、それを用意するのも見つからないように運用するのも無理がある。
だから隠れられる場所があれば良いんだけど。
「ふむ。1日程度で良いなら、確か島の北に以前海賊が使っていたアジトが使われなくなって放棄されております。
そこならば村人全員が隠れておくことも出来るでしょう。
ただ出入り口は陸側からでは崖を下ったところになりますので、足腰の弱い老人や子供には少し酷かもしれませんがの」
「移動は俺の方で何とかできますので、それで行きましょう」
最悪歩けないとしてもスライムに乗せて運べば何とかなるし。
後はあいつらがいつ、他の島に攻め込むか、だな。
ひとまず今夜は……酒盛りの準備をしてるし大丈夫だろう。
米があるってことは日本酒もあるってことだしな。
あるよね? え、むしろ向こうの島は日本酒造りがメイン産業? そうですか。
それなら間違いなく、奴らは日本酒を浴びるように飲んでることだろう。
ゲームの中だからな。いくら飲んでもリアルの体を壊すってこともないだろうし。
この様子なら明日の朝すぐに侵攻を開始するってこともないだろう。
ならあとは。
「西国からの救援はどうなっているでしょう?」
「それが、兵を纏めるのにあと数日は掛かると連絡が来ております」
「そうですか」
まぁそんなもんだろう。
国なんてものは大きくなればなるほど動きは遅くなるものだ。
そしてそれは奴らも把握していると見て間違いない。
さすがに情報収集もせずにあんな大口は叩かないだろうしな。
「では俺は夜まで休ませてもらいますね」
「うむ。北の島の事、よろしく頼みましたぞ」
「ええ」
客間を借りて日暮れまでゆっくり過ごす。
そして夕日が水平線に沈んでいくのをのんびりと眺めた後、俺は行動を起こした。
島の北側から対岸を望むと向こうの海岸線には篝火が焚かれ、何人かが警戒に立っているのが見える。
ふむ。てっきり今夜は全員酒宴に耽っているとおもったんだけど。
いや、よく見ると頭に角がある。鬼人族の村人が夜警に立たされているのか。
『スライム。状況は?』
『すらっ』
島の中央に造られた要塞で既に酒宴は始まってるか。
村の男たちは3か所の海岸に分かれて配置されていて、子供たちと老人は1か所にまとめて監禁状態。
女性陣は料理と酒を注いで回っていると。
それにしてもよく不満の一つも出ないものだな。
俺が村人だったら奴らが飲み明かしてるうちに一斉に突撃して人質の人たちを救出しようとすると思うんだけど。
万が一にでも被害が出るのを恐れているのか?それとも……。
『すらっ?』
『ん?村人たちの首に何かついてる?』
まさか、村人全員に隷属の首輪を付けてるのか!!
ちょっと運営さん、それはあまりにも非人道的じゃないか?
一応抗議の連絡は送っておくか。
しかし、そうなるとやることが1つ増えたな。
てっきり人質を解放すれば残りの村人たちも勝手に離反してくれると思ったけどそうもいかないらしい。
ちょっと面倒だけど、まずは向こうに渡るか。
「スライムたち、今日も頼むな」
「「すらっ」」
俺は一声スライムに声を掛けつつ海に向かって大きく飛び出した。
「すらっ」「よっ」
「すらっ」「ほっ」
「すらっ」「はっ」
何だっけ。右足が沈む前に左足を前に出して、左足が沈む前に右足を前に出すだっけ?
俺にそんな超人的な動きは出来ないからな。
代わりにスライムを足元に召喚して、水面に浮かんでもらって、そこを足場にして海上を駆け抜ける。
「っと、うわっ」
「すらっ!」
「ふぅ。サンキュー」
バランスを崩しそうになったらすかさず粘着スキルでサポートしてもらえる。
実に至れり尽くせりだ。
そうして海を走り抜けた俺は南の浜辺の西側へと到着。
岸壁はいつものスライムクライミングで登れば、あっという間に島に侵入成功だ。
「じゃあ今度は道案内頼むな」
「すらっ」
先に島に潜入していたスライムたちに警備に見つからない、かつなるべく早く着くコースで案内してもらう。
ちなみにこっちの島は中央に標高500メートルほどの丘があり、その山頂に奴らは要塞を造り上げたようだ。
そこに向かう山道は限られており、当然要所要所に関所と警備が立っているので、俺は道なき道をスライムにサポートしてもらいながら走った。
「さて、人質は要塞の裏手か。
と、その前に厨房に向かおう」
ここからは潜入ミッションだ。
おなじみのあの曲を頭の中に流しながら、俺は匂いを元に厨房へと潜入を果たした。
厨房には鬼人族の女性が5名。いずれも首に隷属の首輪を填めた状態で料理を作らされている。
「(スライム。まずは彼女らの首元に投げるから首輪を外してくれ)」
「(すらっ)」
俺は彼女らの視線が俺の居る入口から外れたタイミングを見計らってスライムを投げていった。
スライムには隷属の首輪を外すと同時に彼女らが叫ばないように口を塞いでもらった。
「皆さん、静かに。助けに来ました。
今皆さんの口を塞いでるのは俺のスライムです。
危害を加えることは無いので落ち着いてください」
首輪から解放された直後口を塞がれてパニックになる前に飛び出して、何とか落ち着いてもらう。
叫ばない程度に落ち着いたところでスライムには離れてもらい、話を続けた。
「俺はシュージ。南の島の村長に頼まれて皆さんを助けに来ました」
「あ、あの。子供たちが人質に」
「分かっています。そっちも全部助けるので安心してください」
「あぁ、よかった」
子供たちが無事と聞いて安堵するお母さん達。
この姿を見てるといかに奴らが非道なことをしでかしてるのかが分かるな。
っと、怒るのは後だ。
「皆さんには安全に子供たちを救い出すために手を貸してほしいんです」
「私たちに出来る事なら何でもします!」
「ありがとうございます。
ではこれから作る料理とお酒にこの睡眠薬を混ぜてください。奴らを眠らせた隙に脱出します。
あと首輪が付いてないと料理を取りに来た人に不審がられるので、こっちの特に何の効果もない首輪を付けてごまかしておいてください」
「分かりました」
「スライムを何体か置いていくので、皆さんは彼らの合図で一緒にここを脱出して、島の北側に逃げてください」
と、そこに外から声が聞こえてきた。
「おい、酒がそろそろ無くなるぞ!
