18話 つぶあんはお好きですか?
|ω' ) ヌッ
トイレの扉をゆっくりと開け、立ち上がる。
電話をしている時、いつもは出さないほどの大きな声を出したせいか、若干体が重く、疲れている。
「さてと……。柊をあまり待たせちゃ悪いから戻るか」
早歩きで廊下へ出る。やはり数分前と同じく、静かである。その静けさは、もしかしたら先生も居ないんじゃないか、と思ってしまうくらいだった。
「……勢いで星野さんには喫茶店に集まるように言っちまったけど、柊は予定とか大丈夫かなぁ……。なんかこの後用事とかあったらどうしよ」
まぁその時はその時でいいか。もう色々疲れて早く帰りたいので、いい加減ながら、そう思ってしまった。
保健室のドアを開くと、柊が何か丸いものを手に持って、口に運ぼうとしていた。
「あ……」
「……何してんだお前」
状況を理解できない俺に、堂々と柊は答えた。
「何を隠そう、私の大好物、どら焼きを食べようとしてたのよ! これはそこら辺のスーパーやコンビニに売っているのとは違って、60年前から経営している隣町の和菓子屋の超レアな物よ!」
「そ、そうか……」
柊がどれだけどら焼きに愛があるのかが良く分かった。わざわざ隣町の和菓子屋に買いに行ってるってことは、相当などら焼き好きだろう。どら焼きマニアの称号を与えてやってもいいかもしれない。
「確かに美味そうだな」
柊の手にあるどら焼きは、生地がまるで満月の月の如く光っており、一般のどら焼きとは違うということが遠くから見てでも分かった。
いかにも美味しそうなどら焼きをじーっと眺めていると、柊がこちらを警戒するようにさっと手の裏に隠した。
「……?」
「こ、これは私のなんだからねっ。アンタにはあげないわよ」
「別に取ったりなんかしねえよ……俺は食いしん坊かっつうの」
きっぱりと言い切ってやると、柊は安心してどら焼きを口に運ぶ。
「ん〜、やっぱり他のとは全然違うわね……」
そう言って表した明るい表情は、彼女の可憐さを象徴するようで、男子なら声を上げるようなほどだった。
ーー口にあんこがついてなければ。
「お前って残念な奴だな……」
ため息をついて言うと、柊はむうっと頬を風船のように膨らませて、子どもみたいな顔をした。
「何がよ」
「口にあんこついてる」
「ーーはっ……」
彼女は全く気づいていなかったのか、今更になって頬を赤らめてあたふたし始め、急いで出したティッシュで口周りを吹いた。
寝ちゃってた時もよだれ垂れてたよな。見た目とは全く違って結構おっちょこちょいなんだな……
「意外とおっちょこちょいなんだな、お前」
柊が少し黙り込んだと思ったら、何事も無かったかのようにさっと顔を上げる。顔色は、さっきまで赤く染まっていたのに、今はそれと正反対のように白かった。
「今のはわざとよ」
「え?」
「今のはわざとやったのよ。たまにラノベでいるじゃない、食べ物とか口につけて『えへへー』って言ってる娘。それの真似をしただけよ」
「でも寝てた時よだれ垂らしてーー」
「わざとよ! 分かった?」
「……おう」
「ならいいわ」
柊はおっちょこちょいな上に認めずやらしい。




