悪夢
過去編いきまーす。
炎上するよく知った街並みを、息を切らしながらリアラは走っていた。
時折燃え落ちた家屋が雪崩れ落ち、華奢な身体を地に転がす。
飛び回る妖魔の爪が、少し前を走っていた人の首を飛ばす。
必死に逃げ続けるうち、いつしかリアラは街を出ていた。後ろで響く生々しい音に思わず振り返る。
橋に立ち塞がる一つの影を爪が切り裂き、牙が抉り、触手が貫き通していた。
ひっ、とリアラの喉に悲鳴が絡まる。
その人影が振り向き、折れた薙刀を持った右手をこちらに伸ばした瞬間、首がごろりと転がった。
屍を踏み越え、最後の障害を排除した妖魔たちがリアラに殺到する――。
「いや……ああああああああっ……!」
今度こそ、リアラは絶叫した。
「――――ッ!」
リアラは目を見開くと、毛布を跳ね除けた。
辺りを見回すが、そこはテントの中だった。周りではクレスたちが各々の寝具に包まって寝ている。
目を閉じた瞬間に先程の光景がフラッシュバックし、自分の身体を掻き抱く。
悪夢。そう頭では理解していても、もう一度眠ってその光景と向き合うことを、精神が拒んでいる。
ふと、安らかな寝顔のナベリウスが目に入った。
その寝具に恐る恐る近づく。
「んにゃ、どうしまひた?」
当然のように起きていたナベリウスに声を掛けられ、驚きに固まるリアラ。
彼女もまた一流の戦士である以上、寝ていても周囲の異変には敏感だ。
「悪い夢を見てしまって……すいません、一緒に寝かせて頂けますか?」
「大胆な人れすね~……」
どういう意味か、と訝りながらもリアラは横になる。
目を閉じるやいなや、いきなりナベリウスに抱きつかれた。
「きゃうっ!?」
回された手は明らかにリアラの胸を鷲掴みにしている。
たまらず悲鳴を上げるリアラ。
「な、何をするんです!?」
「あれ、夜這いじゃなかったんれすか?」
「よ、夜這……! 誰がそんなこと! あれは言葉どおりの意味です!」
「それは失礼しまひた」
「全くです!!」
ずざざっ、と全速力でナベリウスから距離を取るリアラ。その身体が何かに当たった。
「……どうした?」
クレスだった。
(……どうする?)
リアラの思考がフル稼働する。
(ナベさんはもうアウトだしティルナさんには一発で断られそうでもクレスさん男だしあれなんか意外にいけそう?)
脳裏を過ぎるのは、ナベリウスにからかわれたり絡まれたりして赤面するクレスの姿。感情を視てもパニック一色で、邪な感情を抱いている余地など全く無かった事を思い出す。
「その、悪い夢を見てしまって……一緒に寝ても宜しいでしょうか?」
ゴォッ!
背を向けたままのティルナから、凄まじい殺気が放たれた。
濃密な死の予感に自ら提案を取り下げようとしたリアラだったが、クレスの返事の方が早かった。
「ああ、分かった」
やけに得心顔のクレスが土壇場で少し不安になり、リアラは先に念を押す。
「べ、別に夜這いとかじゃないんで、本当に! 絶対に違いますから!」
「!」
一瞬でクレスの顔が真っ赤になる。
成る程、もしそんな事態になれば自分が再び朝日を拝むことはないだろう。
……とはいえ今更断る訳にもいかず、確認に留める。
「あ、ああ。絶対……だな?」
「(フ ラ グ か ?)」
もう殺気という言葉さえ生温いほどの敵意がリアラを突き刺す。
必死の思いで目を瞑り、リアラはクレスの寝具に潜り込んだ。




