気が付けば漂流者
という訳で、場所も話も飛んでいきました。
というか、当初の計画より大幅に飛んでいきましたが、黒龍王さん座標間違えてません?
『トンネルを抜けたら』
なんて有名な謳い文句があるけど、気が付いたら磯の香りに包まれてた、なんて話はあるだろうか。
ついさっきまで荒涼とした死の大地にいたのに、黒龍王が問答無用で転移魔法を発動させた結果、なぜか砂浜で寝っ転がっている自分がいるんだが。
つんつんっ
まぁいっか。良い天気だし。
絶好の海水浴日和だな。
そういや、リアルで海に行ったのって最後いつだったか。
仕事が忙しくなり出してからは全く行ってなかった気がするな。
つん、つつんっ
一応皆に連絡入れておくか。
ん? 黒龍王様から事情は聞いた? そうか。
こっちは心配しなくていいのでお勤め頑張ってください? いやそれは何か違くないかな。
まぁ心配させてないなら良いか。
つつっつ、つつっつ、つつつん♪
「ってこら。さっきから人の事を木の棒で突いてるのは誰だ!?」
「うわぁ、生きてた~~」
がばっと上半身を起こすと、慌てて飛びのく少年少女が3人。
どの子も頭に三角の角を生やしてるから鬼族か?
今も少し離れたところで俺の様子を窺っている。
「おい、そんなところに居ないでこっちこい」
俺がそう言って手招きすると、ひそひそと(こっちに聞こえる声量で)話始めた。
「(うわっ。やばいよラン君。あれは絶対怒ってるよ。近寄ったら食われちゃうよ)」
「(だから起きる前に猿轡はめて手足縛っておこうっていったのに)」
「(だ、だだ、大丈夫だって。あいつ弱そうだし逃げちゃえば追ってこないよ)」
何気に棒を持ってる少年より後ろの女の子たちの方が怖いこと言ってるな。
頑張れよ少年。
と、このままじゃ話が進まないな。
ひとまずいつまでも砂浜に座ってないで起きるか。
立ち上がって、体や服装におかしな所が無いか確認する。
うん、問題ないな。
スライム召喚も、問題なく出来るな。
「すらっ?」
うんうん、お前はいつも通りだな。
さて後はこの少年たちだな。
「(わっ、起き上がった)」
「(おい、何か変なの出したぞ)」
「(あれはスライムよ。やっぱりこっちを油断させて食べる気なんだわ)」
あ、スライムを召喚したから更に警戒させてしまったか?
というかだ。
「俺は人喰い人種じゃないからな」
「う、うそだ。油断させたところをパクっと行くんだろ」
「パパが言ってたもん。島の外から来た人間はみんな嘘つきだって」
「そのスライムだって、ただのスライムじゃないんでしょ!?」
「おぉ、分かるのか」
久しぶりにスライムを褒められてうれしくなってしまったのがマズかったんだろう。
思わず一歩子供たちの方に踏み出したら驚かしてしまった。
「ぎゃ~~きた~~~」
「逃げろ~~」
「食べられる~~」
いや、だから食わないからな。
まぁ聞く耳持たないんだろうけど。
そして子供が悲鳴を上げて逃げれば当然。
「くぉらああっ。うちの子供たちを泣かせる奴はどいつじゃあ!!」
大人が出てくる訳で。
どこからともなく赤鬼が空から降ってきた。
そして俺を見つけると一目散に突撃してきた。
「貴様かぁ!!
うちの子は食わせんぞ!!」
いや、どんだけ人喰いが流行ってるんだよ。
え、なに? 前に来た奴がそうだったのか?
ってのんきに考えている間に赤鬼の右フックがゆっくりと飛んできた。
なのでガシッと左手で受け止め、更に引き寄せながら右アッパーをお見舞いする。
「よっ」
「ぐはっ!」
「父ちゃん!?」
「「おっちゃん!」」
吹き飛んだ赤鬼を見て慌てて駆け寄る子供たち。
って、あれ?
思わず殴り返したけど……思ったより弱い?
