14、俺の事、好きか?
だって、地位も権力もある殿方が何もないわけないじゃないっ!これまでたっくさんの美女の皆様から熱いアプローチを受けて来たに違いないわよっ!恋人の一人や二人くらいいないとおかしい男前ですしっ!
陛下ってお立場からして、様々な種類の女性が寝室にやって来るはずでしょうっ!
本人にその気がなくとも、寝室に忍び込んでくる女性の一人や二人はいて、いやもっといるよね。で、そういう女性と一夜の関係とか、結び放題でしょうっ!王妃の位を狙ってくる高位貴族のご令嬢とか、愛妾や側室狙いの皆様とか。いやいや、一度だけでいいからお傍に……って言ってくる侍女なんかも吐いて捨てるほどいるでしょうにっ!そのくらいわたしにだってわかることよ。わたしのためにそんな嘘なんてつく必要ないでしょう!!
そんなことを重ねて言えば。
「それは偏見だな。幾つになっても女性との経験など無い者はいる。まあ、俺も……これまであれこれとお誘いは受けて来たが、裸の美人と同衾しても全く以て反応しないのだから、致し方ない」
「は、んのう……?」
「率直に言えば、勃たんということだ」
あまりに直接的な単語に、流石のわたしも目が点状態だ。
「俺がこれまで唯一愛していたのはラヴィーニア・デ・スピネラーデだけだ。あいつが生きていればキスもそれ以上も毎日のようにしていただろうが、あいつ以外の女とそんなことする気には全くならなかった結果、経験皆無なまま、この年まで来ただけだ」
「へ?」
誰が、誰を愛していらっしゃると?
なんか今、耳がおかしくなったような……。
だって、あれ、メスゴリラですよ?わたしが自分で言うのだから間違いなく、恋愛対象になるような女じゃないですよ?
「という訳で、ラウラ。未知の領域は、今後お前と共に突破する所存だ」
「へ……?」
未知の領域……?
えっと、ってことは、つまり……。
「陛下……、本当に、ほんとーにっ!嘘とかじゃなく……童貞なのですか?」
わたしが淑女にあるまじきその単語を、思わずうっかり言ってしまった途端、周囲の空気はびしっと固まった。
フラヴィオ陛下は「嘘偽りなく、そうだ」と真顔で答えらえた。まじですか……。
失言と、わかっている。わかっているけれど、もうわたしの頭の中はパニックを通り越して訳が分からなくなっていた。
混乱極まりなくて、訳が分からなくなった涙目のわたし。
愛や恋なんて、そんなもの無縁で来たし、望んでもいなかった。
ただ、お傍で。フラヴィオ様のお姿を見ることが出来れば。それだけで最上の幸せなのに。
どうしてラヴィーニアみたいな女をそんなふうに思ってくださるのっ!トラウマを植え付けられたと怒鳴り散らされても仕方がないと思っていたのに何故っ!!
もう何が何だかわからない。
混乱極まりなくて、わたしは陛下に不敬な物言いをしているってことにも気がつかない。
なのに、フラヴィオ陛下は、混乱極まりない状態のわたしを、そっと抱き寄せて。頭なんかを撫ぜて。手が優しくて。それだけで涙が溢れ出しそうになるというのに。
「俺の事、好きか?」
子守唄を歌うような優しい声でそんなことを聴いてくるのだ。
「そんなの烏滸がましいです。わたしごときが、陛下を……なんて。陛下にはもっと素晴らしい女性が横に並ぶべきで、こんなわたしなど、」
わたしの言葉を、そっと遮って。
「国王じゃなくて、単なる一人の男の、フラヴィオ個人ならどうか?……なあ、俺の事、好きか?」
そんなふうに、聞いてくる。優しくて、愛おしくて……それでも情熱を感じる声音で。
はい、と。答えてしまいたくなる。
前世から、ずっと好きでしたと言いたくなる。
だけど、わたしは答えられないまま。
許容量や処理能力が限界突破。何が何だかわからずに混乱状態極まりなくなったところに「好きか」なんて聞かれて。
わたしは敵前逃亡、した。つまりは気絶した。
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