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◇
……入院って暇なんだなぁ。
いや、倒れた俺が悪いんだけどさ……暇。
身体が動かせないからスマホも触れないし……。
そういえば、俺が起きてからしばらくして、社長が謝罪文をSNSに投稿したらしい。
先生が見せてくれたが……申し訳なさでいっぱいだ。
「俺が勝手に無茶して倒れただけなのになぁ……」
そうしてもやもやしていると、先生から提案が。
「なら、無事だよーってだけでも投稿しておくか?」
「……ぜひ!」
ということで、先生が代打ちしてくれて、無事投稿。
……医者の先生に何やらせてんだ、俺?
「ふっ、気にしないでくれ……私にとっても息抜きになるんでな」
「それならいいんですけど……」
っていいたいとこだけど、ここでサボ……息抜きしてるのは、いいのか?
「なぁに、何を言われたところで『患者の様子を見ていた』という言い訳ができるしな!」
「あー……」
……この人、常識人かと思ったら、そうでもないのか……?
「……そういえばマホロくん、これまでの配信、見せてもらったよ」
「えっ」
「医者の目線だと言いたいことは山程あるが……」
「が……?」
「配信者の目線だとまた違うのだろうから、私からは何も言わないさ」
「またそれですか……」
社長といい先生といい……。
「ふっ……自業自得だよ」
「ぐぅっ……」
「あるいは……君の人徳とでも言えばいいかな」
「俺にそんなもの――」
「おっと、それは流石にダメだと思うぞ」
「むぐっ……」
……ゆら先輩の涙を見た。
……夢で、あいつの涙も見た。
社長も、背負ってくれると言った。
「それから……そうだな、ひとつ大人としてアドバイスするなら……」
「大人って……俺もう――」
「私から見れば、君もまだまだかわいいおこちゃまさ」
……そんなめちゃくちゃ歳離れてるってわけじゃなさそうだけど……。
まぁ、医者って大変そうだもんな……人生経験の差ってやつかな?
「……まぁとにかく、私から言えるのは『サボるのは悪いことではない』、ということだ」
「え?」
「先ほど君は、私がここで息抜きしていることをサボりだと……悪いことだと思ったね?」
「そりゃ、まぁ……」
サボるのは、悪いことじゃ?
だってその分誰かにしわ寄せが行くんだから……。
「ふっ……社会ってのはなかなか大きいものでね」
「……何の話ですか?」
「まぁ聞きなさい、君ひとりが少し手を抜いたところで、大きな影響はないってことだ」
「……でも」
「やることなすことすべてに手を抜けと言っているわけじゃない、気を抜く時間を作りなさいって話だ」
気を……抜く?
「常に張り詰めている人間は、少しの刺激で壊れてしまう……君のように」
「……」
「余裕が足りないのさ、常に必死なだけの人間は、周りにも悪い影響を与えるものさ」
「それ、は……」
……わかってた。
会社勤めしていた頃、俺はコンプレックスである声を気にしていた。
からかわれた過去があるからこそだが、初対面の人にとっては……。
「コンプレックスを気にしすぎて、重たいやつって思われてたってことか……」
「それ自体は悪いことではないというか、周囲の人間の受け取り方の問題だからなんとも言えんがね……君自身の話じゃなくてもいい、そんな人が周りにいた事は?」
「……いました、新入社員の子で、毎日頑張っていて……1年待たずに……」
「それも、今思えばそんな人がいたな、くらいだろう?」
……確かに。
あの頃の俺は、そこまで周囲を見る余裕がなかった、ってことか。
「ま、君がそのことに気付いてくれたならそれでいい」
「……ありがとうございます」
「礼はいらんよ、これは私の息抜きだからな?」
「……ふふっ、そうですね」
「……ようやく、笑ったな」
「え?」
「この病室で目を覚ましてからずっと……どこか張り詰めていた気がしてな」
……あぁ。
「だからずっと、『サボり方』を教えてくれてたんですか?」
「そういうことだな……どうだ、凄い先生だろう?」
「ぶふっ……自分で言わないでくださいよ……」
「だが事実だろう?」
「そうですね……俺は、こんなに恵まれてたんで――」
「おっと、それは違うぞ?」
え?
「まぁ『今』優しい同僚や社長、医者に恵まれたことは事実だろうが……それで君の人生がなかったことにはならないぞ」
「……あ」
先生の言葉を聞いて……自分でもよくわからないが、涙が止まらなくなってしまった。
「大いに泣け、幸いここはプライバシーに配慮された病院だからな、君の涙を見ているのは……私だけだ」
……
…………
………………
「……お見苦しいところを」
「なぁに、大の大人が泣き喚いているところなぞ見飽きているさ」
……やっぱこの人、凄い人なんだろうな。
「……そういえば、社長と仲良さそうでしたけど……」
「ん? あぁ……簡単に言えば兄妹ってやつだな、別に付き合ってたとかではないぞ?」
「誰もそんな心配してませんよ……」
でもそうか、こういう特殊な病院って探すの大変だろうと思ったけど……。
「お兄さんが務めている病院なら、確かに相談しやすそうですね」
「ん?」
「え?」
「……私がここの院長だぞ」
「…………………………へ?」
院長……?
あ、じゃあ社長は院長の妹……?
……あれ、そういえばしえるって社長の妹、だったよな……?
「じゃ、じゃあしえるって……お嬢様……?」
確かに、おっとりした感じとか、凄くそれっぽいけど!
「そういえば君は確か……」
「え?」
「……いや、なんでもないさ……とりあえず、ここは私の病院だから、安心して休むといい」
「は、はい……」
別の意味で緊張が……。
「――院長~? どこですか~?」
「おっと、ついに呼び出しだ……私がサボっていたことは黙っていてくれよ?」
「誰にも言いませんよ……こちらこそ、話し相手になってくれてありがとうございました」
「ふっ……そこで素直にお礼が言えるのが、君の凄いところだと思うがね……」
「へ?」
「……なんでもないさ、お大事にな」
そう言い残して、先生……院長……先生でいいや。
先生は去っていった。
◇
「……適度にサボれ、か」
……俺は、怖かったんだろう。
配信を止めたら、休んだら……忘れられるんじゃないかって。
ただでさえVTuberなんて山程いるんだ。
たまたまバズっただけのVなんて、毎日でも配信しないと……って。
……そんなわけ、ないのに。
「俺を……月見里マホロを見てくれている人は、ちゃんといたのに」
……あぁ、そうか。
「これが……『月見里マホロらしさ』ってことなのかもな……」
多分、タマが求めていた答えじゃないかもしれないけど。
これが俺の考える……らしさってやつなんだろう。
「……それはそれとして、配信者としての武器も見つけないとなぁ……」
無茶がダメなのはわかった。
我慢してやるのがダメなのもわかった。
それでも……俺を応援してくれる人たちのために、頑張りたい。
きっとこれが、俺の武器になるはずだから。




