修羅の国
「……なんというか、聞きしに勝る感じの国ですね……」
クレインが取り仕切る「自由商会」の商人としてスロヴェラートを通過中、リアラがふと呟いた。
一見すると何の変哲もないように見えるが、その実ただの通りでさえ虎視眈々と相手の隙を窺う殺意や略奪の欲が渦巻いている。
噂で聞いていた通りに戦争の只中のような国ではなく、普通という仮面の下に狂気が息づく様が寧ろその異様さを漂わせていた。
「どこもかしかも血の匂いが残ってるれすからね~。国自体が戦場と言っても過言じゃ無いみたいれす」
「とは言っても、皆それを自ら望んでいるか罰として課せられている人間だからね。自由騎士団としても態度を決め難いんだ」
「まあ、不干渉原則が唯一の救いではあるがな」
『不干渉?』
緊張しているのか、氷文字でティルナが疑問を表す。
「この国はヤバいからな。一歩間違えりゃベルクリッズなり自由騎士団なり、下手したら西の三大国さえ潰しに動きかねないんだ。それに対してこの国が掲げてるのが不干渉原則って訳だ。っと……へい、らっしゃい」
客に値引きを持ち掛けられたクレスに代わり、クレインが説明を引き継ぐ。
「この原則は二つ。国内での争いに国外の者の手を借りないこと。そして、国民が出国しないことだ。商人が意外と活発に通ってはいるが、それ以外でこの国における人の流れはほぼゼロだね」
『理解した』
「あ! あそこのひ……ムグ!?」
「見るな気付くな近づくな。関わっちまえば『商人』じゃいられなくなる」
まさに闇討ちを仕掛けようとしている男に気付いたリアラの口と目を塞ぎ、歩調を速めるクレス。
響く悲鳴と怒声から逃げるように遠ざかってからリアラを解放する。
「悪いな。あれが普通の反応だとは思うが、危険だったんで少し強引に行かせてもらった」
『どういうこと?』
人死にに見て見ぬ振りをするようなクレスの態度を疑問に思ったティルナが氷文字を浮かべる。
ティルナの知るクレスなら、独善だと分かっていてもとりあえず介入したはずだ。
「この国が外に対して不干渉であるように、商人もこの国の中のことに対しちゃ不干渉を要求されるからな。あそこでリアラの反応が襲われる誰かに敵のことを気付かせてれば、俺たちも商人じゃなく国民扱いにされる危険があった」
『どうかしてる』
「そうだな。長居するような国じゃない」
話している間にも、建物を挟んだ向こう側では怒声と剣戟の音が響いていた。




