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秋葉楓という名の神は、いない。

どん。

 平穏は過ぎ去った。

 翌日、起き抜けを秋葉楓の喧しい声に襲われてそんなことを思った。


「遅い!」


 秋葉楓が怒鳴る。


「今何時だと思ってるの!」


 お前は母親か何かか。


「何時なんですか」

「知らないわよ!」


 間髪いれずであった。

 あーだ、こーだ。耳喧しい秋葉楓の説教を、飽きれを通り越した半ば憐憫の気持ちで聞き流していると、上から声が降ってきた。


 そう、声が降ってきたのである。


「危なーいっ」


 声に釣られるように上を見上げると、モモが降ってくるではないか。咄嗟に前に腕を突き出して落ちてくるモモをキャッチする。

 ずしりと重い感触と、尻尾の妙な異物感が手に伝わって来た。


「ナイスキャッチ」


 うるせえ。

 親指を立ててサムズアップするモモを床に下ろすと、俺は肩をぐるりと回した。寝起きにする運動ではない。


 落ちてきたモモはと言えば、「カエちゃんもやろう」などと秋葉楓の手をしきりに引っ張っている。当の本人は若干顔を蒼褪めながら首を振っていた。ざまあみろ。


 しかし、この建物に二階などあっただろうか。そう思い上を見ると、確かに俺がいた部屋の扉の上方に手すりがあって二階があることが分かる。建物はそれなりにデカいらしい。トカゲ野郎がよくこれだけの建物を建てられたなと思わなくもないが、まあ、どうでもいいか。


 秋葉楓とモモの喧騒を聞きつけたのかキッチンの奥からマリアがやって来た。


「モモ、上から落ちる遊びは辞めなさいって言ったでしょ」


 聖母とて怒るときは怒るらしい。いつもの慈愛の笑みは形を潜め……むしろ凄みを増してモモを凍らせる。


「ごめんなさい」


 さっきまで騒いでいたのが嘘のようにしゅんとなってモモが謝った。その隣では何故か秋葉楓も頭を下げている。


「次やったらお仕置きだからね」


 ひいぃっ。そんな心の叫びが二人から聞こえたような気がした。うん、知らぬが仏だ。

 何かすることがあるわけでもなし。もとい、したいことがあるわけでもなし。もうひと眠りでもしようか。そう思って部屋に戻ろうとすると、マリアが声をかけてきた。


「おはよう、アオイ君。朝御飯食べるでしょ?」


 どうしてか心持マリアの方を振り向くのがぎこちなくなる。


「おはようございます。朝御飯、あるなら頂きます」


 何もなかったかのようにいつも通りの笑みを浮かべているマリアを見て、何故か俺はほっとした気持ちになっていた。


 出された朝御飯は思っていたよりも普通であった。

 ここは異世界であり、そうである以上、あっちとこっちでは食文化が違っていてもおかしくない。そもそも、あっちでは国が違えばそれだけで食文化が違ったのだ。世界が変わればどうなることやらと思っていたが、それは杞憂であった。


 魚の切り身が入った汁物に、少し粒が大きいお粥。瑞々しさの残る葉っぱに辛みの効いた粗い挽肉。朝食に肉は少し重いような気もしたが、昨日何も食べずに寝たせいか、すんなりと腹に収まった。

 蛙だとか、トカゲだとか、芋虫だとかを普通に食べる所もあるのだ。カニバリズムや何かがこの世界での主流であってもおかしくないはずなのに、これは僥倖だ。


 一通り出された朝食を平らげた俺は、満腹感に腹をさすった。これで食後のコーヒーか何かがあれば、優雅な一日を始められるのだが、そうは問屋が卸さないらしい。

 馬鹿の奇声が耳に飛び込んできた。


「コウサク!勉強の時間よ!」


 嗚呼、神よ!何故貴方は私に試練をお与えになるのか!……この場合は秋葉楓が神になるのか?それはないな。とりあえず、俺は秋葉楓ではない神に祈った。名前は知らない。あーめん。


「何してるのよ。さっさと行くわよ」


 俺の願いは容易く砕け散った。そもそも届いてすらいなかったのではないだろうか。

 秋葉楓はそう言って俺の腕をむんずと掴むと、外へと引っ張り出した。


 ……外?


「ちょっと待て、どこに行く気だ?」

「何?いきなりタメ語?生意気ね」


 なぜそうなる。いや、そうじゃなくて、俺をどこに連れて行く気なんだ、こいつは。

 秋葉楓はどこに行くつもりなのか通りを走る勢いでずんずんと進んで行く。それに引っ張られる俺は半ば金魚の糞のように引きずられ、あちらこちら行き交う人にぶつかっては睨まれていた。


 いや、悪いのは決して俺ではなくてだな――。

 あれこれ言い訳を内心で呟きながら俺はぶつかる度に頭を下げていく。俺に謝る筋はない。しかし角も立てたくない。秋葉楓と通行人の板挟み。片方を立てれば、片方が立たない。まあ、秋葉楓を立てるという選択肢はないのだからそこまで困ることでもないが。


 二匹の猫が互いの尻尾を加えて一つの輪を形作っている絵が彫られた看板がぶらさがった、周囲の建物より一つ頭の飛び出ている建物の前で秋葉楓の超特急は終わりを告げた。


「なに項垂れてんのよ」


 いや、しょうがないじゃないか。走る勢いでとかじゃなくて、走っているんだから。どこにそんな力があるんだとか人の迷惑は考えなかったのかとか、言いたいことは色々あるが、何よりも、俺は文系なのだ。文化部なのだ。多くの文化部がそうであるように、俺の体力もまた底が知れているのだ。


 膝に手をついて上がった心拍数を整えていると、正面の扉が開いて黄緑色のワンピースを着た女の子が手に木の桶を持って現れた。

文量?何それ?おいしいの?

とりあえず、書き貯めに回した。これで一日、二日はサボれる。自分ぐっじょぶ。

次回は明日。時間は未定。まあ夕方が妥当なところ。

以上。また明日。読んでくれてありがとう。

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