3話 2つのバレーボール
いつもは土日に書いているのですが土曜日に更新できるように先に少しだけ書いておこう。と思ったらつい1話分書いちゃったので更新しました!
家から10分ほど弓梨と歩いているが、まだ学校に到着しない。遠いよ。高校遠いよ。
傍からしたら「ハッ!俺/私は30分以上かかるんですけど! 10分でばてるとかニートですか!?」と思うだろうがそういう訳では無い。俺が通っていた小学校、中学校が家から近すぎたのだ。
俺が通っていた学校は、小学校と中学校がくっついていて、しかも家から徒歩1分という、遅刻をしようとしても出来ないような近さだった。そう考えると弓梨はよく俺の家にわざわざ来て、一緒に学校に行ってくれるな、とつくづく思う。
その理由は聞けば即答するだろう。弓梨の事だから『月夜が好きだから』などと言うに決まっている。別に俺が「一番美しいのは俺だ! 世界の女子は全員俺を1番愛している!」などと自画自賛をするようなナルシストな訳では決して無い。弓梨はそういう奴なのだ。その為、同じ学校の男が誤解する事が多い。それで弓梨と仲良くしてる俺がボコられる、って訳だ。
「……月夜! ねえ月夜ってば!」
「何? 愛の告白ですか?」
真顔で普通なら軽蔑されるであろうジョークを平然と言うと何故か弓梨は顔を林檎のように赤くした。
「月夜ってよくそう言う事言えるよね…… ハッ! もしかして私の事ーー」
「んで話って何?」
弓梨の発言をガン無視して話を進めようとすると彼女は頬を風船のようにぷうっと膨らませ、気に食わない、という感じの顔をする。茶番だ。
「今頃だけど、私の制服姿に何も感想くれなかったよね……これ着て見せたの、月夜が初めてなんだけどなあ……可愛いとか何か言って欲しかったなあ……」
何か言ってほしそうにこちらをチラチラと見る。毎回そうだ。弓梨は新しい服を買っては俺に見せて感想を聞いてくる。女子はそういう物なのだろうか。俺には女友達が弓梨しか居ないから分からん。
「んー。相変わらずその2つのバレーボール大きいな」
前方のバレーボールとサイズがそっくりな胸を舐めまわすようにガン見する。相変わらずデカイ。例えるならバレーボール、又はジャンボスイカだ。
「もー! いっつもそれしか言わないじゃん!」
「いや、違うことも言ってるぞ。マスクメロンとか」
「そんなに変わんないじゃん! まったく。月夜は本当に変態さんなんだから……」
うん。弓梨の言う通りだ。俺は正真正銘、変態の塊だ。いつも弓梨のおっぱいばっかり見てるし可愛いアニメキャラの際どい画像とかを、1000枚近く保存している。何を隠そう俺はド変態だ。変態万歳!!
「……なんか月夜変な事考えてない? 私の気のせいかな」
さすが幼馴染み。心で思ってる事もお見通しってか。ここまで来ると、人の心を読み取る事ができるエスパーとかかと思ってしまう。
「何を言う。俺はいつも変な事を考えている。いつも通り平常運転だ」
弓梨が呆れたような顔をするがその口元は微笑しているという感じだった。
「そーだね。いつも通りの月夜だね」
微笑していた顔が笑顔に変わる。なんだか楽しそうだ。
弓梨の笑顔はひまわりのように明るく、場を和ませる効果がある。怒っている時も、彼女の笑顔を見ると抱いていた怒りの感情が薄れる。俺はこの笑顔に何回助けられただろうか……数え切れない。
「そうですよ。いつも通りの俺ですよ。いつも通り寝不足です」
超かったるそうに失笑したような顔をして言うと、また弓梨がクスッと笑う。
「また夜更かししたの? いっつも寝不足って言ってるけど何かする事でもあるの?」
「まあ基本ラノベ読んだりしてるけど、『ヒロイン攻略』の執筆したりプロット考えたりーー」
そこまで言いかけて、途端に思い出し口を抑える。段々全身の血の気が引いてきた。
「え? 今なんて?」
マズイ。ヤバイ。
つい言っちまった!! コイツには内緒にしてたんだった!
