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第百十三話 急げ王都へ

風が静かに吹き抜ける雲海の上で、あまりにも大きな話を聞かされた恒一は未だ頭の整理が追い付いていなかった。


そんな恒一を見ていたアルディウスが、ふと思い出したように口を開く。


アルディウス

『ところでコウイチ。お主達、そろそろ戻らなくて良いのか?』


恒一

「戻る?」


アルディウス

『王都へじゃよ。何やら競竜があるのであろう?』


その瞬間、恒一の動きが止まった。


数秒後。


恒一

「……あ」


レヴ

『どうした?』


恒一

「特別昇格レースだ!!」


恒一は思わず叫んだ。


竜王因子。


龍王因子。


真龍。


神話時代の真龍戦争。


そんな話ばかり聞かされていたせいで、頭から吹き飛んでいたのだ。


恒一

「やばい!本当にやばい!レースまであと何日だ!?」


神ジーク

「ほう。競竜か」


嫌な予感がしてジークを見ると、ジークの目が輝いている。


恒一は知っていた、あれは面白そうな事を見付けた時の顔だ。


神ジーク

「特別昇格レースと言ったか。面白そうじゃのう。儂も見に――」


アルディウス

『待て』


神ジーク

「何じゃ?」


アルディウス

『お主、まだ終わっておらんぞ』


神ジーク

「何がじゃ?」


アルディウス

『惚けるな。異世界からコウイチを連れて来た件、神眼を授けた件、そして何の説明もせず放置した件についてじゃ』


神ジーク

「忙しかったんじゃ」


アルディウス

『数ヶ月もか?儂はまだ納得しておらんぞ』


神ジーク

「今は競竜の方が大事ではないか?」


アルディウス

『全く大事ではない』


神ジーク

「即答じゃな……」


アルディウス

『コウイチ達は戻って良い。じゃがお主は残れ』


神ジーク

「何故じゃ!?」


アルディウス

『今から説教じゃ!!』


神ジーク

「嫌じゃ!儂は神じゃぞ?」


アルディウス

『だから何だ』


恒一

「じゃあ長老、俺達は戻ります」


神ジーク

「待てコウイチ!助けんか!」


恒一

「無理ですね!俺も被害者ですから!」


レヴ

『自業自得だ』


神ジーク

「お前まで!?」


ジークの悲鳴を背に、恒一とレヴは竜の郷へ向かった。


竜の郷へ戻ると、真っ先にミリアが駆け寄ってきた。


ミリア

「遅いわよ!二日も戻らないなんて聞いてないわ!」


エリシア

「本当よ。何かあったのかと思ったじゃない」


レオン

「まぁ無事ならいい。で、話は聞けたのか?」


恒一

「聞けたどころじゃないですよ……」


神話時代、真龍戦争。


竜王因子と龍王因子の正体。


全部話したら半日は掛かる。


だが今はそんな事を説明している場合ではなかった。


恒一

「それより特別昇格レースです!あと何日ですか!?」


レオン

「四日だな」


恒一

「やっぱりか!」


頭を抱える。


恒一

「まずいですよ!魔導飛行船で帰ったらギリギリじゃないですか!下手したら前日入りですよ!調整もあるのに!」


するとゼノスが豪快に笑った。


ゼノス

「ハハハハ!何を慌てているんだ?レヴナントがいるじゃないか。飛んで帰れば一日も掛からないだろう」


恒一

「……あ」


ゼノス

「まさか忘れていたのか?」


恒一

「忘れてたんだよ!!」


ゼノス

「ハハハハ!長老の話で頭がいっぱいだったらしいな!」


グランヴァルド

『今のレヴナントなら一日も掛からんだろう』


レヴ

『そうだな』


恒一

「いや、本当に何で気付かなかったんだ俺……」


ミリア

「私も言われるまで気付かなかったわ」


エリシア

「私も」


その場に苦笑が広がる。


バルド

「私はもう少し竜の郷へ残ります。交易について幾つかお話もございますので。後ほど魔導飛行船で王都へ戻るといたしましょう」


恒一

「バルドさんは残るんですね」


バルド

「ええ。その方が商会としても有益ですからね」


ミリア

「私は帰るわよ。ランキング戦も近いし」


エリシア

「私も一緒に戻る」


フェルド

『異論は無い』


ルミナス

『そうですね。私達も王都へ戻りましょう。エリシアもその方が安心でしょうし』


エリシアは少し照れ臭そうに笑った。


帰還組が決まったところで、今度はレオンが口を開く。


レオン

「俺も帰るぞ」


恒一

「どうやってです?」


レオン

「乗せてもらう」


恒一

「誰にです?」


その時、見覚えのある赤い竜が声をかけてきた。


赤竜

『レオンは私が送ろう。久しぶりに王都の空も飛びたかったところだ』


恒一

「赤竜さん!?」


レオン

「という事だ」


恒一

「いつの間にそんな話になってたんですか」


赤竜

『お前達が長老の所へ向かった後だ。どうせ戻るなら一緒で良かろうと思ってな』


恒一

「なるほど……」


これで帰還手段は決まった。


恒一がレヴを見るとレヴも静かに頷いた。


恒一

「よし。じゃあ急いで王都へ戻ろう」


レヴ

『飛行船で食った肉を食ってからだ』


恒一

「お前、本当ブレないのな……」


特別昇格レースまで残り四日。


神話の真実を知ったばかりだろうと関係ない。


今の自分達は競竜の世界を生きている。


次なる舞台は王都。


そして特別昇格レースだ。


――第百十三話 終――

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