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第二十一章:午後のお茶会

-1-


日曜日の金倉は晴天に恵まれていた。


「射川~!!」


改札口から出てきたところで声をかけられる。


紫苑君だ。


桜色のパーカーを着ている。

一瞬明人と見間違えそうになってびくっとなるが

すぐに彼は別人なんだと認識する。


「竹人君!」


肩をぽんと叩かれる。


「愛理ちゃん」


「同じ電車だったのね?紫苑君もこんにちは。」


「こんにちは。」


と、少しはなれたところで入間と日向君が二人揃ってやってきたのを見つける。


「よ!」


日向君が手を上げた。


「やっほー」

紫苑君が無邪気な笑顔で挨拶を返す。


「結局迷ったけど来ちゃった」

入間だ。


あの後、星座守護神ですらない自分は行くべきかどうか迷った末

翼に誘われたこともあって今日、来ることになった。


「じゃあ僕が案内するね。本当は羽鳥さんが来る予定だったんだけど

僕、駅に用事があったからついでにみんなを連れてくるよって話したんだ。」


そう言って紫苑はバス停乗り場の方にみなを誘導する。


「あ!ちょうどバス来てる!!」


そのバス停には既にかなりの人の列ができていた。

それに並び

皆スイカをタッチしてバスに乗り込む。


車内は始発だというのに座れないほどに混んでいた。


「今日はお天気も良いしみんなお寺めぐりかしら?」

愛理がいう。


「こっち方面には鶴岡八幡宮もあるし、

あと羽鳥さんや僕の家の近くに

報妙寺とか竹寺で有名な浄国寺とかあるよ。」

「学校が金倉なのにじつはあまりお寺とか知らないのよね。」

「僕の学校では校外学習でお寺とか回ったりしたよ。」


そんな話をしている間に鶴岡八幡宮の赤い大きな鳥居が見えてくる。


この神社の奥に満天星学園がある。


見慣れた風景がバスの車窓に流れては通り過ぎて行った。


八幡宮をすぎたあたりから少し道が狭くなる。


停留所でバスが止まるとぞろぞろと観光客が降りていく。


「ここの近くが僕ん家だよ」

紫苑がにこりと微笑んで見せた。


「この次で降りるから」


今更ながら緊張する。


羽鳥先輩の家に行くのはこれがはじめて。


一体彼の正体はなんなんだろう?


アンドロメダ座守護神…?

12星座守護神よりも位の低いその他の星座守護神…。


12星座守護神ですら力が及ばないアポロンに羽鳥先輩は

説得していた。

人間の年齢的には勿論羽鳥先輩の方が立場は上になるだろうけど…

聖君はアポロンその人だ…。

その太陽神よりさらに上の星座守護神がいるのだろうか?


