幕間劇 鬼女マール
作者「今回は、趣向を変えて三人称にしてみました」
作者「ぶっちゃけ、読み飛ばしちゃっても、多分大丈夫です」
マール・アンダーソン(24)。
一言で説明すると、彼女はエルフとして色々と規格外だった。
まず、大きく他のエルフと違ったのが、生まれつき魔力が少ないこと。
元来、自然豊かな、魔力の多い森の中で暮らすエルフ達は、先天的に豊富な魔力を持って生まれるものだが、マールはどういうわけか、違った。
まるで人間並みの魔力しか持ち合わせていないのだ。
ハーフエルフを疑われることもあるが、彼女は純粋なエルフである。
それが原因で、幼少期から周囲から孤立しがちな彼女だったが、第二次性徴期を迎えて、更にエルフとして規格外なところが増えた。
つまりは、『胸の大きさ』である。
エルフは、一般的に体格があまりよろしくない。男はヒョロヒョロとした優男、女は貧にゅ……慎ましいスレンダー体型である。
しかし、マールの場合、彼女の胸は規格外にデカかった。10歳で既に、片手で覆えないぐらいはあり、今もなお成長中とのこと。
それがまた、ある種の嫉妬を買った。
いや、マール自身も悪かった。
あけっぴろげな性格の彼女は、思ったことをすぐ口にする。
「肩こるわー、マジ肩こるわー」
「みんな体軽そうでうらやましいわー」
「走るの辛いわー、クーパー辛いわー」
実際に彼女が本当にそんなことを言ったかは定かではないが、似たようなことで周囲のエルフを苦々しく思わせていたようだ。
それらは、一つ一つは些細なことだったが、積もり積もって……彼女は、生まれ故郷に居られなくなった。
エルフの里を飛び出し、自分に無理解なエルフがいない地を目指した。
こうして、マールは人間の街に来た。
人間の街で冒険者をしてみたが、どこか今一つうまくいかなかった。
元来なら魔力が豊富なエルフは、魔法使いや僧侶などの魔法職が望まれるが、彼女の場合、魔力が少ないため、冒険者としては、戦士しかやれるものがなかった。
だが、エルフは一般的な人間より筋肉が少なく、どうしても戦士としては向いていない。エルフとして色々規格外な彼女だが、筋肉量に関しては、一般的なエルフと同じで非力であった。
才能の無さは、努力で補った。
毎日、鍛錬を欠かさないことで、非力ながら、中堅どころの戦士として、何とか細々とやっていた。
いつしか、我流の荒々しい剣筋から『鬼女マール』と呼ばれるようになった。
転機は突然訪れた。
マールは、とあるオーク討伐のクエストで失敗した。
幸いにも、オークからは逃げ出せたが、後遺症で冒険者を続けていられなくなる。
そこで何があったのか?
彼女は多くを語らないので、真相は闇の中だ。
現在は、冒険者をやっていた時のツテで、冒険者ギルドの受け付け嬢として働いている。
最初のうちは、言葉づかいなどに苦労したが、幸い、先輩職員のアニエスの面倒見がよかったため、努力してどうにかなった。今では、マールの普段を知っている人間からは、ギルドで受け付けをしているのは同姓同名の別人ではないかと言われる程である。
元・冒険者である彼女は、冒険者のニーズに細かいところまで対応するので、なかなか評判はいい。
まさに天職といっても過言ではないだろう。
ただ、冒険者達にコンプレックスである胸をジロジロと見られると、つい舌打ちしてしまう癖はいまだに直せないでいるが……
だが、マールは心の中では、冒険者として復帰したいと考えている。
せめて、あの時のオークにリベンジしてやりたい、そう考えている。
だから、剣の修業は、ギルド職員になった現在でも欠かすことがない。
修行場に出かける休日はもちろん、仕事のある日も、出勤のギリギリまで練習をしている。
「彼のあのぱんつは本物なのだろうか……」
ふと、ドラゴン級災害のことが頭に浮かんだ。
とても人間の仕業とは思えない破壊の爪跡……
だが、調査の結果、モンスターの仕業でないことはわかっている。
「考えるのは苦手だ。私らしくない」
あの日、あの場にいた人間は、ユータだけ……
彼が犯人かどうかはともかく、この件について何かを知っている。
あるいは、本当に、やつの言った『ぱんつの能力』は本当なのか?
「あー、くそ! モヤモヤする! やっぱりハッキリさせるべきだな。今度あいつに、もう一度頼んでみよう……」
ぱんつ被らせてくれ、と。
そんなことを考えて、つい赤面してしまう。
異性の下着を頼み込んでまで被らせてもらう……何とはしたない!
