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第73話 故郷への道

騎馬隊が緩やかな坂道を登っていく。

行き先はもちろん王都ミレイア、みんなの故郷だ。

この行軍の軽さ、整地された街道だけが理由じゃ無いだろう。


口数が少ないのは緊張しているからか、それとも馬上だからか。

総勢100騎と1台の馬車が、蹄の音だけを響かせていく。


前ミレイア国王、レジーヌの親父には感謝するべきだろう。

王都に繋がる道を切り開いてくれたのだから。

商隊が通ることを想定していたらしく、砲兵の馬車すら駆け通しで行くことが出来た。

さすがに直進とはいかず、蛇行し、時には折り返しながら山道を進む。

それでも頻繁に下馬して進軍するよりは遥かに速く、そして快適だった。



「おっと……急に道がなだらかになったな」


「ミノル殿。戦場は近い。気を引き締められよ」



隣を走るオッサンが言う。

今回は大戦なので、メイシンは留守番となっている。

そのせいか、反対側を走るメイファンの機嫌がすこぶる良かった。

少なくとも自然に鼻唄が飛び出す程度には。



「前方に砦! 敵は総員で立て込もり、防御に徹する模様!」



偵察に出した兵が戻ってきた。

どうやら原野戦にはならないようだ。

それはそれで好都合。

ミノルさんを前にしては、固い守りも無意味だということを教えてやろう。


しばらく進軍すると、大きな砦に出くわした。

籠る兵は400弱。

想定していたよりも少し多いので、早くも増員がなされたのかもしれない。

こちらは特に困らんが。



「トガリ、急いで大砲を組み立てて……」


「おせぇよボケナス、いつでも打てるぞ!」


「早いなお前! じゃあ氷弾を2発、前後の門に頼むぞ!」


「氷弾、射てぇーーッ!」



2門の砲より砲弾が放たれた。

ひとつは手前の砦門をめがけ、もうひとつはそれよりも遥かに高い軌道で。

片方は奥の門に向けて射たせたが、実は狙いはデタラメだ。

角度からして、あの発射位置では当てようがないからだ。

なのでオレのアシストが重要になってくる。


高い方の弾を両目で捉え、オレは空を駆けた。

そしてタイミングを合わせて蹴りつけた。



「どっこいしょおおッ!」



威勢の良い掛け声とともに、砲弾が大きく軌道を変えた。

セパタクロー、あるいはボレーシュートの時と同じ要領だ。

これで2発の弾がそれぞれの門に直撃する。

オレは生憎あいにく球技オンチだが、イメージ通りにできてホッとした。



「な、なんだ今のは!」


「大変です! 門が、門が開きません!」


「そんなバカな話があるものか!」



相手の混乱ぶりは離れていても分かる程だ。

何せ今のは『凍蛇とうだ』の魔法を込めた砲弾だ。

触れた瞬間にあらゆる物を凍りつかせ、簡単には氷解しないという有能な魔法だ。

しかも季節は初冬。

次の春が来るまで門の開閉は不可能だろう。



「オッサン。もう大丈夫だぞ」


「よし、全体進めッ!」



オレたちは総出で砦の脇を通過していった。

敵兵を煽るように、大回りせずに堂々とだ。

砦からはパラパラと矢が断続的に射かけられたが、何の脅威もない。

慌てふためく兵と、弓で狙いにくい騎馬の行軍という条件が相まって、こちらの被害はゼロ。

一兵も失うことなく突破する事が出来た。


砦の兵はオレたちに追い付く事はできない。

騎兵を繰り出すどころか、あの中から外へ出ることすら出来ないのだから。

何ひとつ遮るもの無く、歩を進めていく。



「さぁて、このまま王都に攻め込みますかぃ!」


「まて、ミノル殿。後続の兵を討つべきだ」


「後続って、さっきの砦のヤツらか?」


「見よ。梯子を使って砦より出撃しようとしている。これがまとまって背後に居られては危険だ」



今では小さくなった砦だが、状況はオッサンの言うとおりだった。

梯子を介して少しずつ敵兵が地表に降り立っている。

このままでは下手すると、王都軍と挟み撃ちにされてしまうだろう。