「射川?降りるよ?」

入間に促されはっとする。


気が付くとバスは次の停留所で停車していて

観光客と一緒に皆も降りていくところだった。


入間に続いてバスを降りる。


観光客らは

寺の看板の書かれた方向へとぞろぞろと歩いていった。


どっちかな?ときょろきょろと辺りを見回す。


細い道路の脇を小さな川が流れている。


紫苑君は左右を確認して道路を渡り

その川に掛かる橋も渡ったので皆も後に続いた。



観光客たちがその先の寺の前に集まっている。



そこには浄国寺と書かれた木でできた看板のようなものが立っていた。


僕らはその寺の脇を通り更に続く道を歩く。


やがて閑静な住宅街に入りかけたその時

「ここだよ?」


紫苑が足を止めてそれを指差した。


驚いて見上げる。


そこには立派な洋館が建っていたのだ。


「ここ?」

思わず聞き返す。


趣があってアンティーク…。

横浜の山手にある洋館を思わせた。


「やぁ!」

そこへ丁度建物の中から羽鳥翼が姿を現した。


「ようこそ、さ、上がって?」

翼に促され、みなは挨拶しながらぞろぞろと建物の中へと入った。


玄関はかなり広い。


自分の家の何倍あるだろう?と思わず考えてしまうくらいだ。


中に入ると脇に階段があり、それがぐるりと壁伝いに回り込み二階へと続いていた。


なんだろう…

西洋の洋館のような内装…。

凄くアンティークでおしゃれだ。


用意されたスリッパに履き替え

促された部屋に通される。


そこでまた思わず声を漏らす。


「わぁ…」


「ひろーい!」

愛理ちゃんだ。


細かい装飾が施された上品な応接セットに

きらきらとあめ色に光る茶色いグランドピアノ、

それに暖炉もある。

あとはお城とかにありそうな、

10人以上は余裕で座れそうな長いダイニングテーブル。

庭が眺め渡せるサロンまであって、

そのサロンのガラス窓の向こうには広大な敷地の庭が広がっていた。


「すげー…」

入間は小さく呟きながら僕らと一緒に室内をぐるぐる見渡す。


「ソファ…と思ったんだけど今日は人数が多いから

こっちでいいかな?」


そういわれてダイニングテーブルの方に座るように促される。


「あ、あの…これお菓子なんですけど良かったら」

そう言って持ってきた紙袋を羽鳥先輩に差し出した。


するとみなも続いて鞄の中などからそれらを取り出すと羽鳥先輩に

つぎつぎと挨拶しながら差し出して見せた。


「ああ…これはこれは…。みんな気を使わなくていいのに…。

じゃあ折角だからみんなで頂こうか?」


すると台所の方から背の高い男性がシルバーのトレーを持って現れた。

トレーには上品なティーカップとティーポットが乗っている。


「紹介するよ、僕の親戚の栂池翔つがいけ かけるさん。

小説家の仕事をしてるんだ。」


紹介されて栂池翔はトレーをテーブルに置くとぺこんと頭を下げて見せた。


「はじめまして、栂池翔です。よろしく」

挨拶され、みなもよろしく、と揃わない言葉をぽろぽろと零して見せる。


「日向君はこの前会ったよね?

今日は普段着なんだ?」


すると日向はにやりと笑って見せた。

「さすがに休日まで制服きたりしませんよー。

翔さんこそ小説の進み具合はどうですか?」


「もう脱稿して編集に出してあるよ。」


「新作楽しみですね、あ、みんな!

翔さん、推理小説家なんだよ。

あ、紫苑。お前小説読むだろ?翔さんの作品知ってるんじゃない?」


すると紫苑は顔に人差し指を当ててうーん…と考えるポーズを取って見せた。

「僕推理小説ってほとんど読んだことないんだ…

でもたまには推理小説もいいかもね。

あ、僕の友達推理小説が大好きなんですよ!

栂池さんの作品ももしかしたら知ってるかも!!」


「え?!ちょ…待って?!

栂池翔?!栂池翔って言った?!」

愛理ちゃんだ。


「そうだよ。」日向がにやりと笑う。


「ちょ!!大変!!本物?!

本物の栂池翔さんなんですか?!」

あまりに驚いたのか愛理は思わず席を立ってみせる。


「本人だよ。」

栂池翔がにこりと微笑んだ。


「ちょ!!みんな!!知らないの?!栂池翔よ!!栂池翔!!

この前シリウス賞受賞したじゃない!!テレビに出てたわよ!?

うっそー!!凄い!!

まさかここで本人と会えるなんて!!」


シリウス賞?

それなら聞いた事がある。

年に一度行われる有名な小説の賞だ。


それをこの栂池翔さんが受賞?