ガサツなところもあるが、彼女もまた乙女なのである。
「あの時は、何であんな強引に脱がそうと思ったんだろ……」
あの男から無理やりぱんつを剥ぎ取ろうとしたことを、今、冷静になって考えてみると、本当に恥ずかしい。
いや、全部あいつが悪い。
あの顔、あの目つき、あの態度……何だか知らないが、無性にイラつかせる。だから、ついついやり過ぎてしまうのだ。
何か、人をイラつかせるオーラがあの男から漂っているのではないか?
「私も里では、似たように思われてたのかもな……」
ふと、自分のことを考えてしまう。
自分も無意識のうちに、同じように周りのエルフ達をイラつかせてしまったのかもしれないと……
例えそうだったとしても『あんなの』と同じとは思いたくもないが……
「いやいや、他所事を考えて手は仕事に支障をきたすな……よし!」
そう思って、マールは気を引き締めた。
ギルドの仕事は、片手間でできるほど甘くはないのだ。
「フフフ、こんにちは」
緑髪の眼鏡女がやってきた。
今日一番の客だ。
時刻は昼前といったところで、今日は明らかにギルドに立ち寄る人間は少ない。
というのも、レッドドラゴン騒ぎのせいで、今、街中が厳重体勢となり、基本的に街の外でのクエストが厳禁となったからだ。
「今日は、どのようなご用件でしょうか?」
マールは、極めて事務的に対応した。
「フフフ、ユータさんが来なくて、ご機嫌ナナメですか?」
「チッ!」
ついイラっと来た。
この緑髪眼鏡……アニエスは何を言い出すんだ?
どうでもいいことを聞くな、とマールは思った。
「今日は、どのようなご用件でしょうか?」
「聞きましたよぉ……ユータさんの剣の練習につきあったんですって?」
アニエスは「わざわざ休日をおして!」と付け足し、ニシシと笑った。
うぜえ……
「マールさんは、ああいう人がタイプなんですね。意外でした!」
「今日は、どのようなご用件でしょうか……」
「でも、あまり特定の人とだけ仲良くするのは、よくないと思うんですよ。マールさんファンクラブの皆さんが悲しむので!」
「そんなやつらが悲しんで何だというんだ……」
マールは、ぼそりと呟いた。
アニエスは、その呟きを聞き逃さなかった。
「関係大アリですよ! ここ、初心者の街・ノメジハが栄えてる一つの要因は、マールさんファンクラブみたいな方がいてくれるからなんですよ! ああいう方がマールさん目当てで居てくれるから! ギルドのためにも、ファンは大事にして下さい!」
「ああ、うぜぇ……そうやって、人のことばかり口出してるから行き遅れるんだよ……」
「な、な、な! 何言ってるんですか! 29歳は行き遅れじゃない!」
アニエスは、彼女にしては珍しく冷静さを失って大声で叫んだ。
彼女にも譲れないものがあるのだ。
まあ、15~16歳で結婚が普通のこの世界じゃあ、29歳なんてBBAもいいところだけどね!
さて、そうこうしていると……
「ハァハァ……おや? 噂をすれば……」
アニエスが、面白そうにギルドの入り口から入って来た人物を見やる。
黒髪に、でっぷりとした腹。冒険者には相応しくないぶよぶよの筋肉のない腕……
ぱんつ魔ユータがやって来たのだ。
「おやぁ?」
アニエスは興味深げにユータを見る。
というのも、ユータの傍らに、まるで恋人がそうするようにユータの手を両手で抱えている少女がいたからだ。
彼女の名はターニア。漆黒の淑女会のターニアだ。
アニエスは、ターニアに手を抱えられたユータと、それを眺めているマールを交互に見て、ほくそ笑む。
「面白い事になりそうですね……」
そう言って、アニエスは邪魔にならない位置に引っ込んだ。
「今日は、どのようなご用件でしょうか?」
マールは、極めて冷静に、事務的に対応した。
心の中で「アニエスのやつ、この状況を楽しんでるんだろうなあ……」などと思いながら。
大方、ユータがターニアに脅迫されているとか何とかだろう。
そもそも、この間までターニアにぱんつを狙われていたユータが、ターニアと一緒に歩いていること自体がありえない。
ましてや、二人が恋人なんて考えられない、とマールは思った。
そして、ユータは口を開く。
「えーと……恋人同士でデートに出かけるような、気軽なクエストを下さい!」
「はあ?」
マールの声がギルド内に響くのだった……
作者「更新、遅れちゃって申し訳ありませんでした」
作者「ぶっちゃけ、9月8日『くぱぁの日』に何かやりたくて、没作品から手直し→復活させた。今は、もうちょっと練ればよかったなと思って反省している」