「そうだな。あれは蹴散らした方が良い。オレが行こうか?」


「いや、ワシらに任せて貰おう」


「アタシも行くよ!」



オッサンとメイファンが手下を連れて駆けていった。

それぞれ50騎ずつが2隊。

左右に別れて大きく広がった。


上空から見たとしたら、クワガタのアゴの様に見えるかもしれない。

獲物を噛み砕かんと、存分に広げている。

彼らの向かう先には、まだ迎撃準備を整えていない、砦の兵が大勢揃っていた。


あちらは装備もまばらだ。

恐らく、上官に急かされるままに飛び出して来たんだろう。

だがその焦りは命取りだ。



「者共! ミレイアが魂を敵に刻みつけてやれーッ!」


「おうッ!」



オッサンは怒声とともに突入し、馬上で槍を振るった。

その突撃はすさまじく、進路に居た兵は全てが吹き飛ばされていく。

まるで突風でも吹いたかのようだ。

そうやって出来た風穴を、後続の兵がより大きく広げる。

そして馬の勢いを殺さぬままに、敵陣を抜けて駆け去っていった。



「アンタたち、アタシらも行くよ! 勝って大手柄あげて、良い女を好き放題に抱きなッ!」


「おうッ!」



今度は反対方面からメイファン隊が突入した。

オッサンが突風ならこっちは爆発だ。

彼女の大剣に打ち上げられた敵兵は、誰もが空高く放り投げられた。

そうやってメイファン隊も蹂躙じゅうりんしつつ突破したかと思うと、今度はオッサンが隊の向きを変えて戻ってきた。


それからは2隊の入れ替わりでの猛攻となる。

これには多勢の敵も耐えきれない。

為す術無く数を減らし、反撃の兆しもないままに壊滅した。

砦から眺めていた僅かな兵はこれをどう見ていたんだろう。

ともかく初戦は大勝利だった。



「待たせたな、ミノル殿」



グランド隊が先に戻ってきた。

メイファン隊もこちらに悠然と駆けてくる姿を見てから、オレは進軍を再開させた。



「楽勝だったな。さすがは音に聞こえた騎士様ってね」


「浮き足だった敵だ。造作もない」


「それにしても……お前の嫁さん面白ぇはな! 勝って良い女抱けだってさ! アレはオッサンに対しての当て付けだろ?」


「メイファンはまだ幼い。その様に言われても手を出す気にはならん」


「まぁ良いけどさ。あんまり冷たくすると、またどっかに家出すんじゃないの?」


「……善処する」



この時のオッサンの顔は味わい深いものだった。

天下無敵の豪傑も嫁さんには頭が上がらんのかね。

そこへ溌剌はつらつとしたメイファンが戻ってきたもんだから、笑いを堪えるのに必死になった。

戦場で夫婦漫才とかニッチ過ぎる。


それからの進軍は順調で、このまま進めば日暮れ前には王都に辿り着けそうだ。

恐らく三路の中ではオレたちが一番乗りだろう。

他の軍を待つか、単独で先駆けて攻めるかは、敵の守りを見てから決める事となった。



「アリア。王都周辺の敵の数を教えろ」


ーーお答えします。城の内外合わせ、おおよそ5万が展開しています。


「ご、5万!?」


「どうしたミノル殿?」


「いや……何かの間違いだと思うが、敵の数が5万も居るって……」


「そんなハズはない。恐らく1000、多くても2000程度であろう」


「そうだよなぁ。あり得ないよなぁ」



人口の多いエレナリオでも、1万をかき集めるのがやっとだ。

しかも農民兵も含めてだ。

それを5万も揃える事なんか不可能と言って良い。

たとえアルフェリアとアシュレイルの2国を合わせたとしても。


そう思っても胸騒ぎが収まらない。

不吉な予感が馬を急かす。

自然と行軍速度は速まり、やがて王都ミレイアへと辿り着いた。



「5万の敵って、そういう事かよ……下衆な作戦立てやがって」



そのからくりは簡単なものだった。

城壁や城外に展開する巨大な人垣は、ミレイア城下街に住まう一般人だったからだ。

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