パンチもゆっくりだったし、俺=1次職の攻撃で吹き飛び過ぎだし。
ともかく、このままだと悪者コースだしな。
いい加減、誤解を解かないと。
「おーい、生きてるか?」
「ぐっ、お、おう。頼む、子供たちには手を出さないでくれ!」
赤鬼は起き上がるや否や、俺に土下座する勢いで頼み込んできた。
いやだからな。
「俺は別にお前たちをどうこうする気は無いから」
「そうなのか?だが……」
「そうなの。ったく、一体過去に何があったんだよ。
ひとまずここがどこかも知りたいし、ゆっくり話が出来ないか?」
「……分かった。確かにそんな化け物みたいに強いなら、今の間に俺達全員を食い殺せただろうしな。
付いてきてくれ」
「ああ、わかった」
はぁ。ようやく話が進むな。
赤鬼は子供たちを先に村に帰しつつ、俺を連れて島の中に入っていった。
「俺の名前はダンっていうんだ。あんたは?」
「シュージだ。あ、今はシュージ・フルイムってのが正式な名前だな」
「シュージか。あんた、どうやってこの島に来たんだ?」
「魔法だ。転移魔法で飛ばされてきた」
「そうか。それなら来れるな」
ん?まるで普通の方法なら来れないような言い方だな。
「普段島の外から来る人はいないのか?」
「居ないな。いや、正確にはいなかった、だな。
つい先々週に海流が変わってな。だいぶ穏やかになったんだ。
それでもこっち側の島に真っすぐ来るなら途中で大渦に当たる。
来るならここより北にある島だ。
その証拠に、そっちの島には先日お前と同じ角の無い人間が船でやってきたって話だ」
「お、そうなのか」
多分他のプレイヤーだろうな。
船で来たってことは、ここは元の大陸から来れる位置にあるんだろう。
というか、ゾートさんめ。絶対転移先間違えて飛ばし過ぎただろう。
そうして話をしながら林の中を歩いていると、進む先に開けた場所が見えてきた。
「着いたぞ」
簡素な木の柵に囲まれた村は、一見どこにでもあるような普通の村だった。
ただ人の姿は見当たらな……ああ。
木の上から網が降ってきた。
2重3重に網にからめ捕られて俺は身動きが取れなくなる。
そんな俺を振り返ったダンさんは済まなさそうな顔をしていた。
「済まないな」
「いや、そんな気もしてたからな」
網に続いて弓や槍を持った鬼族が現れて囲まれた。
あれだけ食わないでくれって言っておいて村に案内するんだから、捕まえて抵抗出来ないようにするくらいはやるだろうな。
「で? 話し合いは出来るんだろうな」
そう声を掛けてみても周囲の警戒は変わらない。
さてどうしたものかと思っている間に更に人が集まってきて、元居た人たちと情報交換をしている。
どうやら俺に仲間がいないか確認していたみたいだな。
「すらっ?」
「(いや、まだ動かなくていい)」
網の外で待機しているスライムにアイコンタクトで動かないように伝えておく。
逃げるだけなら何時でも出来そうだからな。もう少し様子を見よう。
待ってれば、ほら。
村長っぽい人が来てくれた。
「旅の人よ。突然手荒な真似をして済まないの」
「いや。村人総出で出迎えてもらえるのも悪くない」
「ほっほ。そうですか。
外の人間は乱暴なものが多いと聞く。
話を聞く途中で暴れられても困るでの。
縛らせてもらいますぞ」
「ええどうぞ。
その代わり、俺の命と持ち物に手を出さないと保証してください」
「もちろんです。では……」
村長が何事か呪文を唱えると、俺の両手に手錠のようなものが填まった。
『技封じの錠(呪術レベル2)
嵌められた相手のスキルの使用を制限する呪具』
その後は慎重に網が除けられ、緊張する村人たちに囲まれながら村長宅へと移動した。
途中、畑が目に入ったが、青々と茂った草が風にそよいで綺麗だった。
本当ならのどかな田園風景だったんだろう。
村長宅に着いた俺たちは囲炉裏を挟んでゴザの上に座り、質問、というより尋問に近いのかな?が始まった。
「君の名前はシュージというそうだね。
何が目的でこの島に来たのかの?」
「海の掃除ですね」
黒龍王を通して蒼龍王からされた依頼はそれだけだ。
それ以上に具体的にどうしろとは言われてないんだよな。
「掃除? 確かに最近、浜にごみが漂着することが多いがの。
しかしその為だけに危険を冒して海を渡ってくるのは理解しがたいが。さて。
では隣の島に来たという者たちについて知っていることを話してもらおう」
ん?なんのはなしだ?
「俺、その人たちと面識が全くないんですけど」
「庇いだてする気かの?」
「いえ、そもそも隣の島に船が着いたっていうのもダンさんから初めて聞いたくらいですから」
「では彼らの仲間ではないと?」
「そうです」
なんだかんだ言って他のプレイヤーとはほとんど関わって来なかったからな。
知り合いという可能性はまず無いだろう。
しかもこれまでのこの人たちの対応からして、その船の奴らは碌なことをしてなさそうだ。
「逆にその人たちが何をしたのかお聞きしてもよろしいですか?」
「ふんっ。奴らは島に着くなり村を襲撃し、島を占拠しおったわ。
救いを求めて島を脱出してきたゴンベの話では、幸いにして村人に死人は出ていないそうだがな。
その者の話では、奴ら、村人を奴隷のように扱っているそうだ」
うわぁ。何やってんだよ。そいつら。
そりゃ拘束もされるって。むしろ初見で殺しに来なかっただけ良心的な対応だったんだな。
「なるほど。状況は多少理解できました。
では今はその島の奪還のために準備をしている最中、というところですか?」
「……」
あ、あれ? 沈黙で返されたんだけど。
これは俺には言えない、じゃなくて、肯定したいけど出来ないって感じか。
苦虫を嚙み潰したように村長がようやく口を開いた。
「残念だが我々はここを守るので精一杯での。
隣の島の方がここより大きく、人も多かった。そこが大した抵抗も出来ずに占拠されたのだ。
我々が行っても返り討ちにあうだけだろう」
「では彼らの行いを見過ごすということですか?」
「そうは言っておらん。ここより西にある本土を含めた各島に救援要請は出してある。
近日中には奪還部隊を送り込んでくれることだろう」
なるほど。ここと隣の島以外にも幾つか島があるのか。
ただ島と島の間がどれくらい離れているか次第だけど、海を渡って軍を派遣するとなると、時間はかかるし送れる人数にも限りがあるだろう。
その間に隣の奴らが島を要塞化するかもしれないし、村人に死者が出始める危険もある。
出来るだけ早く奪還した方が良いだろうな。
……って、もしかして言われてた海の掃除って、そいつらを追い出すことも含まれてるのか?
