第60話 辞世の句を作ってみた
東雲の 朱に染まる朝焼けに
命消え行く秋の夕暮れ
短歌っぽいのを考えてたら、こんなもんが出来上がった。
古めの言葉を五七調で並べるだけで雰囲気出るから不思議だな。
意味が通ってるかまでは知らん。
こちとら古典は苦手でね。
「どうだアリア。これが故郷に伝わる辞世の句というやつだ」
ーーふむふむ。これは何とも味わい深い。10段階で評価するとしたら……。
「するとしたら?」
ーー『乙女の脇汗』レベルでしょうか。
「貶すならちゃんとやり切れよ」
アリアの揶揄はさておいて、儀式を続けなくてはならない。
スミヤスから借りた一番鋭利な短刀を手に。
足元は大量の布。
それを敷き詰めて自室が血で汚さないよう対策を施す。
「よし……やるか」
これからの事を思えば、自然と気が引き締まるものだ。
だから何となく正座。
白装束は手元にないので、普段着で臨む。
短刀は逆手持ち。
後は、それを力一杯打ち付けるだけだ。
チラリとテーブルを見る。
そこに相変わらず、例の苦いアレが大量に残されている。
コイツとのトラブルもこれで終わりだと思うと、不思議と笑みが溢れてくるな。
「おっし、やるか。マジモンのハラキリってやつをよぉ!」
「ミノル! 何をしてるの!」
「うわっ!?」
あと一歩というところで邪魔が入った。
弾かれた短刀が地面を滑り、壁のところで止まった。
止めに入ったのはレジーヌだ。
何かを察したらしく、体当たりによってハラキリを阻止してきたのだ。
「何を考えてるのよ! 今のはセップクでしょ? どうして自殺なんて考えたの!」
「ち、違うぞ。今のは外科手術だ!」
「げ、ゲカ? 何よそれ、聞いたことも無いわ」
「ええとだな、腹を開いて、腸に直接苦いやつをねじ込もうと思ってな」
「……呆れた。どうしてそんな無茶を」
「だってアレ苦いしさ。というか、無茶じゃないだろ。すぐに回復魔法で閉じれば良いんだから」
「回復魔法? そんなものある訳ないじゃない。おとぎ話じゃないのよ?」
「えぇ……?」
まさかの全否定だ。
オレからすると、ケルベロスだの火魔法だの魔力だのといった要素は、ファンタジーそのものだというのに。
その世界の住民に『おとぎ話』扱いされるとは、余程の認識違いをしているのか。
さすがに蘇生魔法は無いにせよ、怪我や病気くらいならピロリと治せると踏んでいるんだが。
「アリア。レジーヌはこう言うが、本当はあるんだろ?」
ーーありません。おとぎ話じゃないので。
「おまえぇ……だったら止めろよ! 危うく死ぬところだったじゃねぇか!」
ーーミノル様には魔力による絶対防御が備わっています。ゆえに自刃されようとも掠り傷ひとつ付きません。数度の挑戦の後に刃が折れた事でしょう。
「なおさら止めろよ! そうなった時のオレが凄く恥ずかしいだろ、念のためとは言え、辞世の句まで読んでんだぞ!」
ーー恐らく儀式の最中に『あっ……』という顔をなさるでしょう。それから恥じ入り、頬を染め、口ごもりながら自己弁護に勤しむ。そのお姿は実に、極めて味わい深いものです。想像するだけでも私めの女の部分が激しく潤います。
「うるせぇよ、バーカバーカ!」
振り出しだ。
腸に捩じ込む案が不可となるなら、この膨大なる苦いアレの対処法を考えなくちゃならない。
原材料は不明の凶悪汁。
まぁ知ったところで大した意味はないが。
どうにもこうにも苦すぎる。
ゴーヤー料理なんてメじゃないくらいの破壊力だ。
オレは小さい頃、祖母ちゃんにセンブリ茶を飲まされた経験がある。
胃腸の弱さを心配されての事だ。
当時は余りの苦さに泣き出してしまったもんだが、今回のそれは比較にならないほどの凶悪さだった。
今ならあのお茶をソフトドリンク感覚で飲めるはずだ。
喉を鳴らしてゴクゴク味わえるだろうさ。
このクソ緑ボケ藻汁に比べりゃ、あらゆる物がスイーツ扱いになるよ!
