混乱
「ッ、『灼雷閃』!」
収束する鎖を前にクレスは強引にジェスの剣を振り払い抜刀する。
なんであれ斬り裂くはずの一撃は、しかし魔力を急激に奪われる感覚と同時に防がれた。
もうクレスに鎖を破る手は残されていない。性質上相性が最悪に近い二刀を鞘に納め、突き出した足をつかえさせて鎖の収束を強引に妨げる。
……すぐに、「蒼神」一の相棒である「蒼月」が反応した。
「クレス! ――戒めの檻を疾く解き放つ! 『暴食の牙』ッ!」
放たれた矢は、リアラでも視認できる程度の速度だった。
この矢の本質は速さではない。周囲の魔法から物質まで、何であろうと引き寄せ取り込む強大な引力を放つ暴食の一矢。
脇にジェスを抱えたクレスが引力を利用し、矢に掴まる形で鎖から逃れる。
直後、それまでクレスがいた地点を中心に、墨色のガスが間欠泉の如く吹き上がった。
やがてガスが収まった時そこに立っていたのは、三メートルはあろうかという巨大な兎。くすんだ色の表皮の上では、まるで映像を投影したかのように赤い斑模様が動き回っていた。
――だが、それよりも。
「あ~、やっちゃいまひたか……」
状況を察し、空気が凍り付く。その中、ナベリウスが僅かに焦燥の滲む声で呟いた。
クレスの身体をジェスの剣が貫いている光景が、そこにあった。
「俺は平気だ、急所は外した!」
流石にあの状況でジェスの剣を躱すことは不可能だったが、身を捻ってどうにか主要な臓器や血管は庇えた。
クレスは自分に刺さった剣はそのままに、二刀を抜き放って兎の妖魔に斬りかかろうとする。
「クレス、ストップ!」
その様子を見て、マリスが息を吹き返した。
「『百舌狩』!」
百以上に分裂した魔法矢が妖魔に降り注ぐ。
驚異的な機動で対処する兎に決定打とはなり得ないが、その間に即席ながら指揮を執る。
「後衛はボクがやる! ナベっちは前衛を、ティルナはクレスの援護をお願い! リアラは私の後ろに!」
「らじゃれす~」
「……任せて」
「わ、分かりました!」
こうして、妖魔との戦いが始まった。
灼雷閃の切れ味の秘密は魔力ですから、墨色勢の前だと技自体が潰されてしまうんです。。




