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第77話 暗雲下の花畑

早朝から城下は熱狂の渦に包まれた。

沿道は都民だけでなく、周辺の村々からも人が押し寄せている。

彼らが満面の笑みで迎えたのは他でもない、この国の正当な主である。

オレは一連のパレードを、城守備組の人間として、王宮前で眺めていた。


オッサンの騎馬隊に守られるようにして、レジーヌは大手門よりミレイア入りを果たした。

沿道から、2階3階の窓から、一握りの花びらが投げかれられる。

それが馬車の幌を、そして灰色の石畳を色とりどりに染めていく。

季節は冬だというのに、どうにかして花を調達したのだから、その歓迎ぶりは相当なものだろう。




「レジーヌ姫、お帰りなさいませ!」


「姫様ッ! 姫様ぁーーッ!」



笑顔、熱い涙、割れんばかりの歓声。

人々は思い思いに、歓迎している胸の内を伝えようとした。

それを受けて、レジーヌも馬車から身を乗り出し、観衆に向けて手を振って答えた。



「今までごめんなさい! そして、ありがとう! 私を待っていてくれてありかとう!」


「姫様ぁあーーッ!」



ボルテージは最高潮を迎えようとしている。

レジーヌも腕が千切れんばかりに、懸命に手を振っている。

あの様子じゃ馬車から落っこちそうだが……。

あ、やっぱり落ちた。



「姫さんもこういう時くらい、ビシッと決めてくれないもんかねぇ」


ーーミノル様。この国の者共は何を狂喜しているのでしょう。統治者がすげ変わっただけですが。


「やっぱり大事なんじゃねぇの? 自分等の親分っつうか、担ぐ御輿っつうかさ。それにアルフェリアなんかに支配されるより、ミレイア王家に従いたいんだろうさ」


ーーそれが果たして良い選択なのか、本当に吟味されたのでしょうか。この国に生きるあらゆる個体が、真剣に考えたでしょうか。


「何が言いたい?」


ーーあなた様は既にご存じのはず。この国を再建するに当たって、厄介な問題が横たわっている事を。統治者が変わったくらいでは、真の平和など訪れない事を。


「一々言葉にすんな。ちゃんと分かってるからよ……」


ーー口賢くちさかしいようですが、念のため申し上げました。



やがて馬車は王宮前にたどり着いた。

オッサンとメイファンを筆頭にした騎馬隊は一斉に下馬し、レジーヌの後ろに整列してからひざまずいた。

宮廷の文官にエスコートされる形でレジーヌが馬車を降りた。

その時、オレと目が合う。

彼女はこちらに駆け寄ろうとしたが……。



「ミノル……ッ!?」


「姫様。なりませぬ。儀式の最中にございますぞ」


「でもね、彼には本当にお世話になったし、城を取り戻せたのも……」


「どれほどの功を立てようが、無位無冠の者にございます。それよりも今は中へ。落城してより民を守り続けた、国家の重鎮方がお待ちかねでございます」


「……わかったわ。私用は後にする」


「お聞き届けいただき、ありがとうございます」



こうしてレジーヌは王宮につれられていった。

去り際、僅かに寄せられた視線に対し、オレは苦笑しつつ片手を挙げる。

怒って居ないと伝えたつもりだが、それがうまく通じたかどうかは分からない。



「はぁーあ。一番の立役者のつもりなんだがなぁ。ガッツリ冷飯食わされてんなぁ」



返事はない。

周りには名前すら知らない見張りの兵が居るくらいだ。

アリアが何も言わなければ、本格的な独り言となる。


ちなみにその日は、レジーヌはおろか、オッサンたちにも会えなかった。

王宮内で催事が忙しかったのだろう。

その間オレはというと、街の中で暇を潰し、夜は森の中で枯葉を敷いて眠った。

うろつく事が許可されているのは王宮門まで。

一室宿代わりに借りるどころか、一歩も足を踏み入れることを禁止されていたのだ。


その指示を出したのは、アルフェリアに降って滅亡を免れた、かつてのミレイア貴族たち。

城の陥落を聞き付けると、一斉に城に押し掛けて権利の数々を主張し始めたのだ。

オレを閉め出すことも、それらの内に含まれていた。


この扱いにはさすがにキレかけたが、ひとまずは堪える事にした。

その理由は、国内のお祝いムードをつぶさに見せつけられてしまったからだろう。



「この国も平和になるぞぉーー! レジーヌ姫ばんざぁーーい!」


「ひめさまが帰ってきたー! わぁいわぁい!」



後から湧いてきた貴族連中への対処は後回しで良い。

オッサンやレジーヌとじっくり相談してからの判断でも遅くはないと、この時は考えてしまった。


だが、それは少し見通しが甘かった。

たとえ戦勝ムードに冷水をぶっかける事になっても、例の貴族連中を一層すべきだったと思う。

オレは後々にそう悔やむ事になるが、この時は人々の笑顔を前に、苦笑いを浮かべる事に終始した。

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