だとしたらかなり凄い話だ。


僕らがきゃいきゃいと騒ぐ中にこやかな笑顔を作りながら

栂池さんはみなのティーカップに上品に紅茶を注いで配った。


「皆さんからお菓子を頂いたんだ。翔君も一緒にどう?」

「あ…はい…ですが…」

「あ、うん。連れてきて?」

「はい。」


羽鳥先輩と栂池さんがなにやらやり取りをしつつも

二人してみなが持ってきたお菓子の包みを開けてゆく。


「お皿も持ってきましょう」

そう言って栂池さんは包み紙を束ねて台所の中へと消えて行った。


一気にお菓子と紅茶の甘い香りが広がる。


「これ、応船駅の駅ナカでみつけたの。

かわいいでしょ!!プチケーキよ♪」


愛理が得意げに自分が持ってきたお菓子の包装紙を解くと中身をみんなに

見せてみた。


「わぁ…かわいい♪」


紫苑が一番に反応し、目をキラキラとさせてみせる。


「俺はこれ。羽鳥さんが好きなレ・シューのお菓子です」

「あ!ありがとう!!僕コレ好きなんだよね!!」


「はい、お皿持って来ましたよ。」

そういいながら栂池さんは台所からお皿を両手に持って出てきたのだが

その後ろから小さな女の子がついて来て皆その子に注目する。


年は4,5歳くらいだろうか?

腰まで届く長い髪、それから白く細いりぼんを後ろにつけいて

瞳は大きくとても愛らしい顔をしている。


フリルやタックがたくさん付いたドレスのせいだろうか?

まるでアンティークドールの様な雰囲気をかもし出していた。


女の子も両手でお皿を持っていて、お皿の上には

色とりどりの美味しそうなマカロンが上品に乗っていた。


栂池さんはまず自分が持ってきたお皿をテーブルの上におくと、

女の子からマカロンのお皿を受取りそれもテーブルの上に乗せてみせる。


「琴ちゃん、おいで?」

羽鳥先輩に呼ばれぱたぱたと小さなスリッパの音を立て

彼の脇に引っ付く。


「紹介するよ、琴ちゃん。琴ちゃん?こちらは僕のお友達だよ?

みんなにご挨拶できるかな?」


すると琴ちゃんと呼ばれた女の子は恥ずかしそうにほっぺをピンク色にさせて見せると

やっと聞き取れるくらいの小さな声で「こんにちは」と挨拶してみせた。


それを頭をなでてほめてあげる羽鳥先輩。


まるで歳の離れた兄弟のように仲がよさそうだ。


その、琴ちゃんと紹介された女の子を抱き上げると

隣の椅子に座らせて見せた。

その椅子だけ子どもが座れる高さの高い椅子だ。


羽鳥先輩が琴ちゃんに構っている間にも

栂池さんは手際よくみなが持ってきたお菓子を上品なお皿に移し変えると

空っぽになった容器の方を束ねそれを持って再び台所へと消えた。


「今日はお客さんがたくさんで緊張しちゃってるかな?」

隣に座った日向が優しく声をかけた。


あれ?

日向君、彼女を知っている?

もしかしてここにも来た事があるのだろうか?

なんとなくはじめてここに来た他のみんなと比べて

落ち着いて見えた。


少しして栂池さんも台所から戻ってくると

琴ちゃんの向かいの席に着いて見せた。

羽鳥先輩がいわゆるお誕生日席。

そしてそのサイドに僕らが座っている。


「さぁ、紅茶が冷めないうちにどうぞ?」

そう促されみながいただきますといってカップに口をつけた。


ふわりと香る甘くて優しい香り、それに深みのある上品な紅茶の味が

口の中いっぱいに広がる。


「おいしい♪」

愛理がにこりと微笑む。


「お菓子もどうぞ?

そのマカロンとクッキーは翔君と琴ちゃんの手作りだよ?」


「わぁ…かわいいなぁ…これハリネズミさん?」

紫苑がクッキーを一つ手にして眺める。

他にも犬やうさぎなどいろいろな動物や生き物の形をした

可愛らしいクッキーが並ぶ。


「うん!おいしい!!」

紫苑がクッキーを頬張ると満足げに微笑んで見せた。


「みんながたくさんお菓子を持ち寄ってくれたから

なんだかティーパーティーみたいで楽しいね」


翼がティーカップを手にして言うとみながそうだね、と頷いてみせる。


「これおいしい!!ピスタチオマカロン?