「それにしても困ったわねぇ。そんなに嫌なの?」
「もちろん。お前も一口いくか?」
「ごめん、遠慮するわ。苦味が得意じゃないし」
「あぁーー、マジでどうすっかなぁ! 全ッ然減らねぇんだよコレ!」
「本当ね……ところで、このスープは何ていうものなの?」
「分からん。苦いアレって呼んでる」
「まぁ、世界初の代物だろうから、名前なんか無いのかもね」
世界初とか、名称はとか、もはやどうでもいい。
関心事はただひとつ。
コイツをどうやって退治するか、だ。
いまだコンモリとボウルを占拠する藻は、何よりも手強いと感じる。
きっと鳥取砂丘をひとりで横断するよりも過酷で途方もない作業だろう。
行ったことないけどさ。
「ミノルさまぁ! 朗報ですよローホー!」
「なんだよシンシア。味覚を殺す草でも見つけたのか?」
「あっ、ちょい惜しいです! デロルの果肉をとろかして来ましたぁ!」
「デロルの実! その手があったわね!」
「え、なになに? 置いてきぼりだぞ」
「これですよ。たっくさん作りましたよ!」
彼女の手には巨大なボウルがあり、中には半透明の液体が満たされていた。
かなり粘度がある。
ローションというか、溶かした寒天というか、わらび餅的というか。
何となく美味しそうに見える。
「これを使ってですね、苦いの包んで飲めばアラ奇跡! 全然味がしなくなるのでぇす!」
「……ほんとかぁ? そうは言うけどよ、コレの苦味はすっげぇんだぜ?」
「まぁまぁまぁ。ロンよりショーコです。まずはお試しくたさいな」
勧められるがままにアレをコレで包んでからパクリ。
……マジかよ。
何の味もしない!
「これすげぇ、魔法みてぇじゃねぇか!」
「よく飲めましたねぇ! 良かった良かった!」
「うんうん。やったじゃない! ちゃんと飲めたわね」
「あのさ、2人揃って褒めんの止めてくんない? 薬を飲めた子供みたいで恥ずかしいだろ」
ーーそうですね。ミノル様に赤ちゃんプレイなどの性癖はありません。マゾッ気はなく、ドエスそのものですから。具体的に言えば触手や機械姦などのプレイの方がよほど充血する……。
「さぁさぁ、これからジャンジャン食うぞーぃ!」
シンシアのアシストのおかげで、今回のフードファイトにも光明が見えた。
これまでが嘘のように食が進み、順調にノルマが消化されていく。
とは言っても楽ではない。
なぜならデロンな液体も同等以上に食わなきゃならんからだ。
その結果、オレの食卓は凄惨を極めた。
みんなが焼きたてパンを、ジューシィなステーキに舌鼓を打っている間、オレはひとりでデロン包みを食う羽目になった。
濃厚、美味しいという賛辞を耳にいれつつ、大惨事な晩飯、翌朝飯に昼飯を摂る事となる。
まと食にありつけるのは、藻を完食してからだ。
道のりは相当に険しいものだった。
自ら選んだ道とは言えど、腹が立たないわけではない。
このやり場の無い怒りはどう処理すべきか。
敵国のアシュレイルとアルフェリアにぶつけるとしよう。
そっち済んだら次はオッサンだ。
殺しはしない。
だが、あのオシャレ髭をこんがり焼かれるくらいは覚悟してもらおう。
そう妄想するだけでも心は弾むというもの。
「楽しみぃ、楽しみだなぁぁあ!」
「ミノルさまがお元気になって良かったてわす。あんなに楽しそうに笑ってますよぉ」
「うーん。どこか不純というか、邪悪な笑みじゃない?」
女性陣の実況が聞こえてくるが、それに構う時間が惜しく、それからは無言で食べ続けた。
待ってろよ、残りの敵国ども。
大豆を洗って待ってやがれ!
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