面会
魔法を使った模擬戦から一時間ほど後のこと。
「マリス殿、ホルス殿。お入りください」
「「失礼します」」
部屋に入ったクレスたちを出迎えたのは、四十代半ばの男性。十字騎士団総団長、ジグ・メンティロッソ。十数年に渡り双頭竜を始めとする賊たちを相手取ってきた、歴戦の将である。室内には領主であるアイザック・パグルの姿もある。
「して、今回はどのような用件で参られたのかな?」
「この間、ご指名でここに向かう途中のことだったんだけど」
いつも通りの口調で話し始めるマリスに、ジグとアイザックの両名が怪訝そうな表情になる。
クレスはマリスを制して口を開いた。
「単刀直入に申し上げます。先日この者が双頭竜と三番隊長グレゴが密会しているのを目撃しました。証拠はその証言だけなのですが……少し、監視の強化を要請したく思います」
内容が内容だけに、二人とも大きな衝撃を受けたようだった。
おそらくマリスの言葉遣いなど意識から消え去っているだろう。
「そうか……俄には信じがたい話だが……分かった、しばらくグレゴには監視の目をつけることにしよう。また、騎士団内でも調査を進めることを約束する」
迷いの残る様子ながらジグはそう答えた。だが、騎士が約束を口にした以上は心配いらないだろう。クレスはマリスを領主に向き直らせる。
「それで、領主殿にご同席をお願いした理由ですが……明日からの祭りでの依頼について、詳細を伺いたいのですが」
「おお、そうだったな。マリス殿には後日連絡するつもりでいたが……祭りでは狩猟イベントでゲストの一人を担当して頂きたい。町の一区画を閉鎖し、そこに放った魔物を狩って成績を競うものだ。詳しくはこの地図を見てほしい」
そう言って、棚から取り出した地図をマリスに手渡すアイザック。
「うん、確かに受け取っ――」
「では、私たちはこれで……」
「うむ」
クレスはマリスの手を引っ張ると部屋を後にした。
「なんか、ボクの面会なのにクレスが喋ってばっかりだったよねー」
「……誰のせいだと思ってるんですか」
クレスは額に手を当てて嘆息する。
「貴女は敬語も知らないんですか。普通ああいうところでは敬語を使わないと不興を買うものなんですよ」
「それくらい知ってるよ……。いやー、敬語ってなんか苦手で」
「世渡りには必須の技術ですよ……」
「おや、君たちは?」
本部を出ようとしたところで、クレスたちはエレンとすれ違った。
「ああ、やっぱりホルスにマリスか……そういえばホルスってなんか偽名くさいな」
「いきなり人の名前に喧嘩売るのはやめてください。それより、何か用ですか?」
「いや、何となくそんな気がしただけなんだけどさ」
そう言うと、エレンはクレスの耳元に口を寄せた。
「――!」
カチンと音を立てて固まるクレス。仄かな香水の香りが鼻腔を刺激する。
「どうも、あの領主と総団長は信用できない。君たちも気をつけて」
そう言うとエレンは身を翻した。今度はマリスが固まったままのクレスを宿まで引きずっていく。
「どうしたのさ、一体!」
「いえ、私にもよく分からないのですが……」
ふーん、とジト目でクレスを眺めるマリス。
「それにしても、あの人って良いカラダしてるよねー。なんか憧れちゃうなぁ」
「全く、その見境の無さは……せめて外面くらいは繕う努力をしてください」
「違うからね!? 別に変な意味じゃないから、妙な誤解はやめてくれるかな!」
涙目で主張するマリスだった。
エレンの勘はかなり鋭いです