これってどうやって作るんですか?ピスタチオの実をすりつぶすの?」


愛理がパステルグリーンのマカロンを手にすると

にこやかな笑顔を作って栂池さんは答えた。


「いや、ピスタチオペーストっていうのが売ってるんだよ。

それを入れて焼くだけだからじつは結構簡単なんだよ。」


「へぇ~。ふふ♪いっただきまぁ~す。

うん!おいしい!!

栂池さんって小説だけじゃなくてお料理も出来ちゃうんですね!!

素敵!!」


「ありがとう」


「お料理はいつも栂池さんが作られるんですか?」

「そう。僕は自宅で仕事ができるからね。

ご飯作ったり家事するの結構たのしいね。

で、その合間に息抜きで小説書いたり。」


「ま!うふふ」

愛理ちゃんは小説家と会話が出来てとても満足そうだ。


「あ?これ?お兄さんが取ってあげるよ!」

そう言ってちいさな手を伸ばすも届かない琴ちゃんの代わりに

日向が手を伸ばしプチケーキを取ってあげた。


「ぷぷぷ!!日向、今自分の事“お兄さん”って言った!!」

紫苑だ。


「な!!なんだよ!!何が悪いんだよ?

お兄さんでまちがってねーだろ?おじさんって歳でもないし?」


するとみながどっ、と笑ってみせる。


「琴ちゃん?日向おじさんがなんでも言う事聞いてくれるって!」

紫苑が日向をからかうように言う。


「…日向…おじちゃん?」


琴ちゃんが小さな声で呟いたので

みなが噴出して笑った。


「おいおい!!琴ちゃん!!俺、おじちゃんじゃなくて

おにーさんだからね?いい?

お・にぃ・さ・ん!!」

「おにいさん…?」


「そうそう!」


「日向君って実はちっちゃい子好き?

面倒見よさそうね?」

愛理が楽しそうに言う。


「そ…そうかなぁ?…

まぁ、ちびっ子嫌いじゃないし…親戚にもちっこいのいっぱいいるから…」


「なんか意外~!日向ってただの乱暴者ってイメージしかなかったから!!」

紫苑だ。


「んだよ!!何のとりえもない女みてーなお前に言われたかないね!

こう見えても一学期の期末テスト、学年で3位に入ったんだからな?

馬鹿にすんじゃねーぞ?」


「それに日向君はピアノも得意なんだよ?ね?」


「ええ~!?日向がピアノぉ~!?全然似合わないぃ~!!」

紫苑がオーバーにのけぞって見せる。


「そうだ、日向君がピアノで入間君と竹人君がバイオリンで三重奏できるね?」

ずっと黙りっぱなしだった僕と入間に向けて羽鳥先輩が話しを振ってきた。


「ちょっと~!羽鳥先輩!!私を忘れないで!!」


「ああ、じゃあ愛理ちゃんはビオラかな?」


「ええ!!ビオラ?!私弾いた事ないです!!

羽鳥先輩の方が弾けるんじゃないですか?」


「少しだけならね。でも…そういえば竹人君の演奏って聴いたことないなぁ…。

竹人君の演奏もそのうち部室に顔を出したとき聞かせてもらおうかな?」


「あ…僕ですか?あまり上手ではないですけど…」


「謙虚ねぇ!先輩!私なんかより竹人君や入間先輩の方が全然上手いですよ!!

入間先輩は春の演奏会でソロ弾きましたからね!」


「ああ!そうだね!!なかなか良かったよ!

ヴィヴァルディの春!

