回想、デビュー配信前・同期との顔合わせ
◇
……想像以上にゆら先輩が酷かった件。
いやわかってる、先輩は悪くない……環境、そう環境が悪かったんだ。
誰かひとりでもおかしいと教えていれば……誰か……社長ぉ!
教えとけよお前ぇ!?
「……ふぅ、落ち着こう」
そうだな、ゆら先輩からのシゴキ……地獄の特訓は話したことだし……。
次はあいつらとの出会いでも思い出すか。
◇
それは、デビュー配信の日取りが決まった日のこと。
「じゃあ俺が最初なんですね」
『あぁ、それと一応言っておくが……男というのは内緒でな』
「わかってます」
『まぁそこまで必死に隠すことではないから、『絶対に死守しなきゃ』みたいなことは考えなくていいぞ?』
「それはそうなんでしょうけど……」
だが、現状このAPは女性Vしか所属していない。
現に俺を除く3人は中身も女性と聞いてるし。
その場合、視聴者にバレた時の批判はどうしてもあるだろう。
……それで不利益を被るのが俺だけなら構わないが、会社や先輩に迷惑は掛けたくない。
……とか考えてたんだろうけど、今となっては完全に杞憂でしかなかったんだなぁ。
いや、バレないならそのほうが良かったんだろうが……結果としてバレたからこそ、今の『月見里マホロ』人気があるんだとすれば……。
…………………………いや、だいぶ複雑なんだけど?
『……やれやれ、まぁそこまで気にしなくてもいいということだけ覚えておけ』
「……わかりました」
『それから、デビュー前に顔合わせ……いや、声合わせ? しておくべきと思って、一応場を設けておいたが……どうする?』
「それ、俺に拒否権ないじゃないですか……」
すでに『用意している』なら、俺が断ったら社長にも相手にも迷惑でしかないだろ……。
◇
そうして行われた初顔合わせは、ディスコードで始まった。
「えーっと……『月見里マホロ』です、よろしくお願いします」
『かったいにゃー……『猫野タマ』にゃ!』
『…………………………』
あれ?
「どうかしました?」
『……あっ! い、いえ……『波亭しえる』、です……』
……あぁ、しえるはこの時点で俺に気付いてたんだな……。
あの時は『引っ込み思案な子なのかな?』としか思ってなかったけど。
今だからこそわかること、か。
『マホロっちもキャラで喋ればいいんじゃないかにゃ?』
「……そうだな、これも練習か……ん、んんっ……わしが月見里マホロなのじゃ!」
『完璧にゃ! 完璧なのじゃロリにゃ!』
『とても、かわいい……です』
「ありがとうなのじゃ、それで……わしが最初らしいが、ふたりはそれでいいのか?」
この時の俺は『ド素人の俺が最初でいいのか?』しか思ってなかったはずだ。
今思えば俺を最初にしたのは、タマの特性を理解してた社長の采配なんだろうとは思うけど……。
……まさかタマが元動画投稿者で、俺をネタに使うなんて誰も予想できないし……。
そう思うと社長もそれを理解してたか怪しいな……ただ単に『マホロ先発なら面白いことになるだろ』くらいしか考えてないんじゃないか……?
『あちしは全然オッケーにゃ、むしろ後のほうがやりやすいにゃ』
『わ、私も、特には……』
「そうか……なら任されようかな」
……話してみた感じ、ふたりとも年下っぽい気がするし。
年上の俺が先にやってあげて、安心させてあげよう。
◇
——とか思ってたんだけどなぁ?
そもそもトップバッターの俺がやらかしすぎて、安心させるとか言う問題じゃない……。
ふたりはふたりで、そんなことお構いなしに暴れてたし……。
いや、しえるは暴れてたわけじゃないけどさ……?