実はライトノベル作家であるという事は弓梨には伝えていない。それにはちゃんとした理由があって、中学三年生の春に小説の新人賞に受かり、編集者の星野さんに本を出版しないか。という話になり俺は喜んでOKしたかったが、まだ子どもなのにこんな仕事できるのだろうか、と不安になり弓梨に相談したところ、生活が不安定になるから止めた方がいい、と言われ、じゃあ止める。と、つい言ってしまったのだ。
しかし、自分の書いたものが出版されると思うと衝動を抑えられず、ついOKしてしまった。その後気まずくて、弓梨に言ってないのは説明するまでもないだろう。
それから1年が経つが、まだ弓梨にはなんとかバレずに済んでいる。コイツが天然の鈍感女子だったのが救いだった。
バレたらマズイぞコレは….とりあえず誤魔化さなければ……
「あー、スマン! 寝ぼけて変な事言ってた! 昨日はちょっとゲームし過ぎてさあ!」
やや強引に焦りを隠しつつ夜更かしの理由を述べると、弓梨は少し疑うような目で俺をジーッと見つめた。
「へぇ〜。そっか」
うわぁ絶対疑ってるよ。怖ぇ……
もしライトノベル作家になったせいで寝不足になり、貧血気味になってると知れたら絶対弓梨は、今すぐ仕事を辞めろって言うだろうな……心配してくれるのは嬉しいが、俺は遂に作家になるという夢が叶ったからこの仕事を絶対に辞めたくない。
というか言われても辞めるつもりは無いが、「元々身体が弱いから仕事をするならちゃんとした生活をしろ」と親にも言われてしまっているため、あのいい加減な母親の事だ。「もう仕事辞めるって言っといたから」とかあっさり言って辞めさせられるかもしれない。
ヤバイ。考えるだけで失禁しそう。俺の作家人生は早くも危うい状況に陥っている。
「あまり夜更かししない方がいいよ?昔から貧血で倒れちゃったりした事もあったんだから」
「おう。そうだな、気をつけるようにするよ」
よし、なんとか誤魔化せた。しかし、これ確実に近い内にバレるよな……なにせ俺売れっ子作家だし。やっぱり人気だと目立っちゃうよね、うん。
「いっつも顔真っ白で今にも倒れそうって感じだったから、私と眞城也君はずっとヒヤヒヤしてたよ……」
「ハッ。眞城也が俺の事を心配する訳が無い」
「そんな事ないよ! 実は眞城也君ちゃんと貧血の対処法とかを月夜にバレないように調べてたんだよ!」
マジか、あのクソ野郎が。驚きだ。
「どうせお前にいい所でも見せようとしてんだろ」
「月夜はホントネガティブだね……もうちょっとポジティブに行こうよ! ポジティブポジティブ!」
弓梨が両手を振り上げて万歳をする。やかましい。
「俺はネガティブが好きなの」
と、たわいない話をしていたら、もう学校が見える辺りまで来ていた。話に集中してたら意外とあっという間だな……
「月夜! 学校見えるよ! ほら!」
「いや見えてるから。ってかそんなはしゃぐな。子どもか」
「ぶー。月夜冷たい」
「だろ? スーパードライだぜ」
「…………」
明らかに弓梨は聞こえていたのに、あえて無視をする。白けるとか恥ずかしいんですけど。
「やっと着いたね〜。遠く感じたよ」
学校の外見は特別綺麗でもなく、汚くも無かった。超普通だ。
俺が今いる校門から、学校の下駄箱にかけて満開で、淡いピンク色の桜の花が風に舞っていて、いかにも入学シーズンの春。という感じがした。
「あ、見て見て! クラス表あるよ! 見に行こ!」
弓梨が見ていた場所は、学校の下駄箱付近に貼ってあるクラス表だった。顔はもう今すぐ見たくてしょうがない、とうずうずしている様だった。
「ワクワクし過ぎだろ……って腕引っ張んなよ! 痛いから!」
俺は半ば強引に弓梨に腕を引っ張られながら早足でクラス表がある場所へと向かった。