30枚目 異世界の女子どもが俺のぱんつを狙ってる ~前編~
「ハァハァ……お、終わった……のか?」
俺は肩で息をしながら、やっとの思いで言葉を紡ぎ出した。
意識が朦朧とする。
もはや、自分が何でこの場所に居て、何をしていたのか、それすら分からなくなりそうなぐらい自己に対する意識が薄れる……
「くっ……」
身体が重い……
悲鳴を上げている……
身体、というか、主に尻が……その穴から悲鳴が……
レッドドラゴン戦が終わった……
長く……
そして、苦しい戦いだった……
結果だけ言うと、俺はレッドドラゴンを撤退させるのに成功した。
まあ、そう言うと聞こえはいいが……
何のことはない。
ただ単純に、レッドドラゴンは満足して帰って行ったのだ。
レッドドラゴンが何を以って満足して帰っていったのか……
それを言うのは……最後に残った俺のなけなしの名誉のために、言及することは勘弁して欲しい……
ともあれ、マッチョマンの人間形態だったレッドドラゴンは、竜の姿に戻ると、その翼でどこかへ……恐らくは巣穴へ……飛んで行ったのだ。
レッドドラゴンとの戦い……
簡単に言うと、『挿しつ挿されつ』の大乱闘だった……
挿すだけでもこっちにとって精神的ダメージは大きいというのに、あの野郎、いらんというのに、お返しとかするんだものなぁ……
「痛つつ……」
俺がぱんつの中に手をやって直接自分の尻をさすると、ドロリと手の先に何やら液体のような感触がした。
「うわ……血が出てるじゃないか……」
ぱんつから出した手を見て、俺は呟いた。
そこには、真っ赤な血が付着していた。
これだけでも如何にレッドドラゴン戦が熾烈であったか、想像できるだろう……
本当なら傷口をクレアさんにヒールをかけてもらいたいところだが……
どうやら、俺とレッドドラゴンの行為は、清廉潔白なシスターには刺激が強すぎたようだ……
今、クレアさんは失神して、マールさんに介抱されている……
仕方ない……
大体、この辺かな?
尻は自分で見えないので、触って傷口っぽいところにヒールをかける。
ふん!
俺は……今回の戦いで……
色んな意味で『初めて』を失った……
思い出すと涙が出て来る……
自分で自分の肩を抑える。
体が震えてしょうがない……
それは恐怖であったり、安堵であったり、色んなことから来る複雑なものであったが……
「とにかく俺はやったんだ……」
レッドドラゴンに勝ったという栄誉だけが、俺の最後に残った誇りであり、自我を崩壊させないための楔となった……
・・・・・・
やがてクレアさんも失神から立ち直り、全員無事なのを確認すると、俺は、ケツのところに穴の空いたぱんつ一丁のまま、リュックを背負って、無言のまま森を後にした。
え? 何故、パンいちなのかって?
レッドドラゴンの野郎……服を脱がすのが面倒だったらしく、俺の服をビリビリに破いて裸に剥いたんだ……
俺は、ただひたすらに、下を向きながら歩いていた……
その後ろを、マールさん以下、女子達がトボトボ歩いている。
そうして皆無言のまま歩き続けていたのだが……
30分もした頃だろうか、ついに耐えきれなくなったのか、女子どもが声をかけてきた。
「で、でも、レッドドラゴンを追い払ったのは事実ですよ!」
「そうよ! 何事も経験でしょ?」
「うむ、なかなかできることじゃないぞ」
クレアさん達女子どもが、三者三様になぐさめて言葉をかける。
「ありがとう。でも、その台詞を言うのなら、5メートルも離れて言わないで欲しかった……」
嫌味のつもりはなかったが、ついそんな言葉が口から出ると、女子どもは黙ってしまう……
いや、それでいい。
下手に慰められると、余計に涙が出て来るから……
うぅ……
・・・・・・
でも、まあ、終わり良ければ全て良しと言う。
レッドドラゴンを撃退したことは、過程がどうであれ、結果だけ見れば、大いに人に誇れるものだろう。
そんな感じで気持ちを切り替えて、俺はギルドに事の顛末を報告をする……
「バッカモーン!」
ギルド長に物凄い怒られた。
「何故、Aランク冒険者を待たなかった! 今回は良かったものの、君の無謀な行動で、余計な被害が出るかもしれなかったのだぞ!」
ギルド長曰く「もしレッドドラゴンの逆鱗に触れて、暴れ回れたら大変なことになっていた」とのこと。
いや?
