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 ◇


 目が覚めると、病室だった。

 ……俺、なんでこんなところに……?


「えっと、配信終了して……それからどうしたんだっけ……?」


 待てよ、今何時……うっ。


「げほっ、げほっ!」

「……っ! マホロくん、大丈夫!?」


 咳き込んだことで、すぐ近くにいたらしい女性が慌てて……あれ?


「……ゆら先輩?」

「……おはガオ~! ……よかっ、よかった……マホロくん生きてた……」


 ……生きてた?

 俺、そんなにヤバい状態だったのか……?

 さすがに大げさだろうと思って――ゆら先輩の目元に浮かぶ涙が、その思考を許さない。

 

「え、っと……ご、ごめんなさい?」

「っ……ほ、ほんとだよ、もう……もう!」


 ポカポカと俺を叩こうとする先輩だが、病人を叩くわけにはいかないのか、空を叩いている。

 ……そういえば先輩って体力おばけだっけ?

 どれくらい力があるのかわからないが、本気で叩かれてたら……。


「……マホロくん?」

「なんでもないです」


 するとその時、扉の開く音がした。


「おや、目が覚めたみたいだね?」

「先生!」


 先生……じゃあこの人が俺を診てくれたのか。


「初めまして……この病院は『患者のプライバシーに配慮した』病院なんだ、だから君のことも『月見里マホロ』として診させてもらうことを、あらかじめ伝えておくよ」

「えっと、ありがとうございます……?」

「……ふっ、そこで素直に感謝されると、調子が狂ってしまうね?」


 え、だってそれ以外に言いようなくない?

 理由は知らんけど、俺のことをマホロとして扱ってくれるってだけだし……。


「とりあえず、軽く診せてもらうよ……起きられるかな?」

「えっと……無理そうです……」


 全然身体に力が入らない……。


「まぁあれだけボロボロだったんだ……命に別状はないとは言ったけど、君次第のところはあったからね」

「えっ!?」


 先生の言葉を聞いて『初耳だけど!?』って感じでゆら先輩が驚いている。

 ……安心させるために、症状を軽めに言ったとか?


「勘違いしないで欲しいけれど、あの時点では君に伝えたことがすべてだよ」

「……はい」


 別にいいんだけど俺を置いて話を進めないで欲しい。

 俺の話だよね?


「先生、うちの子は本当に大丈夫なんですか!?」

「落ち着いてお母さん、今はもう意識もしっかりしてるから、大丈夫だよ」

「よかった……」


 誰がお母さんだ……そういやゆら()()だったわ。


「さて、マホロくんの話に戻るけど、身体に力が入らない以外は問題ないかな?」

「そうですね……話すのも問題ないですし」

「……君も、落ち着いてきたようだね」

「えっ?」

「まぁ無理もないさ、目が覚めたら目の前に涙を浮かべた先輩が幼児退行してるんだからね」


 幼児退行までは言い過ぎだと思うけど……。


「えっと……とりあえず、俺はこれからどうすれば?」

「どうもこうもないさ、しばらく検査入院だよ」

「ですよね……あ、お金とかって……」

「その心配はいらんぞ!」


 入院費用の話をしようとした時、扉がスパーン! といい音を立てて開いた。


「……病人がいるんだぞ、少しは静かにできないのか? 散華」

「はっはっは、すまんすまん! 私とお前の仲じゃないか、気にするな!」

「……はぁ」


 そうして姿を現したのは、我らがAPのボス、『別所 散華』社長だった。


「社長!?」

「あぁ良い良い、と言っても動けんだろうが」

「うっ……」

「マホロくん!?」

「だ、大丈夫です……」


 いかん、変なことしてまたゆら先輩に心配をかけるわけには……。

 

「とりあえずマホロ、お前の入院費用は当然ウチで全額出してやる」

「えっ!?」

「えっじゃないだろう、ちゃんと契約書にも書いてあるはずだが?」

「あれって嘘じゃなかったんですね……」


 確かに『配信業務に関わる費用の一切は全額負担』って夢のような内容だったけど。


「まぁ一般的な会社ではまず見んだろうから、疑問に思うのもわかるがな……」

「い、いや、そこまで疑ってるわけでは……」

「マホロくん?」

「はい、疑ってました……全額負担とか言ってもどうせ口だけだろうなとか思ってました……」


 だからこそ、余計に倒れたりしないように、穴を空けたりしないようにって考えてたんだけど。


「……それで我慢して倒れた結果が今だ、とりあえず受け入れておけ」

「はい……すみませんでした」

「まぁ良い、()()()()これくらいにしておいてやる」

「……はい」


 ……隣を見るのが怖いなぁ?


「散華、話が終わったのならさっさと出ていけ、君もな」

「えっ、でもまだ――」

「彼は目覚めたばかりなんだ、休ませてやるのもいい先輩だと思うが?」

「うぅっ……じゃ、じゃあまた来るね、マホロくん……」

「はい、また」


 そう言って先輩と社長は部屋から去っていった。


「やれやれだ……さ、今は少し眠りなさい……目が覚める頃に食事を持ってこさせよう」

「あ、はい……ありがとうございました」

「お大事に」


 先生も部屋を出ていったことで、ひとりになる。

 ……そういや今更だけど、一人部屋なんだな?

 これが『プライバシーに配慮した病院』ってことか。


「……ゆら先輩、泣いてたな……」


 女性の涙なんて、あんまり見たことないな……。

 涙か……そういえば、子どもの頃一緒に遊んでたあいつは、今何してるんだろう。

 引っ越しが決まって、それを伝えたのが最後だったっけ……。

 あいつも、泣いてたな……。

 そのことが頭に浮かび始めたが……。


 思ったより疲れていたようで、俺はすぐに眠りについた……。

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