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回想、デビュー配信

 ◇


 ……あらためて思い出すと、当時の俺がどれだけわかってなかったのかって話だなぁ。

 タマがあの時点でもうニヤニヤしてたであろうこととか。

 しえるが実はあの時点でもう俺のことに気付いてただろうこととか……。


 ——そして、伝説の幕が上がる。

 

 ねぇ、こんなこと自分で言いたくないんだけど?

 俺だって普通にデビューしたかったんだけど?

 ……いや、自分で言っといて誰に文句言ってるんだ俺は……。


 ◇


 ……ついに、俺の配信が始まる。

 先輩はフォローしてくれると言っていたが、できることなら迷惑は掛けたくない。

 ……特に、男バレだけは気をつけないと……!

 

 ——この時の俺は、本気でそう思っていた。

 うん、本当に本気で……本当だよ!


 「は、はじめましてじゃみなのもの! あなざぁぱんでみっく2期生、月見里マホロなのじゃ!」


 うーん、今思うとほんと酷いな。

 噛み噛みだし、声も震えてるし……社名もひらがなだし……。

 でも確か、社名がひらがなにしか聞こえないが凄いってコメントされてたっけな。

 ……たまにはわざとそう言ってみるのもいいかもな。


 ◇


 それからも、初配信らしい辿々しさなどはあるが、大きな問題もなく進んでいった。

 ちょっと危ういところもあったが、このまま無事終われるだろうと、油断していた。


 ・マジのロリ声なん?

 ・さすがに作ってんじゃね?


 そして、問題のコメントを拾ってしまった。

 ……当時の俺は『しっかりしなきゃ』とだけ考えていたから、『リスナーのコメントは全部反応しなきゃ』みたいに考えていたと思う。

 それが後の無茶に繋がるわけだが……今はいいか。


「わしはこれが地声なのじゃ! ……正直、この声はかなりコンプレックスだったのじゃ――」


 今なら笑い話で済むけど……当時は本当に辛かったからな。

 リスナーも悪意があったわけじゃないし、俺としても『そういうことがあった』くらいにしか説明するつもりはなかったし。

 

 ……そして、『俺』発言からのリスナー総ツッコミ。

 こうして、『月見里マホロは男』という事実がリスナーたちに知れ渡る。

 炎上、批判、会社に迷惑が……なんて考えてパニックになっていた。

 今なら多分……きっと、おそらく上手く流せると思うけど、当時の俺にそんな器用なことができるはずもなく。

 そこを救ってくれたのが、ゆら先輩だった。


「こんガオー! アナザーパンデミック1期生、迷える君たちをゆらゆら導く指導者ライオン、獅童ゆらだよ!」


 この頃はまだちゃんと自己紹介フルで言ってたんだなぁ……。

 いかん、変なところに感心してしまった。


「みんなごめんね? この子ちょっとズレてるところあるみたいで……」

「ゆら先輩に言われたくないんですけど!?」


 ……これ、配信見てるだけだと『元ゆら人だから』って受け取れるけど。

 実際は地獄のシゴキがあったからなんだよなぁ……。

 ……やっぱあいつらズルくない?


「それでね、マホロちゃんの性別については企業秘密ってことにしない?」

「企業秘密!? それもうバレてるのと同じじゃないですか!?」


 この時思ったこと、今でもしっかり覚えてるぞ。

 ——この人ほんと何いってんの!?

 結果として『まぁゆらママほどの人が言うなら』的な感じで炎上は回避されたけど。

 ……改めて思うとゆら先輩ってやっぱ凄い人なんだなぁ……。

 …………………………シゴキは許さんけど。


 ◇


 こうして『月見里マホロ』は毎日トレンドに名前が載るほど人気になりました。

 めでたしめでたし。


 ……これだけだったらまだ良かったはずなんだけどなぁ?

 誰もいないはずの部屋で、猫の鳴き声が聞こえた気がするのだった……。

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