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第78話 転生者の扱い

放置される事3日。

オレはすっかり居ないもの扱いされて、誰一人訪ねては来なかった。

その間も王宮は慌ただしく動いているようで、ひっきりなしにクソ偉そうな馬車が往来していた。

もちろんオレは一度として城に招かれはしない。

無位無冠かつ、国に認められた兵士ですらないことが理由だそうだ。

くっだらねぇ理由だと思う。


なので、かつてないほどに暇だ。

時間を持て余してしまい、城壁の端っこで寝転がり、ひたすら空を見る。

雲が千切れる様子とか、流れる早さの違いとかをボヘーーッと眺めている。

この行為も最初の頃は見張りに咎められた。

槍の穂先でつつかれそうになった際に、殺気を込めて睨み付けて以来、誰も文句を言わなくなったけども。



「あーぁ、アホらし。良識のある国だと思ってたが、他のと大差ねぇじゃん。ほんのりマシってレベルだな」



ミレイアは前例と伝統が全てという国柄だ。

だから、肩書きが無い人間の扱いが雑になりがちだ。

どれだけ貢献しようと考慮されないのは、これまでの対応から明らかだと言える。


思えば他の国も大概だった。

労働搾取を繰り返すディスティナと、特定民族を虐げ続けたエレナリオ。

自分等の身の安全を図るためでもあったが、目に余る暴虐ぶりだったので、相応に成敗してきた。


この国もそうすべきかと言うと、正直微妙なラインだ。

特別弾圧やら迫害やらしている様子はないし、それどころか人々の暮らしはそこそこ良い。

せいぜいミノルさんだけが人間扱いされていないだけ。

まぁ、気に入らなければ立ち去れば良い。

厳密に言えばミレイアに所属していないのだから。



「なぁ、オレ帰っていいか?」



隣の衛兵に投げ掛けた。

職務に対して真面目な彼は、オレの雑談に応じようとはしない。

なので膝当てを蹴りつけ、強引に注意をこちらに向けさせた。



「無視すんなコラ。足の2、3本ネジ切るぞ」


「……クッ。帰りたければ帰れ! もはや貴様のような男は必要ない!」


「はぁーー。お前みたいな端っこに言われるんじゃ、よっぽどだな。開拓村に帰るかなぁ」



空を再び見上げる。

風が強いのか、相変わらず雲の流れは早い。

それを見てると、レジーヌやら皆の顔が浮かぶようで、胸が苦しくなる。


あれだけの苦労を共にした仲間たちは、心の底ではオレを認めてくれてなかったんだろうか。

願いが叶うなり、この手のひら返しだ。

彼らの心変わりを信じたくはないが、この状況が長引けばそれも難しい。



「おい、そこの! ミノルとかいう男はお前だな?」



無遠慮に声をかけられた。

体を起こしてそちらを見ると、小太りの中年男が目を怒らせて立っていた。

姿から見て、王宮勤めの文官だろう。



「オレがミノルだよ。何の用だ」


「このような所で油を売りおって。どれほど探したか分かっているのか?」


「知るかよ。テメェらがオレを閉め出したせいだろ。その間どこに居るかも自由だし、そもそもこの国に従う義理はねぇよ」


「口の減らぬヤツめ……まぁよい。貴様にはアルフェリア討伐の命が降った」


「はぁ?」


「正式な辞令は執政補佐官より賜る。急ぎ王宮門まで行き、詳細な話を……」



正直耳を疑った。

無位無冠のせいで城に入れない、までは理解できる。

これまで積み上げた功績に報いられなかった事にも、目をつぶってやる。

そもそも豆が報酬という約束だから、一応は契約通りな訳だし。


だが、この討伐令はどういう理屈だ。

人を余所者扱いしておいて、仕事だけはこれまで通りやらせようと言うのか。

そこで『はい頑張ります!』と返せるほどお人好しではない。



「王宮前に行けだぁ? 知るか。用があるならテメェらがこっちに来いよ」


「なんだと、浮浪者風情が! 我が国に逆らう気か!」



文官の顔が威圧するように歪む。

この目は覚えがある。

かつてミゲルがオレに食ってかかってた頃と同じものだった。



「別に逆らってねぇだろ。オレに用はない、お前らにはある。だからそっちが来るのが筋だって言ってんだ」


「クッ……! 衛兵、こやつを捕らえろ。手荒に扱って構わん!」


「捕らえる……ねぇ」



その場で城壁にかかとを叩きつけた。

すぐにその一角が弾け、大きな穴が空く。



「やってみろボケ! テメェらが1万人居ようが全員ブッ飛ばしてやるからな!」


「ヒィッ! 者ども謀反だ! 殺せ、殺せぇーー!」



狭い足場に付近の兵士が押しよせてきた。

その数は20。

これだけの人数で何をしようというのか。

つうか殺せって何だ。

討伐の話はどこいったんだよ。


繰り出される槍。

寝起きのオッサンよりも遥かに劣るそれを、片手で掴んで外に投げ捨てた。

その兵士も釣られて落下し、街の屋根に背を打ち付けた。



「怯むな! 討ち取れ!」



青ざめた連中が次々と、そして無策に槍を繰り出した。

オレは構わず投棄する。

ガシャリ、ガシャリと重たい音が屋根を打つ。

そうこうしている間に、相手は5人にまで数を減らした。

包囲の輪もだいぶ広がっている。



「どうしたよオイ。オレを殺すんじゃなかったのか?」


