プロローグ
4章開幕です。
1周年という大きな節目に彼らがどんな選択をするのか、どうぞお楽しみください。
◇
もうすぐ俺たち2期生が1周年ということで、何をするか相談中。
「他の人は1周年記念って何やってるんだ?」
『箱にもよりけりだけど……3Dお披露目、逆凸、歌枠……普段通り雑談だけしてるって人もいるね』
「ゆら先輩は何したんです?」
『マホロくん、敬語』
「……何したんだ?」
『えーっと、まだソロだった時は普通に雑談配信して――』
『ダウトにゃ』
『え?』
ゆら先輩が何か言い始めると、タマがそれを咎めた。
『あちしはちゃんと調べたにゃ……『24時間ルームランナーで走りながら雑談』だったにゃ』
『あれ、そうだったっけ……?』
「ソロ1年目ですよね……?」
『うん!』
「なんでそんなことを?」
『なんでだろ……タマちゃんわかる?』
『あちしに聞かれても困るにゃ』
というかこの人その頃から体力お化けなのか……。
「あー……じゃあAPに来てからは?」
『あ! それならちゃんと覚えてるよ? マシュマロ食べながら雑談――』
『ダウトにゃ』
『またぁ!? いやいやタマちゃん、今回は絶対間違えてないよ!?』
『にゃ、『マシュマロ食べながら雑談』は間違ってないにゃ』
『だ、だよね?』
『……物理的にマシュマロ食べてたにゃ』
……はい?
『1個質問に答えるごとに、1個マシュマロ食べてたにゃ』
「……えぇ」
『えー? だってアタシちゃんとタイトルに『マシュマロ食べながら雑談』って書いたもん! 嘘じゃないもん!』
「嘘じゃないけどさぁ……」
Vの言うマシュマロって、普通は質問を投げつけるやつであって、お菓子のほうじゃないだろ……。
なんで物理的に食ってるんだよ。
「そもそもその大量のマシュマロはどこから……」
『え? 社長がくれたよ?』
「何やってんだあの社長」
『…………………………』
「しえる? 今何を隠した?」
『な、何も……?』
「もごもご聞こえるんだが?」
『……ごくんっ』
「証拠隠滅するな」
もしかしてあの社長、定期的にお菓子の差し入れでもしてるのか……?
俺は貰ったことないけど……ん?
「……そういや俺も、この前肉を貰ったような……」
『あちしも高級そうなサバ缶貰ったにゃ』
「は?」
『みんなお菓子なのになんで? って聞いたら『だって猫だし』って』
「……どんまい?」
『フシャーッ!』
まぁよく考えたらゆら先輩のそれは1周年記念の話だろうから、今は違うか。
『……ぱりぱり』
「……今せんべいみたいなの食べたの誰だ?」
『アタシだよー、昨日社長に貰ったの思い出してさー……骨せんべい』
「あの人漁港でも行ったの?」
『多分明日あたりマホロくんにもなんかくれるよ?』
「いや、いらな……いことはないけども」
あの肉は美味しかったけども。
『……もぐ』
「しえるさん今度は何を食べてるのかなぁ?」
『……アーモンドフィッシュ、です』
「……魚繋がりで?」
『……もぐ』
「……美味いか?」
『はい……』
というか、それは常備してるものなのか……?
『普段は……流石に、ないです、よ?』
「あ、それも社長の差し入れなのね……」
『とっても美味しい、です……』
「良かったな……」
やっぱ漁港行ったのか……?
『いつまで魚の話してるにゃ?』
「魚で始めたのはお前だわ」
『にゃ?』
すっとぼけるタマに呆れつつも、本題に戻すことには賛成だ。
……その後もしばらく、会議という名の雑談会は続くのだった……。
◇
【朝活】そろそろ1周年らしいのじゃ【AP・月見里マホロ】
「おはこんマホロ~! アナザーパンデミック2期生、福を呼ぶかもしれないし、祟るかもしれない座敷わらし系VTuber『月見里マホロ』なのじゃ!」
・キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
・おはようマホロちゃん
・『おはようマホロ、みんなもおはよう』
・海外ニキはおはようじゃないんじゃ?
・でもおはよう!
・みんなと同じ挨拶がしたいってことやろ
「そういえば……『海外ニキは時間が違う』とは思ってるけど、実際どれくらいズレてんの? ちなみに今は朝の8時ね」
・たしかに
・国によっても違うし、なんとも言えないんじゃ?
・『シンガポールは朝の7時だね』
・『ロンドンはちょうど0時』
・『ホノルルは13時だよ、そっちより1日遅いね』
・めっちゃズレてるゥ!
・一概に『海外ニキだから』で括れないんやなぁ
・ごめんやで
・『ノープロブレム』
「色んな国の人が見に来てくれているのをあらためて感じて、なんか感慨深いのじゃ……」
・マホロちゃん……
・あれ、目から汗が……
・朝から泣かせに来る鬼畜
・この鬼!
