14話 ミス
「い、いやぁ……まぁ……うん……はは………」
こんなに褒めてくれるのは嬉しいけど、ここまで来ると逆に言いづらい……クソゥ! 最初に言っとけば良かった! 俺は『ヒロイン攻略』の作者ですよ、って!
「どうしたのよそんなに汗かいて……や、やっぱり頭痛いの? 大丈夫?」
柊が心配そうな顔をして俺に近づく。 またもやいい匂いが鼻に入った。なんか女の子らしい匂いで、男の本能をくすぐられるような匂い。
「だ、大丈夫。大丈夫だからそんなに気にしなくていいぞ」
柊は自分のせいで俺が怪我をしたと思っているのだろう。まぁ実際コイツのせいなんだけどさ。
「そう…………ところで、また話戻すけど、アンタなんで星野さんのこととか知ってるの?」
やっぱそう来ますよねえええ!
ってか、元からその話の為に柊は俺が起きるのを待ってたんだから、そりゃ聞くよな!
「えっと……」
まぁ普通ならここで、俺『ヒロイン攻略』の作者です。貴方はそのイラスト担当になってもらいます。って言うべきなんだろうけど、信じてもらえるのだろうか。
第一、レーフさんがイラストレーターを辞めたことも知らないのに、言って理解ができるのか?
星野さんは何も教えて無いみたいだし、ここはどうする俺…………
1 ここで俺が作者ってことを伝えてしまう。
2 とりあえず星野さんと会わせて、しっかり説明してもらう。
3 逃げる。
3は完全に今自分がそうしたいという希望であるため、却下。
そうすると、1か2になる。
…………2だな。これが1番安全でいい。2にしよう。
「その前に、ちょっとトイレ行きたいから、行ってきていいか? もう出そうなんだ」
とりあえず携帯で星野さんに連絡しよう。
「…………勝手にして」
柊は俺におしがま(おしっこがまん)をさせる権利は無い。簡単に許可してくれた。
「じゃあ行ってくーー」
そこで俺は自分が重大なミスを犯したことに気がついた。致命的なミスだ。
なぜ、俺は言う前に気がつかなかったんだ。
携帯がヤツの後ろの椅子のバッグの中にあるということが!
「どうしたの?」
呆然と立ち尽くしている俺を見て、柊が不審がる。
「いや、なんでもない」
落ち着け俺。バレないようにバッグを取り、さり気なく保健室から出てトイレに行けばいい話じゃないか! 別に特段難しいミッションではないだろう! 気配を消すのは得意分野だろ俺!
廊下へ出る扉の近くのバッグを見る。距離としては遠くない。ヤツがよそ見をしている内に取れば大丈夫なはずだ。
柊を横目でチラリと、見る。どうやら携帯でなにかのサイトを見ているようだ。
よし、今だ! 今なら行ける! うおおおおおおおおお!
足音を小さくして、息を殺してバッグに近づきーー手に取った。
よっしゃあ! ミッション成功だ! よく頑張った俺! 帰ったらご褒美として自分にラノベを買ってやろう!
なんかこの数秒で凄い体力を消耗した気がする……疲れた。さっさと済ませよう。
そう思い、足を一歩踏み出した時だった。
俺は油断し、足をバッグが置いてあった椅子に絡ませ、豪快にこけた。