ホールに凄く音が響いていたものね。」


「いや…とんでもない。僕なんてまだまだですよ…

羽鳥先輩の足元にも及びません。」


そう言うと入間は恥ずかしげに照れて見せた。


「みんなで合奏してみたいね。日向君はピアノで…。

あ、紫苑君は何か楽器やった事あるのかな?」


「え?あ、いや…僕は全然…というか音楽が苦手で…。」


「紫苑はカスタネットとかトライアングルって感じ?」

日向がニヤニヤしながら言う

「あらタンバリンでもいいんじゃないの?」

愛理だ


「なんで打楽器ばっかりなのぉ?」

紫苑が不満げに頬を膨らませて見せた。


と、突如室内に電子音が鳴り響く。


「あ、ちょっと失礼。」


栂池さんが立ち上がって暖炉の上においてあった子機の電話を

手にして部屋から出て行った。


「入間君もどんどん食べて?」

羽鳥先輩が促す。


「あ…はい…」


緊張してるのだろうか?入間が紅茶以外に手をつけていないことに

今更ながら気が付く。


入間がクッキーを一つ手に取ったので

自分も同じお皿からチューリップの形をした可愛らしいクッキーを

取った。


チョコペンで可愛らしい顔が書いてある。


「これは琴ちゃんが書いたのかな?」


そういいながらチューリップの顔が彼女に見えるように向けてみせる。


「うん」

その言葉にちょっと恥ずかしそうに小さく頷いて見せる。


「かわいいね。食べるのがもったいないよ。

でも食べないともっともったいないね。いただきます」

そう言って一口でクッキーをパクリと頬張った。


「うん!おいしい!!琴ちゃんがチューリップさんにお顔書いてくれたから

すっごく美味しいよ!」


琴ちゃんは声には出さないが嬉しそうににこにこと微笑んで見せた。


そこへ何事もなかったかのようににこりと笑みを作ったままの栂池さんが

席へと戻ってきたのを羽鳥先輩がチラリと見やった。


「さて…そろそろ本題に入ろうか?」


軽く咳払いをして羽鳥先輩が一同をゆっくりと見た。


和やかだった空気が一気に静まり返る。


そんな中一人だけ美味しそうにクッキーを食べている琴ちゃんがなんとなく

微笑ましい。


「先日のアポロンとオリオンの件はもう済んだことだから今回は

触れないでおこう。

まず、何が起こっているのかをみんなに話しておかなくてはいけないね。


突拍子もないような話だから

いきなり理解しろとは言わない。

ゆっくりで構わないから

少しずつ分ってもらえれば嬉しいと思う。


まず、僕はアンドロメダ座守護神ではないんだ。」


では?あなたは一体だれなんですか?


きっと一同が同じ事を今心の中で思っているに違いない。


息を飲んだ。


「まずは琴ちゃんの話からした方がいいね。

琴ちゃんはね、星座守護神でも惑星の女神でもない、

今僕らがいるこの銀河系を守護する女神なんだ。

銀河系守護神といったらいいのかな?」


「…銀河系…守護神?」

紫苑が呟く。


「そう。

そして、僕は彼女のフィアンセ。

僕はお隣の銀河系を守護する者。

星に詳しい人なら分るかな?

アンドロメダ座方面にあるメシエ天体31番の銀河系、

アンドロメダ銀河。」


「あ…」

入間が声を漏らす。


どうやら入間はその“アンドロメダ銀河”の存在を知っているようだ。


「まだ少し先の話だけどゆくゆくはこの銀河系とアンドロメダ銀河は

統合することになっている。

だから…今いる守護神同士で結婚って事になるのかな?

それでね…まぁ…こっちの世界で言う婚前旅行っていうのかな?

