第61話 真の覇者
旧ミレイア王都に2つの旗がたなびく。
ほんの少し前まではもうひとつ旗があったのだが、つい先日に降ろされたばかりだ。
エレナリオのエリオス王が、会談への参加を拒否したからである。
これにはアシュレイルとアルフェリアも大いに怒り、返答を聞き次第に同盟を打ち切ったのだ。
故に会談もとうとう2人だけとなった。
わずか1年足らずで世界の主導者が半減したのだが、彼らに焦りは感じられない。
「エリオスめ……。我らに牙を剥こうとは、愚かな男よ」
「アルフェ王。あやつに使者は送ったのだろう。返事はないのか?」
「話にならんわ。一方的な拒絶。よほどに新興国が恐ろしいと見える」
「ならば我らの方が強大であり、絶対者であることを教えてやらねばならぬ」
この2人の王の戦略は一致している。
大陸中北部に位置する、世界一の穀倉地帯を手中におさめようというのだ。
特にアシュレイルは土壌が豊かでないため、エレナリオとの国交が途絶えると窮地に陥ってしまう。
そのため、一刻も早い制圧が望まれるのだった。
「貴国の戦力は骨身にしみておるが、油断は禁物じゃ。あちらには千本槍のグランドだけでなく、大魔獣まで擁し、さらには謎の力をふるう小僧までもが控えておる。エレナリオの討伐戦と考えていては足元を掬われよう」
「物の数ではない。我らだけでカタがつく。更には貴様の機工師団までもが味方なのだ。負ける道理が無い」
「ふむ……そうじゃろうな。歳を重ねると気が小さくなって参るわ。今のは忘れてくれい」
アルフェ王が嗄れた声で笑う。
対するレアルは眉ひとつ動かさずに居る。
「それはそうと、レジーヌの行方は?」
「確信できるほどの情報は届いておらん。貴殿こそどうなのだ?」
「近隣を捜索させたが、手がかりすらない。北方山脈もしかり、帰らずの森しかり」
「ふむ。となると、やはり新興国の支配下に居ることじゃろう。エレナリオに違いあるまい」
「なぜそう思う?」
「考えてもみよ。ディスティナは首都壊滅、東南は魔獣が跋扈する未開の地。高貴な者を匿うとしたら、無傷のエレナリオ以外にあるまい」
「では、エレナリオの離反もレジーヌが原因か? 豊穣の加護を独占するために?」
「その線が濃厚じゃ。エリオスは油断のならぬコウモリ男じゃからな」
「おのれ……もしそうであったなら八つ裂きにしてくれる!」
突如室内に、レアルの殺気が充満した。
純粋で、明確な殺意だ。
これには武道の心得のないアルフェ王ですら、額にジワリと汗をかく。
「レアル王よ、期待しておるぞ。この前拾った小娘の力も楽しみじゃわい」
「……なぜそれを知っている?」
「我が国の情報収集力を侮ってもらっては困る。帰らずの森から連れてきたのだろう? 確か名前はメイ……メイ……」
「メイファンだ。女の身にも関わらず、なかなかに遣える」
「そうじゃそうじゃ。かなりの剛のものと聞いておるぞ。それで、手は出したのか?」
「何だと!?」
レアルが椅子から立ち上がった。
これも怒りには違いないが、これまでに見せたものとは全く別物であった。
一握の冷静さすら残さぬものであり、これにはアルフェ王も内心驚く。
深い意味のない軽口のつもりだったからだ。
「そう角を立てるでない。些細な冗談ではないか」
「あの小娘は拒んだ、夫に操を立てているからとほざきおったわ」
「そうか、そうか。では力づくか?」
「侮るな! このレアルこそ最も優れた男だと知れば、向こうから寄ってくる。あの小娘を虜にするのも遠い未来の話ではない!」
「わかった、わかった」
「ともかく、これよりエレナリオを攻める。貴様も遅れるなよ」
「任されよ。大船に乗ったつもりでな」
レアルが退室した。
室内にはアルフェ王と、彼に付き従う近侍のみだ。
「まさか龍人王レアルが、女ごときに心酔しようとは……随分と可愛いげのある男になったものよ」
その言葉に返事はない。
アルフェ王は傍の者に発言を許していないからだ。
必要最低限のものを除いては。
「たわけが。共倒れになって滅ぶが良い」
重く、冷たい声が漏れる。
その言葉についても、やはり誰も応じる事はなかった。
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