追加持ってこ~い」
「は~い、ただいま~」
次いで厨房に顔を出したのは赤ら顔の男性プレイヤー。
「んん?いま、男の声がしてなかったか?」
「気のせいですよ。ここには女性しかおりません。
ささ、お酒です。どうぞどうぞ」
「おぉ、あんがとな。へへっ、お前可愛いなぁ。ちょっとお酌しに来いよ」
「あら、料理があとちょっとでできるのでそれと一緒に行きますね。
なので先にお酒をお願いします」
「おぅ。早くな~」
そう言って(睡眠薬マシマシの)酒瓶を持って出ていった。
ふぅ。咄嗟に机の下に隠れたけどなんとか気付かれなかったな。
「さ、あなた、えっと」
「シュージです」
「シュージさんも見つからないうちに」
「はい、ではまた後で」
女性陣に見送られて厨房を出た俺は、人質の居る要塞の裏手へと向かった。
後書き掲示板:
No.691 通りすがりの冒険者
なんかワールドアナウンス北
No.692 通りすがりの冒険者
あいつら最近見ないと思ったら本気で海渡ってたのかw
No.693 通りすがりの冒険者
しかし国造りか。
ロマンだな
No.694 通りすがりの冒険者
しかし名前が色々突っ込みどころ満載だな
No.695 通りすがりの冒険者
バイキングが国を興すってのもそうだけど
ジパングなのかジャパンなのかどっちかにしろよw
No.696 通りすがりの冒険者
にしても現地住民をどうやって懐柔したんだろうな
No.697 通りすがりの冒険者
あいつらにそんな人徳があるとは思えないんだけどw
見た目はあれだし、性格はまじバイキング並みだし
No.698 通りすがりの冒険者
ジャイアニズムを通り越して非人道的なところがみられるからな
No.699 通りすがりの冒険者
傘下に入ったらどうなるだろうな
No.700 通りすがりの冒険者
良くて下僕、悪くて奴隷
No.701 通りすがりの冒険者
どっちも願い下げ
No.702 通りすがりの冒険者
しかし放置するのも問題か
どうやったかは知らないけど島一つ支配したのは本当だろうし
No.703 通りすがりの冒険者
米の独占販売は許せないな
No.704 通りすがりの冒険者
なら力をつける前に攻め込む?
No.705 通りすがりの冒険者
しかし多少穏やかになったとはいえ、あの海を越えられる船を造るのは大変だぞ
No.706 通りすがりの冒険者
その頃にはあっちも準備万端だろうしな。
せめて3次職が50、いや100人は欲しい。
No.707 通りすがりの冒険者
ちなみにこの場合、決闘じゃないよな?
No.708 通りすがりの冒険者
クランバトルってのが実装されてるぞ
【総力戦】とか【攻城戦】とか幾つかジャンルがあるけど、今回は【攻城戦】だな
No.709 通りすがりの冒険者
しかしこれをきっかけに戦国時代に突入か?
No.710 通りすがりの冒険者
否定はしないが。
その場合、西の島々を占有されたのは痛いな。
No.711 通りすがりの冒険者
こっちも先日のイベントみたいに海岸線に防衛線を敷くか
No.712 通りすがりの冒険者
人集まるかな
前と違って今度は報酬とか払えないけど
No.713 通りすがりの冒険者
愛国心なんてないだろうし
No.714 通りすがりの冒険者
神風が吹くことを祈るか
No.715 通りすがりの冒険者
神風といえば先日東の空から西に向かって巨大な流星が飛んで行ったのが目撃されたとか
No.716 通りすがりの冒険者
なんだそりゃ




