「解獄戮界」
(まだ足りない、か……)
力を使い果たした様子のマリスとエレンを視界に捉えつつ、焔の様子を確認したクレインは内心で呟く。
二つの爆発は収まろうとしているが、焔は未だ圧倒的なまでの力を保っている。
(だが……)
「底は見えた……!」
一帯の空間は先に唱えた穢征域の効果によって霊魂に掌握されている。
それを以てしても計測不可能であった最初と比べ、二度の爆発を受けた今の焔はどうにか全貌を把握できる程度にまで衰えている。
まずは霊魂でマリスとエレン、クレスを自分の背後まで運ぶ。
クレインの唇が何かに怯えるように小さく震え、詠唱を紡ぎだす。
「――禁忌の門を招こう」
声に応えるように、場を満たしていた霊魂が結界となって焔を包み込む。
「私と同朋の怨嗟をここに。幾千幾万の罪と屍によって、交わらざる双界を結ぶ」
満身創痍のクレスら三人でさえ、この上なく不吉で危うい何かを感じて身を強張らせる。
最後の詠唱は、ともすれば聞き逃しかねないほど小さく零れ落ちた。
「――『解獄戮界』」
結界は内側を漆黒で隔て、外から様子を窺い知ることは不可能であるはずだった。
が、結界から迸る呻きと絶叫と思念は確かにその場にいた全員の魂を締め付け、僅かに残っていた焔獣たちも自ら崩壊していく。
時間の感覚を失った彼らにはどれほどの時間が過ぎたのか分からなかったが、結界がこの世界に留まる限界を迎えたかのように揺らいだ。
霧が晴れるように結界が消えた後の地面は鏡のように不自然すぎるほど滑らかな表面を晒している。
「しまったな……」
「……クレインさん?」
妙な違和感を感じたクレスはクレインに問いかける。
クレインの目の端から涙が頬を伝った。
「……思い出せないんだ。村の皆も、家族の顔も、全部! 私だけは、覚えていないといけなかったのに! みんなが居たことを、奪われた恨みを――! 私は……っ!」
声は悲痛さを帯びて叫びとなり、クレインは俯いて肩を震わせる。
クレスは小さく息を吸い込むと口を開いた。
「私が覚えています。……私は貴女の村の、家族の方々を直接には知りません。でも、確かに約束しました。貴女の復讐を継ぐと」
「…………」
顔を上げたクレインの泣き濡れた瞳を正面から見つめ、はっきりと告げる。
「だから私は、彼らの存在も決して忘れません。貴女がどれだけ彼らを想っていたのかも。――たとえ何があろうと」
「……すまない」
クレインの声は、先ほどとは違う悲痛さを含んでいた。
「復讐なんて、君に押し付けて良いものじゃないのは分かっているんだ。そんなもの、今すぐに捨て去るべきだと。でも……君に、そんなこと忘れてくれて構わないなんて、言えない――! 本当に、すまない……!」
「…………」
クレスは、また俯いたクレインの背におずおずと手を回す。
これまでどこか遠くに感じてきた背中は、意外なほどに小さかった。
二人の世界^^;




