回想、案件後2
◇
「おやまぁ、マホロくん、ずいぶんと肌が綺麗になったねぇ!」
……そう声を掛けてきたのは、事務所の受付のおばちゃんこと『田中さん』だ。
「田中さん、おはようございます……変わりましたかね?」
「はいおはよう、以前と比べたら月とスッポンだね!」
「そこまでですか……?」
正直ピンとは来てないんだよな……いや、なんとなく変わった気はするんだけど。
元々見た目にそこまで気を使うほうではなかったので、いまいちわからない。
……身だしなみなんて最低限整えてればいいだろって思ってたし。
「急にどうしたんだい、コレでも出来たかい?」
そう言って小指を立てる田中さん。
「そんなわけないじゃないですか、俺なんかに彼女なんていませんよ」
「……そうかい? こうやってアタシみたいなただの受付のおばちゃんとも気さくに話してくれるし、気遣いだって忘れないし……モテそうだけどねぇ?」
「ははは……とりあえず、肌が綺麗になったなら例の案件のおかげですよ」
「あぁビューティーメンズね! 配信見たよ! ……切り抜きで悪いけどね」
そう言って田中さんは少し申し訳なさそうにしている。
……どうやら切り抜きしか見ていないことを気にしているらしい。
「全然ですよ、切り抜きだって立派なコンテンツですし……ライブ配信以外はダメなんて言ったら人が寄り付かなくなりますよ」
……以前SNSに『ライブ配信全部見てないやつはファンじゃない』みたいな思想の人がいたが。
そんなこと言ったらゆら先輩とか一生ファン出来ないんじゃないか?
24時間フィットネス配信、全部見るの? って話になってしまう。
……無理だろ。
「そう言ってくれるとありがたいねぇ……アタシだって事務所に務める人間のひとりだからさ、せめてウチの子たちくらいはちゃんと応援してあげたいんだよ」
「こちらこそ、そう思ってくれてるだけで十分励みになりますよ!」
それに……。
「ウチの子って言ってもらえて、凄く……凄く、嬉しいです」
「マホロくん……」
ちゃんと俺もこの事務所の一員なんだって、そう実感できる気がするから。
……リスナーやメンバー、社長が言うことも信じていないわけじゃないけど。
こうして、少し外から見てくれている人たちにもちゃんとそう思ってもらえてることが。
……何よりの自信に繋がってる気がするんだ。
◆
……ちなみにその様子を影から見ていたガチ勢さんは——。
(マホロさん……!)
(私がいくらでもウチの子って言いますよ!)
(任せてください、親友ですから……!)
……そうじゃない。
◇
……なんか、最近しえるの様子がおかしい。
ことあるごとに『ウチの子が~』って言ってくるんだが……。
俺は知らないけど、しえるってペットとか飼ってたっけ……?
◆
(……おかしい、何度もウチの子って言ってるのに、マホロさんが喜んでくれない)
(…………………………もしかして、私が言ってもダメ?)
(田中さんにお願いすれば……なんかそれも違う気がするし)
(うぅ~! どうすればいいの~!?)
……そうじゃないんだよ、しえる。
◇
「……なぁタマ、俺しえるに何かしたかな……」
『にゃ?』
「なんか最近ずっと様子がおかしくて……」
『あぁ……ウチの子発言?』
「それ! なんでか知らないけど、ウチの子って言うと俺が喜ぶ? みたいな勘違いがしえるの中で起きてるみたいで……」
いつまで経っても理由がわからないから社長に尋ねたので間違いないと思う。
『にゃー……それを言い始めた前後で、なんか似たようなことなかった?』
「…………………………あ?」
『お、ビンゴ?』
「それをしえるが言い始める前の日くらいに、田中さん……ほら、受付の」
『あぁ、おばちゃんね』
「そうそう、田中さんみたいな『事務所の外側から見てくれてる人』にウチの子って言ってもらえると……APに居場所ができた感じがして嬉しいなぁって……」
『それじゃん』
「……それだなぁ?」
どっかで見てたのか、しえる……?
◆
『……というわけで、ウチの子発言はもうしないようににゃー』
「……はい」
……タマちゃんから連絡が来て、マホロさんがウチの子って言われて喜んでた理由がわかった。
そんな理由があったんだ……正直遠くて会話が聞き取りづらかったからわからなかった……。
(ということは今まで私がやってたウチの子発言は全部、頭がおかしいと思われて……?)
(…………………………恥ずかしい!)
うん、まぁ……どんまいしえる!