二人して銀河系の中のあちこちの星を探索して回っていたんだ。

そしてこの地球にも立ち寄った。

けれど、何が原因か分らないけれど

時空のゆがみが生じて僕らは小さな人間の子どもの姿に変り、

この地球に落ちた。


運よく僕らを救ってくださった人がいて暫くその人の下で生活していたんだけど

ある日を境に琴ちゃんの成長だけが止まってしまった。

そして琴ちゃんは毎日同じ日を繰り返している。」


「え?どういうことですか?」

入間だ。


「ちょっと複雑な話になってしまうね。

琴ちゃんは成長と一緒に記憶も完全に止まってしまった。

毎日ある年の7月7日を繰り返し繰り返し生きている。

だから7月7日以前の記憶はあるけれどそこから先の記憶は一日立てば

消滅してしまう。

だから今日みんなとこうして会ったことも明日になれば琴ちゃんの記憶からは

消えてなくなってしまう。

そして琴ちゃんとは違って一日一日成長していく僕の変化に記憶が順応せず

毎日のように、貴方はだれ?って聞かれていて

いつもその説明から一日が始まってる感じだよ。

でもさすがに一生このままじゃまずいんだ。

銀河系守護神としての力も機能しなくなってしまう。

そうなったらいつか銀河系の星々の引力がばらばらにほどけてしまう。

すると外にあるブラックホールに引きずり込まれみなが消滅してしまうんだ。

勿論この太陽系だって例外じゃない。

そこで12星座守護神の力を集めて琴ちゃんの止まってしまった時を

動かせたら、と思って僕は星座守護神を集めだしている。

そんなところかな?」


「そう…琴ちゃんの記憶は一日しか持たない。

だから俺も何度か琴ちゃんに会ってるけどいつ会ってもこの年齢だし、

いつも俺の事を誰?と聞く…。

俺は十二星座守護神じゃないからあまり力にはなってあげられないけれど

それでも助けてあげたい気持ちはある。

だから紫苑や射川、七瀬先輩の力がどうしても必要なんだ…。

俺からも頼むよ…協力してやってくれないかな?」


日向が申し訳なさそうに顔に影を落として見せた。


「そうだったの…」

僕はやっとの事で言葉を漏らす。


「それは知らなかった…。

じゃあ…この指輪は?」


そう言って指輪の付いた左手小指を羽鳥先輩に見せるように上げてみせる。


「それは星座守護神の力が覚醒できるっていう目印みたいなものだよ。

この前もその指輪の力で日向君の足の傷を治せたでしょ?


その指輪には医術の神でもある射手座守護神の力が宿っている。

だからその気になれば力を使って地球上の人々の万病を治す事だって

可能なんだよ。」


「…え…そんな事が…」


驚いたが次の瞬間に頭に浮かんだのは弟、明人のことだった。


万病が治せる?


じゃあ…明人の病気も?


「ただその力は使えば使うほどなくなってしまう。

だから出来る限り琴ちゃんのために取っておいてほしいんだ。

もし万が一力が足りなかったら僕が十数年かけてきた努力が無駄になってしまう。


申し訳ないね。

僕らの勝手のために君たちを巻き込んでしまって。

できれば極力巻き込みたくはなかったんだけど…

僕は本来の力が使えなくなってしまって…今じゃただの人間同然。

だから頼れるのは力が使える星座守護神だけなんだ…。

頼む…どうか、銀河系を救うために僕に協力してくれないだろうか?」


そう言って椅子から立ち上がると羽鳥先輩は深々と頭を下げて見せた。


「や…やめてください、羽鳥先輩!!」

愛理だ。


「私たちにできる事なら何でもします!!」


「そうだよ!!乗りかかった船なんだし僕だって協力するよ!!」

紫苑も頷く。


「射川もだよね?」

紫苑がこちらを向いた。


しかし…言葉に詰まる…。


今回の件でどれだけ大変な目にあっただろうか?

まず向こうの世界に飛ばされて色々と酷い目にもあったし

戻ってきたら浦島太郎状態で2年留年。

そのせいで明人はぼろぼろになってしまうし…。


…明人…。



「あの…僕も出来る限り協力はします…。

けれど、一つ聞きたいのですが…12星座守護神以外も何かしなくては

いけないのでしょうか?」


「え?…いや…特にないと思うけど?

