自責
その後自らの傷の治療を済ませて部屋を出たクレスは、同じく部屋を出たティルナたちと合流。一度部屋に戻って荷物をまとめ、宿を出る。
「あの、代金は……」
言いかけたリアラをナベリウスが遮る。その声に滲むのは僅かな苛立ち。
「おめでたい人れすねぇ。あの騒ぎの中誰も駆けつけてこなかったのに気づかなかったんれすか?」
「それって、つまり……」
「宿にいた人は消されてるれしょうねぇ。あと、下手したら辺りの人も……」
相変わらずの巫山戯た口調で告げられた内容を理解し、リアラが顔を青ざめさせる。
「……まあ、そう悲観したものでもないさ。あいつらからは血の臭いがしなかった」
ただでさえ戦闘の直後だというのに、こんな話はリアラにはキツいだろう。
クレスは遮って、カウンターに代金を乗せた。
ナベリウスが無言でこちらに向けた視線に小さく頭を振る。
「そういえばナベリウス、あいつらの武器には毒が塗ってあったんだが、大丈夫か?」
ナベリウスの小さな傷を目にしたクレスが問うと、「生命力は高いんれす」という返事があった。
怨霊が使う毒は即効性で、数分としないうちに身体が動かなくなる。
現在ナベリウスには特に異常も見られないし、本人が言うなら大丈夫だろう。そう考えたクレスは「お大事に」と言うに留めた。
夜明けを待って、一行は町を発った。
「リャーさん元気ないねぃ」
門を出て少し歩いた所で、ナベリウスがリアラに絡み始める。
「おい、今は……」
止めておけ、と言おうとしたクレスを視線で遮り、ナベリウスは言葉を続けた。
「殺される覚悟も無しに人様を殺そうだなんて虫の良い話はないんれす。これはわらし達の実力を見誤ったあいつらの自業自得れ」
「……違うんです!」
「?」
「私に原因がある戦いなのに、私だけ何も出来ないし、何も分かっていない! それがナベさんを怒らせたのも、皆さんに重荷を背負わせているのも視えるだけで、その上気まで遣わせて、今だって一人で勝手に喚いて! 私はっ……!」
それ以上は言えなかった。自分への怒りを勝手にぶちまけて、更に言葉を重ねればきっと言ってはいけないことまで言ってしまう。
「視える? それって……」
その考え方はリアラ自身を苦しめるものだ。が、激情に駆られたリアラにそれを説いても徒労に終わるのは見えている。
せめて静まり返った雰囲気を少しでも変えようと、ナベリウスは言葉の端に食いついた。
「そういえばナベリウスは知らなかったな。リアラは人の感情を『視る』ことができるんだ。文字通りの意味で」
「あ、そうなんれすか」
ナベリウスの一手は一瞬で断ち切られた。代わって口を開いたのはクレス。
「これでリアラの負担が減るかどうかは分からねぇが、一つだけ言っておきたいことがある。俺は今回みたいなことも十分予想はしてた。織り込み済みで受けた依頼だ、アンタが一人で責任を感じることはない」
一息に続けた後、それに、と付け加える。
「アンタが責任感じて落ち込んでたらさ、俺も結構ヘコむぜ? 負担かけちまったなって。これでも俺は、アンタ――リアラのこと気に入ってるんだから」
「えっ!?」
「……ッ!!!」
特に深い意味はなかったクレスだが、最後の一言にリアラが顔を紅潮させ、ティルナが対照的にサッと青ざめる。その反応を見たナベリウスも、少し表情を緩ませてクレスを肘でつつく。
「兄さんもなかなかやるね~」
「よしてくれ、兄なんてガラじゃない」
「あれ、ポイントそこれすか」
どうにか調子を取り戻し、一行はさらに進む。
この程度のやり取りで(表面上は)復調するのが若さってものです。