・座敷わらしだよ
・この座敷わらし!
「はいはい座敷わらしじゃよー……今この瞬間昼飯を食ってるやつもいれば、寝ようとしてる人もいるんじゃな」
・オレらは出勤準備やで
・電車の中やで
・『ボクも電車だよ、帰宅中だけど』
・じゅぎょうちゅうです
・ちゃんと受けろw
・待って? 今の日本語じゃない?
・あれ? そうじゃん?
・がんばってにほんごおぼえたよ
・海外ニキが日本語喋ってる!?
「は? え? マジで?」
・のじゃロリが死んだ
・いやこれはしゃーない
・あさかつ? をみてたらおぼえたよ
「――」
・マホロちゃん?
・あれ、画面止まった?
・いや、マホロちゃんがフリーズしてる
・座敷わらし、フリーズ中
・刺さっちゃったかー
・オレでも刺さるわこんなん……
「そうか……そうかぁ、朝活を見て覚えたかぁ……」
・ほんやくでもたのしいけど、みんながなにはなしてるか、ちゃんとしりたかったから
・やめてくれ海外ニキ、それは泣く
・なんだよもー、今から出勤だって言ってんのに……
・前が見えねぇ……
「……ありがとう、わしの――俺の配信を、そこまで楽しんでくれて」
今まで俺は、『海外ニキ』の存在を……知ったつもりになっていたみたいだ。
『海外ニキ』って言葉でひと括りにしていたけど、当たり前だ。
海の向こうにも、俺たちと同じように笑って、悩んで、生きている人がいる。
それでも、海外から『俺を』見てくれてる人がいるってことがどういうことなのか……。
理解してなかったんだと思う。
「俺のやってきたことが間違いじゃなかったって……信じられる気がする」
・マホロちゃんの朝活見るために生活態度がまともになったぜ
・わかる、早寝早起きするようになった
・最近はちゃんと起きられてえらいって言われるようになったよ
・起きられて偉い
・それは偉い
「それは……本当に偉いのじゃ」
・お?
・マホロちゃん?
「朝早く起きる……言葉にすれば簡単だけど、今までできなかったことができるようになるって、凄いことだよ」
特に、生活習慣に関しては……本当に。
「あ、言っとくが……それで無理してるようなら全然えらくないからな?」
・おまいう
・だからこその重みよ
・大丈夫、むしろ今までより健康的な気がする
・まぁ今までがどうだったのか知らんけど、そりゃな
・毎日深夜の◯時まで~とか起きてたよ
・……人のことは言えねぇなぁ
「……みんなも知っとるじゃろうが、わしは『自分が頑張ればなんとかなる』と思っておったんじゃ……それが、周りの人をどれだけ傷つけるかも知らずにな」
『余裕が足りないのさ、常に必死なだけの人間は、周りにも悪い影響を与えるものさ』
……入院した時、院長に言われた言葉。
あれは効いたなぁ……本当に、頭が上がらない。
「だからみんなも……辛いことがあれば吐き出して良い、周囲に言えぬならここで言えばいい……わしも、月民たちも……それを馬鹿にするやつはおらんからな」
・マホロちゃん生きててくれてよかったよ
・内容による
・それはそう
・こら、今はふざけるターンじゃないぞ
・ごめんなさい
・謝れてえらい
結局、いつもの流れに戻るのか。
……そうだな、湿っぽいのは俺の――『月見里マホロ』の配信らしくないよな。
・ところでマホロちゃん朝ごはんなに食べた?
・あっ
・あーあ、聞いちゃうのか
・というか今聞くタイミングだった?
「わしか……今日はまだ何も食っとらんな」
・は?
・おいおいおい
・話変わってきたな?
・配信準備にかまけて食事を抜くのよくないと思います
・[波亭しえる]こうなったら私が
・[猫野タマ]しえるちゃんステイ
・ふたりもよーみとる
・しえるちゃんが通い妻……ってこと!?
・[獅童ゆら]アタシもいりゅお
・ゆらママはちゃんと寝て?
・これでもちゃんと寝てるんだよなぁ
「いやいや、『まだ』って言ったじゃろ……終わったら食うわ」
・昨日も聞いた
・一昨日も聞いた
・これに関して君の信用度はゼロです
・なに食べたか写真撮ってSNSにあげるとか?
・それだ!
・ちゃんとスタッフさんに許可取ってな?
「なんでわしの飯の写真なんぞ見せにゃならんのじゃ……」
・ほら、マホロちゃんがちゃんとご飯食べてるってわかればオレら笑顔になるよ?
・それな
・たしかに
・ね?
「ね? じゃないが?」
・そんな、酷い……
・オレらの笑顔が欲しくないと?
・あの時語ってくれた夢は嘘だったんだ……
・ぴえん……
……こうして、1周年を前にした……いつもの日常が始まるのだった。




