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◇
――翌日。
「うわ、なんかめっちゃ通知来てるんだけど……」
スマホを手に取る間にもピコンピコンと通知音が鳴り止まない。
寝る前にも、俺の切り抜きがバズっていた。
でも……通知の数がおかしい。
昨日見た時とは、文字通り――桁が違う。
「……なんだこれ」
画面を開くと、見覚えのない名前ばかり。
しかも……クソ、勝手に自動翻訳されてて読みにくいな。
……知らない国の名前ばっかりだ。
これ、本当に全部……俺に来てるのか?
えっと……なんでだ?
……少しだけ迷ってから、一番上に表示されている通知をタップする。
すると、俺の切り抜きを引用したツブヤイターのページが表示された。
――気付いた時には、切り抜き動画が再生されていた。
『――――♪』
………………。
スマホの中で、月見里マホロが歌っている。
俺がこの世界を知るきっかけにもなった、ゆらママの曲を。
「これが……俺の、声?」
月見里マホロは自分だ。
これが俺の声なのも、分かってる。
……分かってる、はずなのに。
・マジで歌声神すぎる
・この子知らないんだけど、プロ?
・『彼女の歌、凄く響くよ、心に』
・感情表現が異次元すぎる
・何度もループしちゃうわ
そんなコメントが目に入った。
……評価、高すぎじゃないか?
ほとんど歌ったことのない、素人の歌だぞ?
「……わけわかんねぇ」
そう呟いた俺の口元は、気付かないうちに――うっすらと微笑んでいた。
◇
通知の波が、ようやく落ち着きかけた頃だった。
『今から、話せませんか?』
しえるからのメッセージが届いていた。
今日は配信の予定もなかった。
だから、気付いてすぐにOKを返したのだが――
――通話を繋いだ瞬間。
なぜかしえるが、(画面の向こうで)土下座していた。
「あのー、しえるさん?」
「し、しえる……と、呼び捨てで……」
「……わかったよ、しえる」
リアルで女性を呼び捨てする日が来るとは……。
『マホロ』として呼ぶのと、リアルで呼ぶのとじゃ……難易度が違うんだが。
「不用意に通話を受けた俺が言う事じゃないだろうけど……良かったのか? 顔を見せても」
今はビデオ通話――お互いの顔が見えている。
……しえるとしてはそんなつもりは全くなかったらしい。
顔を見てしまったことを、ひたすら謝られている状況だ。
俺としては、別に気にしてないんだが……。
「お姉ちゃん……しゃ、社長から……『マホロの中身は秘密だよ?』って……言われてたので……」
なるほど、ゆら先輩が企業秘密にしたのもあって、『知ってしまった罪悪感』があるのか。
その気持ちはちょっとわかる気がする……。
……ゆらママのリアルを知ってしまって、前みたいには楽しめなくなったから。
……とはいえ、そのおかげでマホロとして活動できるようになったわけだし、悪いことだけじゃない。
「そういえば、社長ってしえるのお姉さんなのか?」
「は、はい……わたし、配信でも言ったと、思うんですけど……人と喋るのが……得意じゃ、なくて……」
「あぁ」
「それで……お仕事も、上手くいかなくて……お家に、引きこもって……」
……気持ちが全部わかる、とは言えないが。
俺にも同じような経験があるから、少しはわかる。
……それを語るのは今じゃない。
今は、しえるの話をしっかり聞いてあげよう。
「ひ、人と顔を合わせなければ……大丈夫かなって……」
「それで……VTuberに?」
「はい……け、決して……お菓子に釣られたわけじゃ……ないです……よ?」
「……本音は?」
「は、半分……くらい?」
「素直でよろしい」
「え、えへへ……やっぱり……優しい、です」
うん……かわいい。
……これがタマの言ってた『守ってあげたくなる』ってことか。
「……あの……」
「ん?」
「い、いえ……その……あの歌、なんですけど……」
しえるは少しだけ、視線を揺らして――
「……どうしても、ちゃんと……伝えたくて……」
「歌……あぁ、コラボで俺が歌ったやつ?」
「はい……あの歌は……わたしにとって、凄く……思い入れのある、歌で……」
俺が歌った、ゆらママのオリジナル曲だ。
あの曲は簡単に言うと『辛い出来事を越えた先には希望がある』、そんな曲だ。
俺もあの曲には何度も救われてきた。
……だから、その気持ちはわかる。
「何度も、励ましてもらって……あの子みたいだって……わ、わたしが勝手に……思ってるだけ、なんですけど……」
「あの子……コラボの時に話してた子?」
「……はい」
そう言ってこちらを見つめるしえるの目が――
なぜか、懐かしいような……そんな気がした。
「……言いたいことがあっても、言葉が……出て、こなくて……考えてる……間に、次の話題に……なってたりして……」
「だからわたし……いつも、みんなから……置いて、いかれて……」
「でも、その子と出会ってからは……わたしを、待っててくれる……ように、なって……」
「その子は……それから……引っ越してしまって……」
しえるの話を聞いていると、昔のことを少しだけ思い出した。
……昔のことなんて、正直あまり覚えていない。
思い出そうとすると、どうしても――声のことで、嫌な記憶ばかり出てくるから。
「そうだったのか……その後、その子と連絡は?」
「実は……お互いの名字も、知らなくて……」
「ありゃま……」
「で、でも……今は……その、ゆら先輩の歌とか……マホロさんが、いるので……」
――もう、大丈夫です。
しえるは……はっきりと。
迷いのない声で、そう言った。