「この……! 無冠の分際で!」


「まだ言うのかよ。何かっつうとムイムカンだ。ほんと飽きもせずに繰り返すよな」



あのよく回る口が本当に苛つく。

首を飛ばすか、犬字の呪いでもかけるか、腹の中で計算する。

そして答えが出かけた頃、突然に鋭い声が響いた。



「両者、それまで!」



振り向くと、背後には10人ほどの男が居た。

取り分け強そうな兵に囲まれた初老の男だった。

眼光は鋭く、胆も座っているようだ。

この騒ぎを前にしても動じた様子はない。



「ほ、補佐官殿! 調度良いところに! この謀反者むほんものを討つためにもお力を……」


「ふむ……、ミノル殿。何か手違いがあったようです。どうかお怒りを沈めてはもらえませんか?」


「補佐官殿、何を仰られますか! 早くこの危険な男を……」


「話がこじれます。下がりなさい。沙汰は追って伝えます」


「……承知致しました」



小太りが肩を落として城壁を降りていった。

大の大人が叱られる様を目の当たりにしても、当然だが腹の虫は治まらない。



「邪魔物は居なくなりました。それでは話を聞いていただきましょうか」


「いただきましょうか、じゃねぇよ。調子に乗んな」


「いえ、あなたは私の話を聞かざるを得ないでしょう。何せアルフェリア討伐の件ですから」


「それが何だっていうんだ」


「我らは王都奪還に成功しましたが、状況は依然としてかんばしくありません。前後を敵国で塞がれ、エレナリオとの繋がりを遮断されているからです」


「ふぅん。あっそ、大変だね」


「あなたはこの状況を黙って見過ごすので? 再び城が陥ちるかもしれませんよ?」


「それが何だ。オレには関係ない」


「フフフ。嘘が下手ですね。あなたは心からそう考えていない」


「……チッ」



やりにくい相手だと思った。

アンノンと対した時と同じように、心の僅かな動きを覗きこんでくる。


事実、オレは城が陥ちると聞いて胸が痛んだ。

レジーヌたちの、街の人たちの喜びようが頭によぎったからだ。



「わかった。やるよ。ただし、これっきりだからな」


「ご快諾いただけまして、感謝致します」


「その前にレジーヌに会わせろ」


「なりません」


「なぜだ」


「暗殺の可能性があるため、所在は秘匿ひとくとなっておりますゆえ」


「どこだよ。自室か? 謁見の間か? まさか地下牢とは言わねぇよな」


「申せません」


「じゃあグランドは、メイファンは?」


「国家機密に触れるため、それも申せません」


「城に居ることはわかっている。強引に入っても良いんだぞ?」


「その際は、グランド将軍は一命を賭してあなたと戦うでしょう。彼が生粋の武人であり、前王の信任厚き方という事をお忘れなく」



暗に脅された。

無理を通してレジーヌやオッサンに会いに行こうとすれば、城内の兵が全て敵になると。

それは文字通り血塗られた道となり、何百何千もの死人を出すことになるだろう。

ただ話し合うだけの事で、そこまで大きな犠牲を払うことは、流石に躊躇してしまう。



「お前に呪いをかけて手足のように使う、という手段もあるんだがなぁ」


「やってみればよろしい。エレナリオ王のごとく」


「ふぅん……それなりに勉強しているようだな?」


「細かくは申し上げません。対策は講じている、とだけ」


「ハッタリじゃねえの? 一度お前で試してみるのもアリだよな」


「……後悔なさいますぞ」


「やらない後悔よりやって後悔ってね、ヨイショオッ!」


「ガフッ!」



補佐官とやらの額に「犬」の文字が浮かび上がる。

取り巻きの兵がオレを捕らえようとしたが、もちろん突破。

しばらく身を隠しつつ成り行きを見守る事にした。


……だが、連中の「対策」とやらは想像を遥かに超えていた。

あれだけ歓迎ムード一色に染まっていた王都が、突然殺伐としだしたのだ。


人々は手当たり次第に武器として使えそうな物を持ちより、城下町の通りを埋め尽くしてしまった。

そして彼らは口々に『卿を救え!』『魔術使いにの呪いに屈するな!』と叫んだ。

それは連日連夜続いた。

そして『姫は魔術使いに洗脳された!』『あれは姫ではない、手下の魔女だ!』と矛先が別方向へズレた頃に、オレは呪いを解いた。


これが連中の対策なんだろう。

国民と、レジーヌが人質という訳だ。

代々長らく各地を統治していたからか、その領民たちを手足のごとく操れるようだ。

脅して動かすのではなく、上手く焚き付けて扇動しているから、オレには対処しようが無い。


彼らに話は通じなかった。

だからオレが鎮圧するとしたら、全員を始末するか、呪いをかけるかの2択しかない。

そんな血みどろな未来が見えると、反抗することを諦めた。



「ずいぶんとまぁ、手の込んだ事をやるよな……そこまでするかね」



この頃には怒りを通り越して、呆れのほうが勝っていた。

それはやがて無関心へと切り替わっていく。

早いとこ戦を終わらせ、どうにかして大豆を手に入れ、誰にも邪魔されずに余生を過ごしたい。


オレは最後の『奉公』と言わんばかりに、誰にも告げずにアルフェリアへと向かうのだった。

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