そんなことは無かったよ?
終始あいつ機嫌が良かったし。
ターゲットは俺だけだったし。
てか、暴れ回ったところで、被害は俺だけだったよ、多分……
ユーシャの尻に拘っていたようだし……くそ……
口には絶対に出さないが、心の中でそう呟く。
俺がどれ程の犠牲を払ったか、このおっさんにはわかるまい……
「その態度……反省してるのかね!」
どうも心の中に留めたつもりが、態度に出ていたらしい。
俺もまだまだだね……
だが、ギルド長よ……
そうは言うが、こちらにも色々事情があったんじゃ、ボケ!
お前に、尻を掘られる男の気持ちがわかるか!
その事の顛末を詳しく聞かれ、セカンドレイプになってまう男の気持ちが!
そんなことを考えていると、つい目に力が入って、相手を睨みつけてしまう。
「まあまあ、お二人とも! 何はともあれ、被害が少なくて良かったじゃないですか!」
危うく喧嘩になりそうだったが、アニエスさんが間に入ってくれて事なきを得た。
「ま、まあ、そうだな。勝手な行動をしたのは許せんが、レッドドラゴンを撃退したことは事実であるし、ノジメハのギルド長として、例だけは言っておこうか……ユータ君、ありがとう……ふんっ!」
は? 何それ?
ツンデレのつもりかよ!
おっさんのツンデレなんて、誰も求めてねーよ! ボケ!
文句つけてやろうかと思ったが、アニエスさんが俺の耳元で、
「まあまあ! ユータさん、後で何かご褒美あげますから、ここは抑えて、抑えて……」
というものだから、大人しく引き下がった。
ふむ……ご褒美か……
後で、ご褒美として、ジョークのつもりで『アニエスさんのぱんつ』をねだったら、ぱんつの代わりにパンチが来た。
ん?
あ、おわかりになられませんでした?
今のは、ですねぇ?
『ぱんつ』と『パンチ』をかけた高度なダジャレで……
・・・・・・
まあ、ギルドでの扱いはそんな感じだったが、俺がレッドドラゴンを追っ払ったのは事実だ。
その噂は瞬く間に街中に広がった。
もはや、男も女も、この街で俺のことを知らない者はいない。
「おお! レッドドラゴン退治の英雄・ユータじゃねーか!」
「ホントだ! お前の武勇伝、今度聞かせてくれよ!」
もっとも……
男と女で、俺に対する評価は全く逆のものだが……
「キャァ! ユータよ! 私、目が合っちゃった! キモ……」
「しぃー! 聞こえるわよ! 相手は変質者なんだから何されるか!」
男からは『最高に勇気のある者』……つまり、英雄だとして褒めたたえられた。
一方、逆に、女からは、前にも増して、汚いものを見るかのような目で見られた……
早い話が……
『全裸でレッドドラゴンを撤退させた英雄・ユータ』
とか
『鬼神マールをカンチョー責めした鬼畜魔・ユータ』
とか噂されるようになったのだ。
男の方は、それを酒のサカナに、よく俺を酒の席に誘っては、俺の武勇伝(?)を聞きたがった。
特に、マールさんにカンチョーした時の話は、事細かに求められた。
で、一方、女の方は……
時折、女子どもが俺の方をチラ見しながら、ヒソヒソと「ぱんつ魔」とか「カンチョー」がどうとか言っているので、何の話をしているのかは、容易に想像できた。
「もう、この街から出よう……」
ただ目が合っただけの見知らぬ幼女達から石を投げられ、俺は決意した。
俺はもう、ノメジハの街にいられない。
「げ、元気出しなさいよ。ほら? も、もともと出ていくつもりだったでしょ?」
スイーツが慰めのつもりか、優しい声をかけてきた……
やめてくれ……その同情が余計にキツイ……
でも、本当にもう出よう。
考えてみれば、もともと、次の街・ノギーツまでの道中に生息するモンスターが、今の俺のレベルでは厳しいという話だったから、適性レベルまで修行するだけの間いる予定だったもんな。
この街に留まる理由なんてない。
惜しむらくは、マールさん、アニエスさん、クレアさん、ターニア、この街で出会った美女美少女達との別れだが……
どうせこちらは不細工デブ……
俺が出ていったところで気にも留めないさ……
ああ、陰キャが加速していく……
そんなわけで俺は、次の街・ノギーツまでの道中で、使うだけのぱんつを確保すると、誰にも挨拶をせずに……街を抜けた……