うーん、あり得るかもしれないな。
ま、どっちにしろ一肌脱ぎますか。
「村長。もし俺の事を信用してくださるのなら、隣の島の奪還を請け負っても構いませんが、如何でしょう」
「そう言ってこの島の情報を向こうに売るつもりでは?」
「俺としては、ここで多少でも恩を売って貿易が出来るようになった方が嬉しいですね」
「この島で売れるような物は特にないがの」
「先ほどここに来る途中で見えた畑。あれは稲ですよね?」
「いかにも」
やっぱり。
畑の形と、どことなく見覚えのある植物だからそうじゃないかと思ってたんだ。
魔界では「米はここでは扱っていない」って言ってたから別の場所にはあると思ってたけど、まさかこんな遠くとはな。
「量は多くはなくて良いので、取れた米を取引出来れば俺としては十分価値があります」
こっちの世界でもおにぎりを始め、牛丼とかカレーライスとか食えるようになったら嬉しいからな。
出来たらローラさん達にもごちそうしてあげよう。
後書き掲示板:
No.519 通りすがりの冒険者
待たせたな皆。魔界に到着したぜ!!
No.520 通りすがりの冒険者
>>519
よくやった!!
場所はやっぱりイニトの東か?
出来れば行き方とかも共有よろ
No.521 通りすがりの冒険者
イニトの東。例の巨大クレパスの向こう全域が魔界らしい。
そして行き方だけど、俺の場合はこんな感じだ。
1.冒険者ランクDで直接、境界村(クレパス手前の村な)に行くと用が無いなら来るなと追い返される。
2.ならばと冒険者ギルドで問い合わせれば、商品の輸送依頼が受けられた。
3.依頼を受けた状態なら境界村にも無事に通れるようになる。
4.境界村の冒険者ギルド兼酒場に行くとDランク以上じゃないと村に入れないと教えて貰えた(遅すぎ)
5.その後、村から出てる飛竜便でクレパスを渡って魔界へ
多分キーは冒険者ランクDになって依頼を受ける事と思われる
No.522 通りすがりの冒険者
詳細な情報サンクス
No.523 通りすがりの冒険者
ちなみによく見たら俺以外にも何人か既にプレイヤーが来てるw
No.524 通りすがりの冒険者
よう、先に一杯やってるぜ。
その方法知らなくても飛行系の従魔連れてれば自力で渡れるからな
あと、俺含めソロプレイヤーが多い印象w
No.525 通りすがりの冒険者
渡れるだけとも言うけど
ソロなのは否定しないw
No.526 通りすがりの冒険者
どゆこと?
No.527 通りすがりの冒険者
一般の魔物でも強すぎ
最初LV30で渡ってきたんだけど、普通に死んだ
No.528 通りすがりの冒険者
魔界は伊達じゃないってことか
No.529 通りすがりの冒険者
唯一スライムだけは普通にスライムだったが。
最弱モンスターの異名は伊達じゃない
No.530 通りすがりの冒険者
あの、魔界新参者です。スライムに負けたんですがw
No.531 通りすがりの冒険者
は?何があった!?
No.532 通りすがりの冒険者
見た目普通のスライムだと油断して蹴り飛ばそうとしたら、
分裂して足を粘着で固定されて倒れた所を後ろから一突き。
No.533 通りすがりの冒険者
それは本当にスライムなのか?
No.534 通りすがりの冒険者
そう言えば、酒場でスライムに気を付けろって言われたけどそれか?
No.535 通りすがりの冒険者
シュージ・スライムとかいう新種のスライムっぽかった
No.536 通りすがりの冒険者
あー、それな、うん。
それは仕方ないわ。新種じゃないけど
No.537 通りすがりの冒険者
あれは何だったんだ?
No.538 通りすがりの冒険者
スライム教は知ってるよな?
そこの教主の名前が確かシュージ。
つまり、スライム教の肝いりスライムってこと
No.539 通りすがりの冒険者
一応言っておくと、こっちから攻撃しない限り向こうから攻撃されないし、
ピンチの時に遭遇すると助けてくれるという噂もある
No.540 通りすがりの冒険者
俺実際に助けられた。
シャドーウルフって魔物に襲われてたんだけど、
次の1撃で死ぬ!!って時に颯爽と横から飛んできて代わりに犠牲になってくれた。
その1撃分の時間で持ち直した俺はいま生きてる。
もうスライムに足向けて寝れないわ