…ああ…弟さんの事を心配しているんだね?

大丈夫。弟さんの力を借りる事は多分ないと思うから。」


「…そうですか。ならいいです。

正直僕も色々と振り回されて疲れてしまっているところでもあるのですが、

僕はいいです。

でも、どうか弟だけは巻き込まないでほしいんです。」


「分った、約束するよ。君の弟さんは僕らのこの件には巻き込まない。

ただ指輪をしてしまっているのと記憶が覚醒してしまっているのは

今となっては取り消す事が出来ない。

けれど、全部片付けば弟さんだけでなく君らの指輪も

この力や向こうの世界の記憶も全て

消えるはずだからどうかそこは安心してほしい。」


「本当ですか?!」


「約束する。」

羽鳥先輩がにこりと優しく微笑んでくれたので

それをみてほっと安心した。


良かった…。

じゃあ…この仕事が片付けば明人が持っているリィーンの記憶も

僕のイネ=ノの記憶も消えて今までどおりの日常を取り戻せるんだ!!


「竹人君は本当に明人君思いね。」

愛理がにこりと微笑んで見せた。


「あ…そういえば…

佐藤聖君と美月さんは他の使命があるって言ってましたけど

今回の件とは関係ないんですか?」


「うん?ああ…いい勘してるね。

ふたりには琴ちゃんのサポートをしてもらっているんだよ。

銀河系が滅びたら二人の惑星だってなくなるからね。

全力でサポートしてくれるって言ってくれえているから

彼らは敵じゃなくて仲間と認識していいよ。」


「ああ…そうだったんですか…」


ずっと疑問になって絡まっていた事が

一気に解けてすっきりした。


そうだったんだ…。


なるほど…。


全てが一本の線になって繋がる。


「ついでに言うと僕はペガスス座守護神だよ。

改めて宜しくね。」


栂池翔が言った。


「え?!」

一同が声を出して驚く。


「他にもまだたくさん星座守護神がいるから

彼らにはまた日を改めて紹介するよ。」


そう言って羽鳥翼は満足気に微笑んでみせた。


-2-


月曜日。

昨日とは打って変わって朝から雨模様。


それに気温も低い。


傘を持つ手がかじかむ。


昇降口で内履きに履き変え

音楽室を目指す。


今日も朝練があるからだ。


それにしても昨日の話…。


スケールが大きすぎてすぐには羽鳥先輩が言うように理解するのは

難しいがここまで巻き込まれてしまっている以上どうしようもない。


紫苑君が言うように乗りかかった船、下りるわけにはいかなそうだ。


と、

目の前を女子生徒が横切った。


真っ黒な長い髪をなびかせ…。


え…?


ちょ…?


え?


ええ?


「秋桜ちゃん!?」


思わず叫んだ。


すると突然名前を呼ばれびくりと肩を震わせてから

彼女はこちらを振り向いた。


間違いない…。


満天星の制服を着た天妙寺秋桜がそこにいた。


「な…なんで?!なんでここに秋桜ちゃんがいるの?

だって都内の女子校に通ってたんじゃ?」


「あら竹人君知らなかったの?」


後ろからやってきた愛理が僕の肩をぽんと叩いて見せた。


「彼女、小学校卒業と同時に金倉に引っ越してきたのよ?

で、学校も変えたって訳。そうよね?」


愛理の言葉に秋桜は無表情のまま黙って頷いて見せた。


そんな秋桜ちゃんの左手小指には、ブルーの石がついたシルバーリングの

指輪が…。


昨日は一瞬晴れ渡った心だったが、

再び不安の渦が心の中で渦巻きだしていた。


また大切な人を巻き込んでしまった。



―オリオン座編終わりー


続く。


2014/02/25


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